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とにかく答えの出ないような事をグダグダ考えるのが好き。
あんまりいい傾向じゃないと思うんです。そういうの。
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健康診断を行う事になった。
これまでもやっていたが最後の前にもう一度、という事らしい。
最初に佐鳥とまひるが出ていく。
「『最後』だとか『ダイブ』だとか、そういうのに音菜とか佐鳥とかは関係しているのか?」
よくわからない。
なので一緒に白い部屋に残る事になったまひるに聞いてみれば何かわかるのかな、と安直に聞いてみる事にした。
「んー、私達はぁ、あの沙夜さん? って子の頭の中から、出てきているからぁ。だからぁ、そのぉ、私達の事を調べるのは、沙夜さんの心を調べることにも間接的に繋がるっていうかぁ。そういう事なんだと思いますぅ。これから『最後』の『ダイブ』の前にぃ、やっておきたいんだと思いますぅ」
「だから『ダイブ』ってなんだよ?! まずそいつが意味わからん!」
「んぬぅー、『ダイブ』っていうのはぁ、先輩の見てた、夢の事ですよぅ?」
「夢?」
「先輩は今まで、沙夜さんの意識の中に入って、その中で夢を見てたんですよぅ。沙夜さんは外界の情報を遮断してたからぁ、沙夜さんはずっと夢を見てるんですけどねぇ? いっつも夢を見てる夢見のプロさんの所にぃ、ちょっぴりだけ弱い意識を間借させてもらってぇ、影響を与えられていたんですよぅ。ベースが沙夜さんでぇ、その中で夕哉さんが行動していたんですよぅ」
「どうやってそんな事を……」
「んにゅーぅ、難しい事はよくわからないですけどぅ、夕哉さんはおねんねしている時に沙夜さんの深層意識の中に『潜って』いたんですよぅ」
「それで『ダイブ』か」
潜るから、ダイブ。
他人の、沙夜の意識の中に。
潜るから、ダイブ。
「そういう事なのですぅ」
「ていうかお前ら何者だよ!」
「うーん、沙夜さんの考えた人間? キャラ? みたいなぁ」
「沙夜が考えた?」
「それが現実にカタチになってるんですぅ」
「ありえない」
「できるんですよぉ。『セカイ』システムを使ってぇ」
「セカイシステム?」
この期に及んで新設定は勘弁していただきたい! おかれている現状が非現実的なだけに、オカルトやSFが入りこむ余地はないはずだった。
「簡単に言うとぉ、考えている事がそのまま現実になる、みたいなものなんですぅ」
「頭の中で考えてる事なんでもかんでも現実になったらキリがないだろ」
「だから、それを制御する為の『セカイ』システムなんですよぉ。脳に埋め込まれた端末からの情報を制御してカタチにするのが『セカイ』システムなんですぅ」
「その情報はどこから手に入れた?」
「沙夜さんの頭の中には、絵美さんもいますからぁ。関係者の情報がフィードバックされてきているんですぅ。それを、沙夜さんが理解しているとは思えませんけどぉ」
ふむ……。考えても仕方が無いか。狂言か、どうか。僕には判断しようも無い。ただ、僕一人を騙す為にみんなで変な事を言っているだなんて、おかしい気もする。
まあ、とりあえず信用してみる、テストかな。
僕が人の言っている事をなんでも信用するようになっているからなのかもしれないけど。とりあえず、なら、いいんじゃないか。
「『最後』っていうのは?」
「さっき言ったように、夕哉さんは沙夜さんの深層意識の中に『ダイブ』、潜りっこさせてもらってたんですぅ。だからぁ、夕哉さんの行動は、沙夜さんの意識に少なからず影響を与えているはずなんですぅ。もちろん沙夜さんは『黒神様』に取り憑かれていますしぃ、深層意識は沙夜さんの方を使っているのでぇ、精神力的なものは全然沙夜さんの方が上なんですけどぉ、それでも『ダイブ』ってのは、お互いに影響を与えるものなんですぅ」
「それで?」
「だから、『最後』っていうのは、そのぅ……」
僕はさっき絵美さんと話をした時の事を思い出した。
「今日の夜、最後の『ダイブ』があるの。彼女の精神に決定的な絶望を与えて完全に内側に閉じ込めて、二度と目覚めないようにする処置を施すのよ。外部刺激が一切無い状態でも人間を生みだす事ができる状態になっているのなら、その状態で保存しておくのが一番いいから」
その『ダイブ』をする人間っていうのは、僕の事なのか?!
「僕に『ダイブ』させて、沙夜に『決定的な絶望』とかいうのを与えて二度と目覚めないようにする。そういう風にするつもりなのか」
「そうみたいですぅ」
僕に引導を与える役割をさせるっていうのか。
……酷な事させるなあ。
「『ダイブ』しない、なんて方法はないよな」
どうせ僕には選択権なんて与えらていないのだろう。
「それは無理だと思いますぅ」
やっぱり。
だけど。
「だけど、僕は絶対にそんな事はしない。例え無理やり『ダイブ』させられても、絶対に沙夜にそんな事はしない」
「でも、先輩は、夢の中で私達の事、たくさん殺してたじゃないですかぁ」
「あ、あれはまだ気付かなかったし、君達の事知らなかったから!」
いや、知らなかったから殺すだなんて、おかしな話だ。そしてそれは当然のように指摘される。
「私達の事知らなかったから仕方が無かったって、そう言うんですかぁ?」
そう言うというか、言ってしまったというか。
「人殺しがダメだって事くらい、私達の事知ってるか知ってないかに関係なく、なくてもわかりますよねぇ?」
そう、なんだけどねえ。
だって、どうして君達を殺してしまったのか、おじさんにはわからんのだよ、とジェネレーションギャップを脳内で演じてみようとするほぼ同年代の少女を眼前にしている男。
「あの世界では、先輩はダイブしている人の精神に影響されて行動してしまうんです。認識も記憶も道徳も全部。先輩は沙夜さんの事、会っても気付かないかもしれません。もし覚えていても、沙夜さんを殺す事を悪い事だなんて、思わないかもしれません。それでも先輩は、沙夜さんに『決定的な絶望』を与えないって、そう言えるんですかぁ?」
「言える」
僕は即答した。その方が強い決意を表せると思ったから。
「僕は沙夜に『希望』を与える。『決定的な絶望』は、与えない」
「どうして、ですかあ?」
「どうしてもだよ」
「それは答えになっていませんよォ」
当然の指摘をされるそして再び同じ疑問文が彼女の口中から発せられる。
「どうして、ですかあ?」
「どうしても、だよ」
それ以上細かい問いを遮るように僕は言った。
理屈じゃないんだ。
僕は「彼女」を守る。それだけだ。
「さっき言ったと思いますけどぉ、私達は沙夜さんの脳内活動によって生まれているんです。だから沙夜先輩に『決定的な絶望』が与えられたとしても、私達は先輩から離れなくて済みます。私が、私達がそばにいてあげるだけじゃ、ダメですかぁ? 私、先輩に無理、して欲しくないんです。夢の中で頭がおかしくなっちゃったら、もう会えないかもしれないですしぃ」
そうしてそっと手を握り締められる。だけど僕は、
「ごめん。僕はまひるちゃんも皆もすごいかわいいと思う。だけど、あいつの事見捨てるだなんて、それだけは、絶対できないんだ」
まひるは少し悲しそうな顔をしたが、すぐに泣きそうな笑顔を作ると、
「わかりましたぁ、頑張ってくださぁい」
音菜が戻って来て、まひるが健康診断の為に部屋から出ていく。
「ダイブについて聞きたい」
単刀直入に音菜に切り出す。
「どうしたの? 突然」
「突然も忽然も無い。僕がこれから沙夜を救う為にさせられる『ダイブ』ってのを知っておく必要があるんだ。敵を知れば~っていうだろ?」
「百戦もしてるようじゃあなたの心もとっくに壊れてるでしょうけどね」
「てことはまだ僕は壊れてはいないんだ。良かった」
「何安心しているのよ。完全に壊れてはいないっていうだけで、十分歪んでるわ」
「歪んでるくらいならみんな生まれた時から歪んでそうなもんだから、まあいいんじゃないかな? あんまりにも綺麗な心とかいうのを持っていたら、綺麗過ぎて周りが付いていけなかったりしそうなものだけど」
「難しい事いうのね」
「最近ね、哲学に凝ってるんだ」
誰の影響だかしらないけど。
「それって哲学っていうのかしら?」
「なんでもいいよ。とにかく答えの出ないような事をグダグダ考えるのが好きになってきてるってだけ」
「へえ」
「そんな事より、ダイブについて教えてよ」
「えっと、そう言われても何を伝えればいいのかわからないんだけど。どこまで知っているの?」
「僕が沙夜の精神に送られて、そこで沙夜に『決定的な絶望』を与える事になっているらしいって事だけ」
「それで、あなたはその運命から逃れたいと?」
「うん、そりゃ、まあ」
「どうしてそうしなきゃいけないの?」
「だって沙夜は幼馴染だし、大切な人だから」
「私じゃ、私達だけじゃだめなの?」
なんだかまひると同じような質問を僕に投げかけてくる。
「ごめん、どうしても沙夜の事は助けたいんだ」
佐鳥との会話を得て、僕は夢へと向かう。
※絵美との会話
「心の準備は大丈夫? 今日で最後のダイブになるけど」
その言葉に対して僕は一睨みする。しらじらしい。何が「大丈夫?」だ。全然、
「大丈夫なわけ、ないじゃないですか」
「そうなの?」
「でもどうせ、なんて言おうが絵美さんは僕に『ダイブ』させるんでしょう? どうせ僕には選択しなんてないんだ。」どうせ、どうせ、どうせ。
その言葉を聞くと『何故か』絵美さんは嬉しそうに、
「その調子なら、大丈夫よ」
動画にして生放送したら大ヒットするんじゃないかと思われるくらいにはニコニコとした笑顔になる。
最近の若者はニコニコ動画さえ見なくって。
ってもずやさん逆上するってマンガに書いてありました。




