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マテリアル・エレメント 短編集  作者: 高城弥平
隠者の信託~thirdDay~
8/30

thirdDay 1

 2062年 4月8日 所 山! 時、午前4時前


 「15分前行動たァいい心がけじゃねぇか!」

 

 そう言って木製の扉を開け出迎えてくれたのは巨大な某RPGの最底辺雑魚キャラ兼マスコットのような存在のアレをかたどった巨大な帽子の少女、雁金悠乃(かりがねゆの)と、その少女のうちに宿る正の《隠者》、ハーミットだ。

 

 「よく来たのう、椋殿」

 「おはようございます雁金さん、ハーミットさん」


 夜明け前でまだ薄暗く静かな森の中。辻井椋を含めた3人は、森の中に佇む巨大な一本の大木、その上の結構な面積のあるツリーハウスにいた。


 これだけ巨大でしっかりとした木に、これだけ大きな家をどうやって立てたのだろうか。少々疑問点が多くぶかぶ光景なのだが、そんなことを言ってしまったらどうしようもないのでとりあえずツッコミは控えておく。


 「あー。アレだ。さん付けはやめろ!気持ち悪い!!」


 見た目若干10歳程度の少女は包帯に覆われた左側の頬を人差し指で何度かカリカリと掻き、むず痒そうな表情を浮かべている。

 しかし実年齢はファンタジックな約500歳な訳でそんなことを言われても素直に呼び捨てなどできるわけもない。

 

 「えっと…………じゃあ……なんて呼べば………?」


 不安定な梯子の上で春の夜明けの冷たい外気にさらされながら雁金さんに尋ねる。

 いい加減中に入れてもらいたいものなのだが、この話が終わるまでその気はないらしい。


 「そうさね……………………」


 悩みだす少女。そんな暇があるのなら室内に入れていただきたい少年。


 「…………………師匠」


 ボソッと呟く雁金さん。それに続くように耳を塞ぎたくなるような大声で幼女は叫んだ。

 

 「師匠!そう、師匠って呼びな!!」


 鼻息荒らげたからかにそしてなりより自慢げな表情で少女はしゃがみこみ、足元のはしごに捕まっている少年に向かい続けた。

 

 「今日からアタイはアンタの師匠だ!本当に戦闘指南してやるんだから間違いじゃねぇだろ?」

 「えぇ………はい……まぁ……」


 彼女のテンションに早く起きすぎた椋はついていけず、適当な返事、そして話を聞き流してしまう。


 「そんなことより寒いんで上げてもらっていいですか?雁金さん(・・・・)…」


 ドンッ!!


 と顔面に衝撃が走る。


 「師匠って呼べっつただろクソガキぃ!!」


 少女から蹴り出された足技は、椋の頭部を的確に捉え、めり込ませた。

 あまりにも不意打ちだったせいで、体から自然と力が抜ける。気づけば先程まで掴んでいた梯子も手放してしまっている。


 そういえばこの木結構な高さあったよな?的な思考を張り巡らし始めた頃には既に落下が始まっていた。


 「おう!のォォォォォォォォおおお!」


 ○~○~○~○



『光輪の加護』を展開させることにより、どうにかこうにか落下から身を守る子は出来たわけだが、さすがに冷や汗ものだ。あんな些細なことでここまでされるのであれば気が気ではない。

 とりあえずツリーハウスの中に上げてもらい、玄関を抜けた先にある長く背の高いテーブルの前まで歩く。


 「次師匠って呼ばなかったら破門だかんな!!」

 「は……はい……」


 と、とりあえず返事は返す。苦笑いもできなのだが。




 そう言って雁金さんはキッチンから白い液体の入ったグラスを二つ持ちこちらにやって来る。

 「いい加減諦めんかユノ……。牛乳など飲んだところでオマエの身長はのびんぞ………」

 

 テーブルの上に座る小さな老人が牛乳を見つめ呆れたような声音を漏らす。


 「ルセぇ!少しは抵抗させろ!」

 「まったく…………」



 背伸びしながらそのテーブルにそれを置く雁金さん。無理するくらいなら背の低いテーブルにすればいいのにと思うが口に出したら殺されそうな気がするので言わない。絶対に。


  「とりあえず座りな」

 

 そういった雁金さんも自らの横にある自分の肩ぐらいまである椅子に飛び乗るように座る。

 こういう時は向き合うように座るのが無難だろうという判断でとりあえず少女の正面に「失礼します」と一言入れてから腰掛ける。

 

 「まずこれからアンタにやってもらうことは大きく分けて3つある」

 「はい…」


 そう切り出す雁金さん。


 「一つ。椋、アンタが《愚者》から出された課題をクリアすること、つまりは精神的なトレーニングだなそっちはミットに担当してもらう。もう一つは肉体的トレーニング。こっちはアタイが担当するよ」


 突飛な話でついていけないわけだが、そんなことを気に求めない雁金さんは続ける。


 「まぁ数日しかねぇみたいだから仕上げまではできねぇかもしれないが、やれるところまでやろうぜ」

 「はい………」


 とまぁ乗せられるがままというか、なんというのか。流されるままか…………。


 「どうせ学校に行ったあとでも訓練はするんだからな!」

  「……………………へっ?」

 

 雁金さんの口から放たれた発言に思わず疑問を飛ばしてしまう。


 「へっ?じゃねぇよ!!それから入学した後もちょいちょい呼び出して訓練つけてやる!!」

 「4日間じゃ終わらないんですか!?」

 「ったりめぇだろ!!」


 雁金さんの喝を頂きシュンとなる椋。それに対し、隣に座るハーミットは何も言わず可哀想な(と言ってもローブに隠れて表情は見えないのだが)目でこちらを見てくる。

 やめてくれ!そんな目で俺を見ないでくれ!


 「そういえば師匠。やることって3つあるって言ってますたよね?もう一つってなんなんですか?」

 

 不意に浮かんだ質問を雁金さんに投げる。まだこの呼び名は二三度しか使っていないが見た目弱冠10歳の少女と師弟関係をむすび、その少女を師匠と読んでいるんだと思うと少々悲しくなってくる。


 「ん?ああ、それはアレだ!《愚者》が目覚めてから話すよ」

 「そうじゃ。今は与えられる課題を着実にこなそうではないか、椋殿。」


 不意に割り込んできた《隠者》が話題を濁し、あやふやなまま質問タイムが終了する。


 「そうですか…………………。あ、キッチンお借りしますね」

 

 諦めも肝心とはよく言ったものだ。仕方ないで事を収め、そう言って飲み終えたグラスを持ち、キッチンに向かう。スポンジを手に取り雁金さんのものと、自分で使ったグラスを丁寧に洗い、綺麗に乾拭きして元あった位置に戻す。それにしてもどこから電気を引いてきているのか?水道はどのように調達しているのか?森の奥に存在するこのツリーハウスには謎ばかりだ。

 

 「おい椋!今何時だ?」

 

 雁金さんがキッチンにいる椋に背を向けながらそんなことを尋ねる。

 もちろんわからないでは済ませれないことなので、携帯電話を起動させ時間を確認する。現在の時刻は4時07分。


 「だいたい4時10分ですね」


もうここに来て20分以上経っている訳だがこのタイミングでようやく気がつく。この家には時計がないという事に。

 

 「よしッ!そろそろ始っか!」

 「うっす師匠!!」

 

 自分でも思っていた以上にノリノリだということにも気がついてしまった。こんなとんでも展開に胸を躍らせているということを自覚してしまったのだ。

 少々の恥ずかしさを覚えながらも、これから始まる特訓をこなしていくという覚悟を胸に刻みつけた。


 



 


 

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