secondDay 4
〇~〇~〇~〇
風景は戻り、再び自分の家のもとの場所に、そう、ハーミットの手を握った時と全く同じ位置に。
「……ハッハハハ!!」
聴覚情報が戻ったのか、突然横から雁金さんの笑い声が聞こえてくる。
テレビの音がそれに続き聞こえてくる。
先程の黒い空間でかなりの時間が経過していたはずなのだが先程のバラエティー番組がまだ続いている。
「んお?帰ってきたのか」
「うむ。話は着けた」
そんな二人(?)なにもないような会話のテンションに正直ついていけないというのが椋の現状である。
「なに呆けてんだよクソガキ…」
そんな椋の耳に雁金さんのあきれ声が届く。
「いや、なんか色々とありすぎて…」
先程ハーミットに見せられた雁金さんの過去の話もそうだが、先程の異空間の事も、色々と椋の頭のなかを掻き乱していたのだ
「椋殿、フールのやつから≪ワシら≫についての説明は受けたかの?」
「いえ……そんなに詳しくは…」
ありのままを伝える。フールから聞いたのは彼自身の目的だけ。≪愚者達≫の存在を知ることが出来たのも真琴のお陰だ。
「ふむふむ、なるほど…。まぁフールはそういう奴じゃからの…。因みに先の異空間はワシとユノの心の中、心内空間と呼ばれるものじゃ」
「心内空間…?」
「そう、≪ワシら≫は憑代との間に深い絆で繋がれておる。それを象徴するのがあの空間じゃ」
「絆…」
「そして現実時間の1秒は向こうの空間では250秒。つまり現実の250倍の世界じゃ」
「250!?」
老人から発せられる驚愕の発言に椋も素直に驚く。そして妙な納得感に包まれる。
異空間から脱出した時に雁金さんが見ていたバラエティ番組が続いていたことも、なんとなく頷ける。
「まぁそんなことはどうでもいいんじゃ」
仕切り直すようにハーミットは言う。
「椋殿、これからの椋殿の予定を教えていただけるかの?」
「予定ですか?学校が始まるまで………今日を含めて4日間は何も予定はないです」
「学校とな?ちなみにどこの学校に行くんじゃ?」
と、そこらのおばちゃんの近所話の様な感覚か、ハーミットが訪ねてくる。
「花車学園です」
「おぉ、それはスゴイ。最近の子供の希望進路第一位の能力者高校によく入れましたな」
「ほとんど《愚者》のおかげですよ」
そんな椋の発言に≪隠者≫は少々訝しげな表情を浮かべ、続けて尋ねてきた。
「そういえば椋殿のナチュラルスキルは如何様なものなのじゃ?」
結構意外な質問に答えていいものか迷ってしまう。
理由は実に明白だ。
《愚者》の目的、他の《愚者達》から分割され奪われた自身の力を取り戻すこと。
それを可能とするのは『愚かな捕食者』があるという前提での話だ。
はてさて、この《愚者》の目的は他の《愚者達》に話してもいいものなのだろうか?
そもそも《愚者》が力を持ちすぎたことが原因で奪われたとかどうとかなわけで、それを返還する義務は他の《愚者達》には存在しない。むしろ返還すれば再び《愚者》が力をつけてしまうわけで、それを望ましくないと思うものいることだろう。
「それは……話さなければいけないことですか?」
一応フールに確認をとってからの方がイイ。むやみに話していいことではないということくらいは自覚しているので、とりあえず椋は一度隠そうと試みているわけなのだが。
「ふむ…そうか答えたくないか…」
「はい………」
「…………………では刑法」
「脅してますよね?確実に脅してますよね?」
続きの答えが完全に予想できるものだったので急いでその発言を中断させる。
この老人、温厚に見えて腹黒い。出会ってまださほど時間が経っていないのにそれを理解できた。
「そこらへんにしてやれミット………」
はぁとため息をついた雁金さんが、ローブを身に纏った老人にそう語りかける。
テレビにはいつの間にか終わっていたのかバラエティ番組のエンドロールが流れている。それが流れ終わる前に立ち上がっり手近にあったリモコンを使い雁金さんがテレビの電源を切り、そのまま小さな体で椋に向かい大きな足音で近づいてくる
「こういうのは体で直接聞いたほうが速ぇんだよ!!」
今まさに昇竜拳でも使うんではないかというほどに彼女の拳に気が溜まっていく。これはヤバイ。直感的にそれを理解する。
「はい、すいません……。『愚かな捕食者』と申しまして……はい。他人の能力を吸収し使うことが出来るといった仕様になっております……はい……」
逃れようがない現実を直視すると、見えてくる答えは確実に自白という二文字しかなかったわけなのだ。
「ほう……」 「おぉ…」
二人(?)が声を揃えて少々の驚きの様子を見せた。
「そんなに驚くことですか?」
「いや、そんな能力もあるもんなんだなと……」
と雁金さん。
「《戦車》の奴の次世代能力とは言え変わり種は存在するもんなんじゃの」
それに続いてハーミットまでも驚きから関心に変わった感想を述べていた。
「見せてはもらえんかの?」
そう言ってきたのはハーミットだった。
興味津々……という表情は見せていないが声音出なんとなく期待しているということは分かる。
雁金さんもかなり興味があるようで、少々瞳を輝かせながらギュッと拳を構えている。
拒否権は存在しないと…………………。
「すいません……今この『愚かな捕食者』は《愚者》に封印されてるんです……」
正直に告白する。ここで嘘をうまく突き通せる自信がないからだ。見た目ではなかなか判断をつけにくいが解かる。この二人にはそんなものが通じるとは思えないのだ。
「封印……?なんでまた?」
雁金さんが拳を降ろし素の疑問を投げかけてくる。
「昔……と言っても僕がかなり小さい頃に色々あったらしくって……その時に能力が暴走しないためにナチュラルスキルを。それを誘発させないために脳内のナノマシンの活動を……つまりは人工結晶の使用をできないようにしたんだそうです………」
「ほえぇ………じゃあアンタまだ一回も自分の能力も人工結晶も使ったことがないのかい」
「まあそういうことですね」
ほえぇとまた不思議な感嘆をしている雁金さん。そんな彼女に続くようにハーミットからも質問が飛ぶ。
「能力の詳細を教えていただけませんか?」
「詳細ですか?えっと…………………どんなことを聞きたいんですか?」
そんなこれまで使ったことがない……………いや、出丘との戦闘のあとに使ったか………。とりあえず、使ったことのない能力の詳細と言われても困るものがあったのだ。
そんな椋から戻ってきた質問に、ハーミットは深くため息をついた。
「質問返しは良くないぞ椋殿。まぁとりあえず使用するにあたっての制約とか条件、どこまで出来てどこまで出来ないのかとかそんなことを教えてくれれば結構ですぞ」
とりあえず自分が知っているありのままを話す。《愚者》と出会ってからの一ヶ月の記憶を辿り、記憶の欠片を探し始めた。
「制約があるかどうかは正直わかりません。でも少なくとも能力発動の時に出る結晶光を吸収することでその能力を使うことができる……、《ハーミットさん達》の能力も変わらず吸収できるはずです………おそらく……」




