forthDay 2
再び長いはしごを登り、雁金さん宅にお邪魔する椋。
雁金さんは《隠者》との約束で、《愚者》が目覚めたのを確認したら一時修行を中止してこっちに連れて来い的なことを言われていたらしく、一旦身体的な方を止め、ここに居る次第だ。
「椋殿、フールの奴をこっちに読んでくれるかの?」
長方形の長机に対面するように座る《隠者》が、柔らかな口調でそう言う。
「はい……『移り気な旅人』……」
逆らう理由もなく、自然とその言葉を唱える。そういえばこうして《愚者》と対面するのは実に久しぶりな気がする。
椋の天然結晶から拡散するように広がった金色の光が一点に集結し、道化師のような姿をした小人、フールを形どった。
「久しぶりじゃのフール」
「……………ああ、久しいなハーミット」
卓上で向かい合う二人のこびとは本当に懐かしそうな表情(ハーミットの表情は隠れて見えないが)を浮かべそんな言葉を交わしていた。
フールが体の向きを180度回転させ、椋の方を睨む。
「説明してもらおうか。今はどういう状況なんだ?」
○~○~○~○
「なんと言えばいいのか……全く……愚かだな………」
「《愚者》のお前にだけは言われたくないよ!」
一通り一連のことを話し終えたところで、《愚者》からの一言はそれだった。
まあ実際問題かなりの割合で独自判断のため罵られようが素直に受け止める覚悟でいるのだが、さすがに《愚者》にそう言われると少々腹が立つ。元はといえばフールがずっと寝ているから、といおうとおもったが、元をたどれば、彼が眠るに至ったのも自分のせいであると言うことに気がつき、思わずごもってしまう。
「まぁいい。それよりハーミット、御前の憑代の事情も理解したがいくら鍛えたところで今の我に負の《太陽》を討伐するほどの力はないぞ?」
「分かっておるわい。これからも鍛えていくと言ったろう?とりあえずワシが持っているお前の力を返してやる。準備してくれ」
なんだか非常に親しい仲に見える二人。昔何かあったのだろうか?
雁金さんは話し合いが好きではないようで、「ぱっぱと済ませろよー」とだけ言い残して寝室に戻ってしまった。
「いいのか?先も言ったが若干御前のちからも吸ってしまうことになるんだぞ?」
あっさりとそれを認めたハーミット。それに対しフールはコクっと一度大きく頷き、椋の方に向きを変える。
「始めてもいいな?」
そんな《愚者》の問いかけ。もちろんいつものように拒否する必要がないことは拒否しない。
「って、『愚かな捕食者』を開放するんだよな?」
そんな椋の問いかけ。状況的に考えてそれ以外は考えられないのだが、念のためというやつである。
《愚者》はああ、と漏らし、首を縦に降る。
4日ほど正確に言えば25日だがそれくらい前に体験した『愚かな捕食者』の開放時、焼けるような喉の痛みやらなんやらでとても気持ち悪くなったのを今でも鮮明に覚えている。
正直に言うと二度とは体験したくないソレだったわけで、心の準備を整えるために一度深呼吸をする。
「では行くぞ?」
そう言うとフールは椋の胸元に向かい拳を向ける。小さな手のひらからだんだんと溢れ出していく光は
小さな球状に凝縮し、椋の天然結晶に向かい放たれる。
衣類等関係ないようで、簡単に服を透過し、光球は椋の無色の結晶に吸い込まれていった。
(あの時はこのタイミングで…………………)
と出丘、正の《悪魔》から能力を吸収したときのことを思い返し、あの感覚に襲われるということを覚悟し、目を瞑る。
(もうすぐ息が苦しくなって…………………)
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁあああぁぁぁぁあああ……ああ…あ……ああ……あ?」
おそらく訪れるであろうタイミングとともに大げさな叫び声を上げてしまうが、なぜかその症状は一向に現れず、叫びも疑問系で終わっていまう。しいて言えば、周りからの凍えるほどに冷たい視線が唯一の戦利品といえよう。
「椋よ……我は御前をそんな子に育てた覚えはないぞ……」
悲しそうな目で見つめてくるピエロ。
「…………………」
あえて無言を貫く老人。
「うっせぇぇぇんだよクソガキィィ!!」
ドアを蹴破りダイナミックなエントリーを決めてくる少女。
少女との距離は3m。飛来まで3秒。そのあいだに口にできる弁解は一言。
「ちゃ、ちゃいまんが」
椋がすべてを語り終わる前に少女は予想を上回る速度で椋に飛び蹴りを炸裂させた。




