深夜
今作にはかなりの気合い、思い入れが入っています
僕が長年温めていた言わば我が子のような作品です
終るのはいつになるか分かりませんが序章だけでも楽しめるように作っているので少しだけでも覗いて行って下さい
深夜に散歩をしていた
自宅を出て15分ほど歩いたところで何かがおかしいと思い始めた
別に不審者がいたとか誰かが自分の後をつけているとかそういうのではない
今歩いてるのは少し大きめの国道に沿った歩道で車が眩しいヘッドライトで闇を切りながらまばらに走っている
数メートルおきに街灯がまるで深い闇に抵抗しているかのように道を照らしてる
その日は月のない夜だった
そう、変わったものは何もない
ただここがどこなのかが分からなかった
家からそう離れていない場所にこんな国道があるわけがない
だが気付いた時にはこの道を歩いていた
飲まれてしまいそうな夜の闇の中で立ち止まる
そして考える
道に迷ってしまったのだろうか
しかしなぜだか来た道を引き返したところで家には戻れない気がした
かといってどこに行けば良いのかも分からず歩道に立ち尽くす
車が国道を通り過ぎていく
「こんばんは」
ふいに話しかけられふりかえるとそこには高校生くらいの今の季節には大袈裟過ぎるくらいの厚着をしたショートカットの中性的な顔立ちの女が立っていた
「迷子かい?」
まるで今の自分の状況を知っているかのように話しかけてくるなんだか見透かされているみたいな気がして黙っていると
「まあいいさ、ちょっと一緒に歩こうよ」
と言って少女は歩き出した
行くあてもないのでしょうがなくついていく
国道は一本道でどこまでも続いている
聞こえてくるのは車が通り過ぎて行く音だけだ
「君も散歩をしていたのかい?」
と聞かれ、そうだと答える
「やっぱりね、こんな時間になにか用事がある人はそんなにいないし」
「せっかく散歩をしているんだ、こんな味気ない道じゃなくてちょっと横道にそれてみないかい?」
そう言われ特に断る理由もないのでうなずいた
少女と並んで左に曲がり住宅街に入る
ここはどこなのかと尋ねると
「僕も迷子なのさ」
と少女は答えた
とりあえず交番を探した方が良いみたいだ
電柱に書かれている住所には見覚えがない
住宅街の細い道はとても暗かった
「君の名前は?」
と問われ、答えようとしたところで言葉につまる
「やっぱりね」
と、少女は意味ありげに微笑んだ
どういうことだろう、記憶喪失にでもなったのだろうか
ほどなくして前方に交番が見えて来た
適当に住宅街の迷路のような道を右へ左へと歩いていただけなので、運が良いともいえる
交番の窓から見える室内は蛍光灯で明るく照らされていてそこだけ闇から切り取られているようだった
交番の前にたどり着く
誰もいないので一言言いながらドアを開ける
奥に向かって声をかけるが返事はない
「誰もいないみたいだね」
と後ろで少女がつぶやく
仕方ないので机に無造作につまれていた地図を開き家までの道を探そうとする
だが道は見つからなかった
正確に言えばどこに帰ればいいのかがわからなかった
記憶喪失…、思わず漏れた言葉に少女は首をふる
「違うよ、君は自分を奪われたんだ」
少女は少し悲しそうな顔をした
何を言っているのかはよくわからなかったが、ただ途方に暮れた
交番をあとにして少女と住宅街を行くあてもなく歩く
家の明かりはどこも消えていて生き物の気配すらしない暗闇、そんな真夜中を歩くのはまるで宙に浮いているかのような不安を覚える
しばらく歩くと商店街に出た
当然ながらどこの店もシャッターを下ろしている
少女は少し歩調を早め前を歩いていくのでそれについていく
昼は賑わいを見せる商店街に誰もいないというのはなんだか不気味だ
そんなことを考えていると一件の店が明かりを灯していることに気が付く
少女はまるで吸い寄せられるかのようにそこを目指して歩いて行く
そこは小さなリサイクルショップだった
ショーウィンドウにはテレビが並んでいて深夜番組を写しているがそこから発せられる音はなぜか不明瞭で聞き取りづらかった
少女と一緒に店に入って行く
「こんばんは」
と、少女は挨拶をするが店の中には誰もいないようだった
店には主に家電が陳列されていた
ここに用があるのか、と聞いてみる
「ううん、特にはないよ、君は?」
飽きた
続かない