7 少年は相対する
ある日、異世界より来る勇者により、魔王が倒された。
勇者は12人の妻を娶り、それぞれと子を成した。
「クラーク、わざわざ迎えに来てもらって悪いんだけど、帰ってもらえないか?」
「クラークスだ……取り込み中のようだが、オレを優先してもらおう」
「おじさんは一緒じゃないのか?」
「団長は忙しい、それに、貴様一人の相手くらい、オレにも出来る」
「なるほど、勝手に来たのか」
「…………」
沈黙する巨躯、その身体は真っ黒な鎧に覆われている。鎧には金で細かく聖剣の意匠が刻まれ、ゴテゴテして趣味が悪い。切りそろえられた青色の髪に、鷹のような眼つき、昔はもっと優しい顔だったのに。
腰に三本ずつ差した剣、右手に持った抜き身の剣と合わせて七本、ああ、厄介だ。
「……ねぇ、どこの誰か知らないけど、名乗るくらいはしたらどうなの?」
アルは人間の言葉も話せたらしい。その声は平静を保っているが、ボクを掴んでいる手の力が、内心穏やかでないのを示している。
クラークスは憮然とした顔を更に険しいものにした、マズい、それはマズい。
「ボクから説明する、それでいいか、クラークス」
「ああ」
「アルセリア、彼は『十二人の勇者の子』の一人、クラークスロット」
「……あれが、勇者の子……………………?」
「そうだ、オレこそが勇者の息子、聖剣を受け継ぐモノ、クラークスロット」
「そう……勇者の息子……………………」
憎悪に染まった眼は真っ赤で、彼女はボクから手を離した。
「私はアルセリア・メル・メードレル、誇り高き淫魔、突然だけど、貴方を殺すわ」
「ま、待て、アル!」
「………………オレはどうでもいい、お前のような魔族に構う気はない」
「あら、そんなつれないこと言わないでくれる? 今すぐ殺したくなっちゃうわ!!」
ぶんと、目の前から彼女の姿が搔き消える。
そして、鳴り響く金属音。
アルセリアはその爪を長く伸ばし、クラークスは手にしている剣で打ち払う。
「ッ…………」
数秒に、何合という打ち合いの音。王都で見た兵士達の訓練より、二人の出す音は多く、大きいモノだった。
「それが、聖剣ってわけね!!確かに、硬い、けど!!」
爪と剣の刃がぶつかり、押し合う、鍔迫り合いのような、力の拮抗した静止。
「大したことないわ!」
ガギ、と剣を絡めとった爪、クラークスの手から弾かれた剣、無防備なクラークスの胸元に、アルセリアの五本の爪は槍のように、鎧を貫く力をもって迫り────
「アル!避けろ!」
ボクの声は間に合わなかった、彼女は背中から腹へぐさりと貫かれ、そのまま地面に縫い付けられた。
「がっ…………は…………?」
彼女が首を後ろに向ける、そこには、確かに弾き飛ばしたはずの剣。
「メードレルの淫魔、精を吸い肉体を強化するすべに長けていると聞いたが…………この程度か」
クラークスは腰に差した剣を抜き、彼女の眼前に向けた。
「待て、クラーク!」
彼女と剣の間に飛び込むと、彼は少し意外そうな顔をした。
「…………マナ、なぜ庇う、情でも移ったか」
「一日か二日程度の付き合いの相手に移すような情、持ってないよ」
「ならば、なぜ」
「お前の目的はボクだろう、関係のない彼女を巻き込む必要はない」
時間を稼ぎながら、後ろ手で彼女に言葉を伝える。
「…………その魔族が勝手に襲ってきたのにか」
「マナ、どきなさい…………その男は、勇者の子なんでしょ…………私が、殺さないと…………」
ああ、くそ、黙っていればいいのに!どうしてこんなことに…………!
じっとクラークスを見つめるが、彼の意識は後ろの彼女に移ってしまった。
「…………なんだ魔族、お前、マナのことは知らないのか」
「…………何がよ」
「そいつも、勇者の子の一人だ」
後ろで息を呑む音がした、が、間に合った!
げほっ、とボクが息と共に吐きだしたのは、煙幕の巻物。
後ろに飛びのいて、彼女の肩に掴まる。
「行って!」
瞬間、噴出した煙が視界を塞ぐ、彼女を縫い付けていた剣は、もうない。
黒羽を動かして、彼女は飛ぶ。その速度は速く、煙幕の中をむやみに攻撃しても当たらないと確信するほどだ。
視界が晴れ、クラークスは周りを見る。
二人は陰も形も無くなったが、地面に残る血のみがそこであったことが夢でないと証明している。
クラークスは辺りを探し、血が数滴ずつ、等間隔に落ちているのを確認した。
彼はため息をついて、その血を追い、森の中へと進んでいった。




