4 少年は人気者
「…………彼は想定以上に芸達者なようだな」
プレーカプとアルセリアは二人、空き教室にて弁当を広げていた。
「そうね、アタシにも、『マナちゃんを助けてあげて~』なんて何人か後輩が来たわ」
「ワタシのところには十人以上来たぞ」
「日頃の行いじゃない?」
「君の外面が良いだけだろう」
「サキュバスですもの」
軽く話しながら、プレーカプは手元から薄い板を取り出し、その表面を見た。
「逃げ出してない?」
「当然、ワタシの造った首輪だぞ」
現在、このサキュバス学校のトイレに首輪が位置していることを確認し、元に戻す。
「何日で耐えきれなくなるか、賭けない?」
「一週間だ、それが限界だろう」
「一月は持つと思うわ」
「何を賭ける?」
「何でもいいわ」
「なら、ワタシは彼を頂こうかな、実験体として有用であるし、紅茶を入れるのが中々上手い」
その発言に片眉を上げるアルセリア、聞いてないぞと言う沈黙に、大したことじゃないからと、プレーカプは沈黙で答える。
「……まぁ、いいわ、一週間で根を上げる程度なら、精を吸っても意味ないし」
「姫、君は何が欲しい?」
「そうね、彼を所有物にするのを、協力してくれる?」
「構わないが……そこまで執心するとは意外だな」
「あの角無し、アタシに恥をかかせたのよ、このアタシに…………」
「もう聞いたよ」
「それに…………」
「『それに』…………?」
「…………何でもないわ」
「そうか」
アルセリアの頑固さを良く知っているプレーカプは、深入りはしない。この姫は一度決めたならとことんやると知っている。
そして、その邪魔をすれば、烈火のごとく怒ることも知っていた。
「む?」
昼食を済ませた二人のまったりとした時間に、プレーカプは小さく声を上げた。
「どうかした?」
危機感のないアルセリアは、どうもしていないだろうと思っていながらも、一応拾っておくことにした。
「いや……厩舎から、馬が連れ出されたようだ」
「なんでそんなこと分かるの?」
「この前、馬から精を取っていたら────いや、今はどうでもいい」
「馬から?ププ、今、馬から精を取ったって言った?」
「今はどうでもいい話だ、その時に流れで、馬が厩舎から出れば分かるようにしておいたのだが……」
「……誰か使ったのかしら、申請を出せば自由に走らせらていいでしょ」
「ああ、だが、連れ出された馬は一頭のみらしい」
「……一頭だけ、あの子たちならいつも一緒に乗ってるわよね」
嫌な予感がして、二人は向かった。
厩舎へ────ではなく、トイレへ。
蹴り飛ばして扉を開くと、そこにあったのは首輪のみ。
「……どうも、ワタシ達は侮っていたらしい」
呻くプレーカプに、アルセリアは何も言わない。
「……………………ププ、アンタの精力、よこしなさい」
やっと小さく、何かを堪えるように言って、アルセリアはプレーカプに舌をねじ込んだ。
みるみるうちに、彼女の赤い髪が、更に赤く、紅く、朱く染まっていく。
「ぷはっ、ちょっと行ってくるわ」
口を離した彼女は、変わらない口調で言った。
しかしその眼は、数秒前の彼女と比較にならないほどに獰猛な光を孕んでいた。
「ああ、行ってらっしゃい、ワタシ達の姫よ」
プレーカプは小さく、彼女の頬に口づけた。
アルセリア・メル・メードレル、メルセリアの娘にして、メードレル家の次期当主。
彼女は未だ、自ら直接的に精を啜ったことは無い。
なぜならば、そんなことをする必要が無いから。
彼女は姫。
すなわち、配下から精を啜る、淫魔の女王である。




