3 少年は遊ばれてる
『アンタがよだれ垂らしてすり寄ってくるのが楽しみよ!!はーはははははは!!!!』
なんて高笑いをして、アルは去っていた。
ププからどうにか聞き出した話を纏めると、ここはサキュバスの学校で、今いる部屋は実験室……ププ以外はほとんど入ってくることのない、ほとんど私物化された部屋なんだとか。
「……どうするかな」
二人は授業に出なくてはいけないからと出ていき、現在は一人きり。逃げ出そうと窓から外に出ようとして見たが、
「ギャッ!」
首輪からの電撃に諦めた。首輪を壊そうとしても電撃、それにこの学校内限定だが、首輪の位置情報も握られているらしい。
これは『遊び』、趣味が悪いにもほどがある遊びだ。
「……冗談じゃないよ、まったく」
ちらと、股間を見ると、薄っすらと刻まれた魔術跡。
さっぱり気づかなかったが、ボクが気絶している間に刻まれたらしいそれの効果は、性機能の封印。
「ほんと、冗談じゃない」
つまり、たたない。立つものがたたない。リトルなマナがビッグにならない。
サキュバスが精を貯めこませる時に使うらしいこれと、学校内に漂うサキュバスの甘い匂い。
「ボクが耐え切れなくなったらあっちの勝ち、なんて」
はぁ、とため息を吐く。
現状はそこまで悪くない。悪くないからこそ、困る。目の前にある選択肢は大きく二つ、逃げ出すか、逃げ出さないか。
逃げるなら、どこに逃げるかだ。魔大陸と人間大陸の間には海がある。海を超えてえっちらおっちら人間大陸まで行くなんて、ちょっと現実的ではないが…………できなくもない。
逃げ出さないなら、友好関係を築かないといけない。アルもププも嫌いじゃないし、仲良く出来ないこともなさそうだ。少なくとも、王宮内よりは話が通じそうだし。
「……しかし、似合うな……ボク」
一旦思考を止めて、実験室の隅にある姿見の前に立つ。
サキュバスとしての機能を損なわないためなのか、露出度は高い。肩を露出する上衣に、膝上までしかないスカート。背中に切れ目が入っているのは……羽とか出すためか、サキュバスって羽あるのか?
ぱっと見、馬鹿みたいな服装。しかし、そこまで品が無いというわけでもない。
姿見の前でくるくると回ったり決めポーズを取ったりした後、ププに渡された付け角を額にくっつけてみる。なんかの魔物の角と言っていたそれ…………魔物と魔族って種族違うのかな……とか考えつつ、完成した全身を見てみる。
「似合うな……父さんに見せたいくらいに似合うな……」
暫し鏡の中のボク見て、覚悟を決めた。学校内なら好きに動いていいらしいし、ちょっとばかし散歩と行こうじゃないか。
失敗した、多分、失敗した。
「ねぇねぇ!マナちゃん!次、私ね!」
「んー、いいよ、ミミルちゃん」
鏡の中の自分は、顔にひたすら謎の粉や色付きの液体を付けられて、髪にはカツラを被せられ、ほとんど元の形が無い。
「うわー……どれも似合うね、姫様にも負けてないよ」
「流石にアルセリア姉さまには……」
「なにぉ!ほら、マナちゃん、アレ!アレやって!」
求められるままに上目遣い、少し涙を出して、口元を手で隠す。
「ヴッ……あざとい……致死量のあざとさ……勇者もきっと堕とせる……」
「えー、そんなことないですよ、褒めすぎです、カエリさん」
「カエリでいいよ!言葉も崩して!マナ!」
「ふふふ、嬉しいな、カエリ」
ひとまず学校をぐるっと一周してやろう、とか思っていたら、授業をさぼっていた彼女らと出くわしてしまった。とっさに『学校見学に来たんですぅ』と誤魔化したのが失敗だった。
「噂の美少女は……おぅ、凄い原石感あるね……メイクいらないんじゃない……」
「原石どころか加工済みだよ」
「噓ぉ!これで!?」
「これでって何ですか?まったく!」
「あ、ああ、いや、あんまりにも自然だから」
「褒めてくれてるならいいですけど!」
「……なんだこの子、めちゃくちゃ可愛いな」
表情豊かに親しみやすく、しかし丁寧な口調で、崩せと言われればぐっと言葉を崩し、にっこりと笑う。
全身全霊の可愛い子振りは、予想以上に目立ってしまった。後ろにもう十人くらい人がいる……メイクされるたびに付け角が取れるんじゃないかってひやひやする。手が当たった時なんて悲鳴を上げてしまった。『敏感なの?』と聞かれて、うるうる『敏感なんですぅ……』と言った時に、何か大事なものを失った気がした。
「あ、あの、そろそろ図書館に行きたいな~、なんて……」
「図書館?本が好きなのか?」
「ちょっとだけ調べたいことがあるんですぅ」
「なになに?お姉ちゃんが教えてあげるよ!手取り足取り……へへへ」
「えーっと、実はわたし……遠い場所から来たんです……ここが大陸のどの辺りかも知らないくらい……」
「へぇ!そりゃ珍しい、前はどこにいたんだ?」
「それは、秘密です、えへへ、言ったら怒られちゃうんです」
「訳ありってことね……ここは大陸の南東、海が近い場所よ」
「厩舎の馬を使えば、一刻くらいで海辺まで行けるわ」
「そうなんですか!いいな……海、見てみたいな……」
「何なら今から行くか?」
「うう……そうしたいですけど、この首輪が…………」
ちらと、首に嵌った首輪を見せると、彼女らは少し怒ったらしかった。
「なんだこれ?!こんなの付けられてるの?」
「そうなんです……白衣の人が、『君は実験体だ』って……」
「あちゃ~……」
「プレーカプ様か…………」
「そのプレーカプ?、さんはどんな方なんですか?」
「あの人は、ちょっと変わってるの……悪い人じゃないんだけど……ごめんね」
「いえいえ、この建物から出ない限り、何にもないみたいなの、心配しないで」
「出たらなんかあるみたいな言い方だな」
「……その、ちょっと、雷の気が、首に……」
「……酷すぎないか?」
「ええ、アルセリア姉さまに言った方がいいよね」
「あ、アルセリア?さんてどんな方ですか?」
「メードレル家の高貴な方よ…………知らないの?」
「あ、あのメードレル家の!知らないわけないじゃないですか!」
「そうよね」
「でも、そんな方の手を煩わせてしまうなんて、心苦しいです……」
「いいって!アルの姉御は面倒見が良いんだ!」
「お願いします、敬愛するメードレル家の方に迷惑をかけるなんて……」
「まあ、そこまで言うなら仕方ないな」
……さて、知りたい情報はある程度手に入ったし、後はどうやってこの場から抜け出そうか。
「つ、疲れた……………………」
ププに首輪のことを何とかしてもらうと言って、一緒についてきてくれると言い募るお人好しに一人一人対応して……………………ああ、疲れた。でも可愛い子振りが役に立ったな、ありがとう、メイド…………
やっと実験室に帰ってくると、白衣の長身は青筋を立てていた。
「どうもワタシは、君を見くびっていたようだ……まさか十人以上を扇動するとは思わなかったよ」
ははは、何のことかな。
怒りを隠そうともしない彼女に、だいたい何があったかは予想がついた。どうもサキュバスの仲間意識というのは想像以上に強いらしい。
しかし……何人にも勇者について尋ねたが、二人と違って、特に恨みや憎悪を抱いている者は居なかった。
ねぇ、どうして二人は勇者を憎むんだい?




