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純愛過激派君はサキュバスなんかに負けない!  作者: 心我 湧立


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13/17

12 少年は流石に看過できない

 メードレル家が所有する屋敷、その中の広い一室はアルセリア・メル・メードレルの自室である。


「兄上……兄上……」


「おお、よしよし……クラーク……」


 ただ、その部屋の隅にいるのは、部屋の主ではない。


 青髪の巨躯は鎧を脱ぎ切り、腰に一本のみ剣を差して膝をついている。その頭を抱きしめて、よしよしとボクは頭を撫で続ける。


「……………………アンタ達、そろそろ離れたら?」


「兄上…………オレ、魔族語分からない…………」


「仲がいいねって言ってるのさ」


「そうだね…………」


 ビキ、と青筋が浮かんだアルは、ゆっくり息を吸って、吐いて、角無し(にんげん)の言語に直し、再度言った。


「アンタ達、そろそろ離れなさい」


 クラークスはぴくり、ゆるゆるになっていた表情を鷹のような目つきに戻す。マナの胸元から顔を上げて、アルを睨みつける。


「断る、魔族め」


「なんですって?」


 ビキビキと、彼女の額に青筋が増える。


「まあまあ、まだ12歳なんだぞ、クラークは」


 愛しい弟の頭を撫でまわす作業を止め、ボクはその間に入り、仲裁する。


「別にアタシはアンタなんてどうでもいいんだからね」


「また貫かれたいか?」


「はいはい、ストップストップ」


 掴んでいる剣を聖剣にする前に、クラークスの手を止め、もう片方の手でアルを制止する。


「……………………」


 長い沈黙の後、はぁ、とアルはため息を吐いた。


「……………………それで、アルセリア、ボクってどんな状態なのかな?」


 持っている手鏡を見ると、そこにはいつもの自分の顔………………額から角が出ているという点を除けば。


「あれかな、淫魔(アル)から元気を貰ったからかな?」


 身長こそ元の低さに戻ってしまっているが、瞳の色は薄いピンク色のまま、髪の長さはそのままで白と薄ピンクと赤の斑模様になっている。


「その『元気を貰う』って、精気を吸うのと同じよ」


「まさか、魔族は知らないだろうけど、キスで元気を貰えるんだぞ、な、クラーク」


「兄上、オレ、それ知らない」


 ……………………そうか、クラークは学んでなかったんだな、後で実戦形式で教えよう。


「アンタ……クラークとか言ったわね、アンタに聞きたいんだけど」

「クラーク()だ、馴れ馴れしく呼ぶな」


「…………クラークス、アンタ、喉の、この辺りに袋ある?」


「はぁ?」


 まったく、アルは何を聞いてるんだ。魔族にはないのかもしれないけど、人間には喉袋があるんだぞ。指輪を入れられる、手品の場所だ。


 そんなのあるに────


「そんなの無いに決まってるだろ、馬鹿にしてるのか」


「────え?」


 い、いやいや、そんなはずはない。


「クラーク、ほら、この辺りだよ、舌を動かしてさ、分かりにくいけど空いてるだろ?」


「兄上?」


「……クラーク、ちょっと大きく口を開いてくれる?」


 少し戸惑いながらも開いた彼の口、その左右をつかみ、喉の奥をじーっと見る。ちょっと出っ張ってるところが……………………無い?


「…………舌入れていい?」


「ほごぁ!?」


 ボクが舌を近づけるとクラークスが物凄い抵抗したので、手を離す。なんだ、キスは恥ずかしいのか?


「…………角無しって、キスは恋人とかとしか、しないのよ?」


 何を言ってるんだこの魔族は…………人間について学んだ知識なのかもしれないけど、大間違いだ。


「そんなわけあるか、握手の次くらいにすることだろ!元気のない人にはやったらいけないだけで!」


「兄上、あのサキュバスの方が、多分正しいと思うぞ」


「…………………………………………?」


 え、どういうこと?


「……クラークは、喉に袋が無いし……キスで元気を貰わないし……恋人としかキスしない……のか?」


「…………うん」


 ……………………まさか、ここまでクラークスが常識知らずだったとは、毎日訓練で疲れてるからやらなかったけど、キスの二、三回はやっておくべきだったか。


 ははは、と笑いながら、じわじわと、脳内に何か、嫌な予感が迫っている、が認めない、認めたくない、だって、それはなんていうか、ちょっと唐突すぎるっていうか、ありえないだろう?


 必死の脳内解釈に、アルセリアは無慈悲に言った。


「アンタ、淫魔(サキュバス)よ」


「…………まっさかぁ」







「うわ、ホントだ……袋ある…………」


 アルセリアの開いた口を見ると、喉奥に僅かな出っ張りが確かにあった。


「これまでどうして…………どうやって生きてきたの…………?」


 アルセリアの目は同情的だ、仲間に向けるような目とも言う。冗談じゃないぞ?


「ボクは父さんの子だ!淫魔(サキュバス)なわけがない…………よね?」


 まずい、これはダメだ、もしもボクが父さんの子じゃなかったららららららららら…………


「兄上!しっかり!」


「ああ…………クラーク、お願い…………舌を絡めるくらい誰とだってやるって言って…………」


「…………兄上、すまん」


 まずい、目の前がくらくらしてきた…………サキュバス、サキュバス、ボクが、このボクが…………?


 頭を抑えて現実に耐えていると、クラークスの声。


「…………メードレル」


「アルか、アルセリアと呼びなさい」


「アルセリア、お前たちに男はいるのか?」

「それだ!そうだ!ボクにはしっかりついてるぞ!」


 少なくともボクが見た中には、サキュバスの男はいなかった!ありがとうクラーク!!


「…………アンタ、本当に勇者の子なのよね?」


「と、当然!ボクは父さんの息子だ!」


「…………なら、アンタは淫魔(サキュバス)勇者(つのなし)混血(あいのこ)…………なのかしら」


 …………あ、そうか、そういう場合もあるのか。


「うん、まぁそれならいいかな」


「兄上はそれでいいのか…………?」


「父さんの子が揺るがないならいい」


 そっかそっか、ボクは半分サキュバスってわけね。ん?


「えええええええええええええええええええええええええええっ!?」


「兄上ぇ!?」


 クラークスの声がどんどん遠のいていく、ちょっと、もう限界だ…………


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