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純愛過激派君はサキュバスなんかに負けない!  作者: 心我 湧立


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10 少年は成る

 ソレは、美しかった。


 高い身長に、どこか艶めかしいのっぺりとした起伏の身体。ところどころに浮いて見える骨は皮膚の薄さを示すものか、脂肪の無さを示すものか。小さな陰影はその白い肌の中を飾るようだ。


 あでやかな地面につくほどに伸びた髪の色は荒く混ぜた絵の具のようだ。流れる血のような赤黒、噴き出す血のような鮮紅、濃淡様々な赫に、微かに残るピンクがかった白。


 前髪を分けるのは、(そら)に伸びる黒い角。右の額から伸びたそれは皮膚を破った証として、根元から血を垂らしていた。


 血が髪の隙間を通るように垂れていく、形のいい眉、薄いピンクの大きな瞳には長い睫毛と涙袋、するりと通った鼻でカーブして、艶めく唇に触れ、


「ふふっ」


 ぺろりと、真っ赤な舌が舐めとった。




「マナ、か?」


 クラークスの声に、ボクは答える。


「他の誰に見えるの?」


「……淫魔(サキュバス)に見える」


「……ふふふっ」


 片目をクラークスから離さないように気をつけつつ、指輪から手鏡を取り出して、顔を見る。


「……………………ふふふふふふっ?」


 鏡の中に、なんか知らないサキュバスがいた。顔を左右に振ると、鏡の中のサキュバスも右左に顔を振る。


「……アル、サキュバスって、感染(うつ)るの?」


 返事が無い、なんかぶっ倒れてる、そして彼女にプレッシャーがさっぱり無い。


 ……………………もしかして、元気吸い過ぎた?


「……マナ、いったい何をした?」


 少し呆れたようなクラークスの声、なんだおい、戸惑ってるのはこっちだって一緒だぞ?


「キスで元気を貰ったらこうなった」


「キスで元気…………?」


「……………………」


「……………………」


「しゃあ!やってやるぞ!!覚悟しろクラーク!!」


 うん、全部終わった後に考えよう!!分からないことは後回し!今は賭けの途中だ!


「クラーク()だ、おとなしく指輪を渡してもらおうか」


「やなこった、指輪はボクが父さんから受け継いだ、お前たちには渡さない」


「……昔から、父上に馴れ馴れしいぞ」


「父さんは父さんって呼ばれて喜んでたからね、馴れ馴れしくしたら良かったのに」


 ちりちりと、首筋が熱くなる。クラークスのやつ、かなりイライラしてるらしい。直情的なのは変わらずか。


 さてと……どうやって戦うんだ、ボク。


「まさか、本当に淫魔の子だったのか、マナ」


「母さんは綺麗な人って言ってたな、話してくれた父さんの顔、すっごい幸せそうだった」


 爪が伸びるか試してみるけど、うん、伸びない。サキュバスの戦い方って、甘い匂いの魅了と、直接唾液を塗りたくるのと、爪で襲うのと、あとフィジカルくらいのイメージだけど……


「……貴様は『要らない子』なんだ、どうなんだ、そこのところ」


「父さんに愛されてるから気にしてないよ、あ、ごめんな」


 うん、身体も……大きくなっただけかな?少しくらい強くなってるかもしてないけど、アルの身体能力には遠く及ばない。これって、勇者の血、覚醒してるのかな?


「…………………………………………」


 ぷるぷると激情を堪えるクラークス、口先勝負でボクに勝とうなんて、4年は早いってんだ。


 でも、口先で勝っても仕方ない。現状は絶望的だ。アルから貰った大量の元気で、勇者の力が発現、特異技能を使いこなして、見事に勝利…………って都合よすぎるシナリオが、何故か淫魔化して、しかも弱いと来た。


「……因みに、話し合いとかって興味ある?」


「ぶっ殺してやる!!」


 ぎゅるりと、射貫くような敵意────ん?


 クラークスから放たれた4本の聖剣が、ボクの横を通り過ぎて、地面を吹っ飛ばす。


「な、避けた……?」


 ボクは避けてない、ただ、クラークスの目は、焦点が微かに外れていた。


「ははん?」


 にたりと、思わず笑っていた。なるほど、どうやら、勝ち目がないわけじゃないらしい。


「ぶっ殺す…………やれるもんならやってみろ!クラーク!」


「クラーク()だ!兄う────マナ!」


 懐かしい呼び方に、ボクはまた笑って、彼に背中を向けて逃げ始めた。





 クラークスの視界が揺らめく、意識が揺らめく、甘い匂いが、頭を揺らす。


「逃がすか!」


 黒い羽の生えたその背中に、再び聖剣を奔らせる。


「なんで、当たらない………………!」


 聖剣はその体を掠めるだけ、致命傷にはならない。


「ほらほら、ここまでおいで!クラーク!」


 羽を動かして、地面の上を滑るように、その淫魔は蝶みたいで、振り返った顔に、かつての思い出がダブる。


『王宮で追いかけっこだ!ボクは強いぞ!』


 頬を噛んで、意識を保ち、彼は駆け出した。



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