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なろうラジオ大賞7

合言葉で繋がった僕たちの罪

多分あれを一目惚れと言うんだと思う。僕の大好きな本、『シュバリエの葛藤』を読んでいる男がいた。


マキュバルリ王国の貴族が須く通う王立学園の図書室で彼は見知った表紙の本を小脇に抱えていた。

「君もその本が好きなの? 珍しいね」

「失礼ながら、ワイオミン侯爵家の方ですよね」

「あ、ああ。アルミン・ワイオミンだ。同級生だよね?」

「ダミアン・サンタル。先代のワイオミン侯爵と犬猿の仲でお馴染みのサンタル子爵家の者です」


彼の冷たい眼差しが和らいで、僕を友人と認めるまでは意外と短かった。賛否両論ある小説『シュバリエの葛藤』が僕たちの仲を変えた。ただの会話ではなく、あの物語の世界観を同じように理解し同じような価値観を共有できる稀有な相手。家同士に遺恨があり交流すべきでない相手だと分かった後も、僕は彼と過ごす時間の魅力に取り憑かれたままだった。


僕は学園の図書館の個人勉強用の部屋を借りた。寮生活を送る僕らが一人になれる貴重な部屋。僕は初めて袖の下を渡して、入り口が見え難い部屋を借りた。


放課後、僕は部屋でダミアンを待つ。

「シュバリエ」

合言葉が聞こえたら僕は扉を開ける。少し照れたような顔で部屋に入るダミアン。僕はダミアンの時間を占有できて幸せだった。


絶望へと僕を突き落としたのも彼だった。何気ない話から彼に愛する女性がいることを知った。バーレ公爵家のビアンカ。身分が釣り合わず、旨味のない子爵家のダミアン。駆け落ちをするしかないと追い詰められていた。僕は、僕の秘密の一部を打ち明けた。


「そんなわけで、僕とビアンカ嬢が結婚したらいいと思うんだ。僕を隠れ蓑に君たち二人は愛し合えばいい。授かった子どもは僕たちが育てるけど、僕がビアンカ嬢を愛することはない。僕は子どもを望めない。でも両親には子どもが必要。結局僕の代でワイオミンは終わるのだから、親が誰であっても名前が継承されれば良いんだ」


追い詰められていた彼はその条件を飲んだ。ビアンカは僕と結婚後妊娠。流石にダミアンの政略結婚後は会えなくなった。僕とビアンカは誠心誠意、愛しいダミアンによく似た娘、セイディを育てた。


ある深夜、急な来訪があった。

「シュバリエ」

ダミアンだ! 彼は血の繋がらない娘のやらかしで逃亡中で、最期に僕たちに会いにきたのだと言った。僕たちの歪んだ友情に巻き込んだ、僕たち三人の生きる理由、セイディ。彼女の幸せを守るために、僕たちは最善を尽くすだけだ。



『彼女が愛した彼の代わりに』のセイディの両親のお話です。サンタル子爵の結末はそちらで。千文字以内は無理があったかもしれない……

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