コミカライズ開始記念SS
フェルリナの前世が騒いでるだけのSSです
「よっしゃぁぁぁぁ! 新規スチルげっとぉぉ!!」
画面に表示された美麗なイラストに私は頬をだらしなく緩める。
「ああ、本当に綺麗……可愛い……!!」
はにかんだほほえみを浮かべるリリベールがヒーローキャラに手を引かれてる。その後ろには薔薇がまるで雪のように舞い散っていた。
細部まで描き込まれた繊細なイラストは色遣いまで絶妙で、私は絵師様が生み出したこの世の宝に両手を合わるしかできない。
眩しい。何もかもが眩しすぎる。
「うへへ」
よだれをすすり上げ、再びプレイモードに戻ればキャラたちは2頭身のミニキャラになる。
イベントエピソードが終わり、自由にキャラクターを動かせるところまで進めたところで、いったんセーブする。
「あと回収してないスチルはなんだけっけ」
オプションにあるアルバムを選択し、これまで集めたスチルを確認してみればフルコンプまではまだ数枚足りない。エンディングは全員回収済みなので、把握しきれていないサブイベントがあるのかもしれない。
「うーん」
もう一度周回プレイをすべきかと考えながらアルバムを閉じた私は、プレイヤーの分身であるリリベールをある場所まで移動させる。
それはキャラクターたちが集合する確率が一番高い大広間。
だがこの時間帯は閑散としており、室内には一人のキャラしかいない。
私はためらいなく指を動かし、リリベールをその人の前に立たせ決定ボタンを押した。
『やあ、リリベール嬢。何か用かな?』
「あなたに会いに来ましたアルフリート!」
いつものように大きな声で返事をしてしまう。
画面には銀髪の優しい笑顔を浮かべた騎士キャラ、アルフリートの立ち絵が表示されている。
「あああ~我が癒し~~!!」
思わずうっとりとその立ち絵を眺め、私はため息をこぼす。
アルフリート・フォンテル。
彼はこのゲームのお助けキャラクターで攻略キャラクターではない。いつも定位置に立っていて、リリベールが話しかけるとちょっとした情報から他のキャラの好感度まで教えてくれる大変便利な男だ。
「アルフリート、どうしてあなたはアルフリートなの」
優しい笑顔を浮かべたままのアルフリートの顔をそっと指先でなぞってみる。
このゲームには攻略キャラクターに画面の上から触るというアクションを起こすことで、二人のスキンシップを楽しめるという大変素晴らしいシステムが搭載されている。
だが、アルフリートは攻略キャラクターではないのでたとえ画面越しに触れたところで何の反応も示してくれない。
「アルフリートが攻略キャラだったらなぁ」
切なげにつぶやいてみたところで、それは夢のまた夢だ。
アルフリートのイラストは全身ではなく腰から上のみ。表情差分も笑顔に真顔、そして困り顔の三パターンしか用意されていない。
悪役であるフェルリナを最後捕まえる時ですら真顔のままという徹底ぶりにむしろ笑えてくるくらいだ。
『君には笑顔が一番似合うよ』
アルフリートがリリベールに向ける言葉はいつも優しい。
他の攻略キャラクターのように最初はキザだったり冷たかったり他人行儀だったりなんて、距離を感じさせない。
出会ったその時から最後の瞬間まで、紳士的で丁寧だ。
一目見た時から私はアルフリートが推しだった。
冷酷そうな配色なのにちょっとかわいらしい顔立ちに、優しい物腰。しかしいざという時は頼りになる騎士。彼に堕ちずして誰に堕ちよう。
どうして彼が攻略キャラにいないのか不思議でならず、作品アンケートにはアルフリートへの熱い愛をしたためた。
ファンディスクが発売されるのなら、ぜひアルフリートの出番を作っていただきたい。単独ルートなんて贅沢は言わないので「アルフリートの一日」的な彼のモノローグなどを聞かせていただきたい。できればグッズを出してほしい。単独が望ましいが、無理なら全員集合の端っこでもいいので彼の新規絵で私の心を魅せてほしい。本当にできればで構わないので、この先発売されるであろうファンブックでは全身のイラストと私服とかちょっとしたラフでいいのでお見せいただけると助かる命があります。と。
SNSでも頻繁にアルフリートへの愛を叫んでいることから、仲間内では最近「アルフリートの女」と呼ばれ始めた。
大変光栄な肩書きである。
アルフリートに話しかけると、心の奥底がふわりと温かくなったような気がする。
毎回すべての選択肢を選んで彼の回答を目で追うのはもはや日課だ。
何度話しかけて何度同じ回答をさせても嫌な顔一つしない男アルフリート。
ゲームのシステムなんだから当然だろうと言われてしまえば当然だが、最近の乙女ゲームは凝っているので無駄にしつこくすると最後には好感度が下がったりするものなのだ。
だがアルフリートはお助けキャラなのでそんなことはない。
それが嬉しくもあり寂しくもあり。
「私がヒロインだったら、絶対にアルフリートを選ぶのにな」
よそ見なんて絶対にしない。
むしろ遺産なんてどうでもいいから自分と生きてほしいなんてプロポーズをしてしまったかもしれない。
「いや、よくないな。遺産は欲しい。そしてアルフリートを養いたい」
アルフリートENDを想像してぐふふ、と頬が緩んでしまう。
リリベールと並んだスチルはきっとお似合いだろう、と。
だが、なぜか思い浮かんだのはリリベールとアルフリートではなく、悪役であるフェルリナとアルフリートが並んでいる光景だった。
ラスト間際で毎回アルフリートがフェルリナをとらえて連れて行くからだろうか。
そのシーンのスチルがあったらな、きっと映えただろうな、なんてよく考える。
「フェルリナとアルフリートの逃避行……なんてね」
そんな奇天烈なお話があってたまるか、なんて考えながら私はゲームをスリープモードにする。
ずいぶんと長い時間ゲームに熱中していたせいで少しお腹がすいてきた。
「ごはんにしよう」
夢は終わり。これからは現実の時間だ。
私はそんなことを考えながら、食料を調達すべく部屋のドアを開けた。
足元に積みあがっているアニメ雑誌の存在に気が付かないまま、一歩足を踏み出す――