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将棋とチェス

似て非なる将棋とチェス、どこが似ていてどこが違うか、両方を趣味として嗜んでみて分かったことをまとめてみました。将棋もチェスも知らない人のために分かりやすくルール解説もしてあります。

ちなみに私自身は、将棋はアマ初段レベル、チェスはアマ中級レベルです。


まず違うのは盤の大きさ、将棋は9×9の81マス、チェスは8×8の64マスです。次に駒の数ですが将棋は8種類(歩9個、香車2個、桂馬2個、銀2個、金2個、角行1個、飛車1個、王将1個、合計20個)、チェスは6種類(ポーン8個、ナイト2個、ビショップ2個、ルーク2個、クイーン1個、キング1個、合計16個)です。これだけでも将棋の方が複雑そうだということは容易に想像がつきます。

さらに大きな違いは、将棋は取った駒を使うことができるのに対し、チェスは取った駒は使えません。これが最大の違いでしょう。


では似ているところはと言うと、交互に指すという点とゲームの最終目的が相手の王様を取るあるいは詰める(チェスではメイトと言う)という点です。いくら駒をたくさん取っていても王様を取られてしまうと負けになります。

そしてさらに驚くべきことは、駒の動かし方です。ヨーロッパと日本という互いに文化交流のなかった別の地域でルールがほぼ同じゲームが独立して出来上がったというところです。これについては、将棋の歴史研究家により将棋のルーツが中国あるいはインドにあるという研究報告がなされており、そこから世界中にこのゲームが広まったと考えられています。ちなみに中国将棋もチェスに似ているそうです。


ではどれほどルールが似ているかを見てゆきましょう。将棋もチェスも全く知らないという方のために少々細かくなりますがルール解説をしながら話を進めます。

まず駒の動かし方

①将棋の「歩」は一度に一マスだけ前に動かせます。これはチェスの「ポーン」とほぼ同じです。ただ、チェスのポーンは相手の駒を取る時のみ一つ斜め前に進むことができるという違いがあり、この感覚を覚えるのがかなりやっかいです。

②将棋の「香車(別名槍)」はまっすぐ前にどこまでも進むことができますが、チェスにはこのような駒はありません。

③将棋の「桂馬」は斜め二つ前に跳ねることができます。チェスにも似た動きをする「ナイト」という駒がありますが、ナイトの方は「八方桂馬」という代名にふさわしく、後戻りも含め四方八方に跳ねることができます。この動きがやたら複雑でよくごまかされてうっかり駒を取られてしまうという事件が起きます。この桂馬とナイトの動きが極めて特殊であることから、将棋とチェスが遠い親戚であるという有力な証拠になります。

④将棋の「金・銀」は前後左右斜めに一マスだけ動かすことができますが、チェスにはこれらに相当する駒はありません。

⑤将棋の「角行」は斜めにどこまでも進み戻ることもできます。チェスにも全く同じ動きをする「ビショップ」という駒があります。違うのは将棋の角は1個なのに対し、チェスのビショップは2個あります。

⑥将棋の「飛車」は前後左右にどこまでも進み戻ることもできます。これと同じ動きをする駒がチェスにもあり「ルーク」と呼びます。ルークも2個あります。

⑦将棋の「王将」は前後左右斜めの全方向に一マスだけ進むことができますが、チェスの「キング」も全く同じです。

⑧最後にチェスにだけにあるのが「クイーン」です。クイーンは万能で前後左右斜めいずれの方向にもどこまでも進み戻ることもできます。将棋の竜と馬を合わせたと考えるといいでしょう。極めて強力で、このクイーンを取られると一瞬で勝負が終わるほどです。キングよりはるかに強いのがクイーンというところも、レディーファーストという西欧の文化を反映しているようで不思議です。でもキングを取られると負けという点だけは将棋もチェスも同じです。

少し長くなりましたが、駒の動きだけを見てもこれだけ類似点が多いということをお分かりいただけましたでしょうか。


次に驚くべきルールの類似点を説明します。それが「成り」に関するルールです。将棋では相手の陣地の三段目までに駒が入ると駒の種類が変わります(昇格する)。これを「成る」と言います。例えば「歩」が相手の陣地の三段目以降に入ると対局者の選択により「金」に変えることができます。これを「と金」と言います。と金は漢字で書くと「鍍金」つまりメッキされた金という意味です。同様に香車、桂馬、銀も成ることができます(成らずに元のまま使うこともできます)。さらに飛車が成ると「竜」、角が成ると「馬」になり動ける範囲が追加され、強大な力を持つようになります。

一方チェスでも「成り」に関するルールがあります。チェスの場合は相手の陣地の一段目までポーンが達すると、ナント対局者の好きな駒に昇格させることができます。もちろん最強のクイーンを選ぶ人がほとんどでしょうが、メイトが可能であればナイトに変えるという選択肢もありえます。将棋と違って成りができるのはポーンのみです。

でも不思議ですよね、全く違うゲームでとてもよく似たルールがあるのです。やはり将棋とチェスのルーツは同じなのでしょう。


ここまではルールの説明でしたが、では将棋とチェスではどちらが面白いのでしょうか。冒頭でも書いた通り、将棋の方が圧倒的に複雑ですが、それゆえに上達するための時間も倍以上かかると思います。将棋は序盤で定跡(決まった型)があるのに対し、チェスではほとんど定跡がありません。定跡とは長年多くの棋士が対局を重ねた結果、相手がこう指せばこっちはこう指すという決まり切った手順であり、対局の途中まではほぼ定跡どおりに指していれば優劣はつかないと考えられています。一方チェスにも定跡がありますが、せいぜい初手三手くらいまでであり、それ以降はすぐに戦いが始まります。

また将棋では王様を守るためにいろいろな囲い方(矢倉、美濃、穴熊などの決まりきった型)があるのに対し、チェスでは「キャスリング」という簡単な囲いがあるだけです。キャスリングはキャスル(城)から取った言葉で、まあ「城に入れる」というような意味になります。ルーク一枚をキングの隣に配置するだけの簡単な囲いですので、すぐにバラバラになり裸の王様になります。将棋を指している者からすればヒヤヒヤものですが、チェスは取った駒が使えないためこれで十分なのかもしれません。


ここからは終盤についてのお話となります。終盤も将棋とチェスで大きな違いがあり興味深いところです。特にチェスは取った駒が使えないため、お互いがドンドン駒を取り合うと盤上からほとんどの駒が消えてなくなる場合があります。上級者ならきちんと手順を読んで相手のキングを仕留められるのかもしれませんが、私のような初心者ではむやみやたらに駒を取り合い、しばしば盤上にキングとポーンしかいなくなるという事態になります。こうなるとポーンを相手の陣地の一段目までうまく動かしてクイーンにした方が勝ちということになりますが、それもできないほどに駒が減ってしまうと「戦力不足による引分け」となります。チェスの場合、こうした引分けが意外と多く発生します。99%勝負がつく将棋と異なるところです。

一局の平均的な手数も、将棋は100手前後なのに対し、チェスは40手前後と半分以下です。将棋は取った駒が使えるため多少の失敗があっても挽回できる可能性があるのに対し、チェスは一度の失敗で即終了というケースが多いです。例えば将棋では飛車を取られても勝てることはしばしばありますが、チェスでクイーンを取られて勝ったということはほとんどありません。もちろんメイトが見えていてわざとクイーンを捨てるということもありえますが、そのような劇的な勝利は滅多にありません。ですからチェスの方が一手を指すのによほど慎重に指さないと一発終わりという緊張感があります。スリル好きの人にはチェスの方が面白いかもしれません。


最後に将棋とチェスの人口とランキングについて。

将棋は日本将棋連盟が定めるプロ棋士制度があり、プロ棋士養成機関である「奨励会」で研鑽を積んで三段リーグで上位に入ると四段に昇格します。四段以上が正式なプロ棋士となります。さらにプロ同士が各種棋戦で戦いタイトル保持者になるとトップ棋士と言われるようになります。現在プロ棋士は200名ほどいるとされています。

一方、アマで将棋を楽しむ人も多くいます。最近はネットで簡単に対局ができるようになり子供から大人まで多くの人が日々将棋を指しています。プロとアマの差は歴然としており、アマのトップクラス(通常アマ五段レベルを言う)でも奨励会に入ると最下位クラスです。私のようなアマ初段はまだまだお遊び程度のレベルと言えるでしょう。

将棋人口(将棋を指す人の数)は一説には1000万人ほどいるとも言われていますが、これは単にルールを知っているというレベルの人も含めた総数で、実際に将棋を指すという人は数十万人程度ではないかと思われます。日本最大のネット将棋である「将棋ウオーズ」のユーザー登録数は100万人ほどで、中でもほぼ毎日指すという熱狂的愛好家は1万人いるかどうかという程度です。



一方チェスの方は国際チェス連盟(FIDE)が定めるGMグランドマスター制度があります。GMになるためには連盟のレーティングで2500点以上を持ち、かつ連盟が指定する国際大会で一定以上の成績を収めることが要件になります。現在、世界でGM称号を獲得した人は約1500人程度と言われています。

チェス人口(チェスを指す人の数)は一説には世界で5億人いるとも言われていますが、これは単にルールを知っているというレベルの人も含めた総数で、日常よくチェスを指すという人は実際には数百万人程度ではないかと思われます。世界最大のネットチェスサイト「Chess.com」は登録者数が自称1億5千万人と言いますが、その中で実際にレーティングが付いている人は1500万人程度と思われます。またほぼ毎日チェスをしているという熱狂的愛好家は10万人いるかどうかというレベルです。


では将棋とチェスどちらがお奨めかというと、これは好き嫌いの問題もあるので一概には言えませんが、まず最大の違いは将棋は日本だけ、チェスは世界中という大きな違いがあります。外国の方でも日本の将棋を指すという方もおられますがまだまだ少数派です。一方チェスは文字通り全世界の人と対局ができます。今のソフトはチャット機能も付いているので、世界中の人と交流したいという方にはチェスがお奨めです。

また先に書きましたが、将棋の方がルールや戦術が複雑で、「将棋が趣味です」と言えるレベルに達するには相当な時間と努力が必要です。ですからチェスから始めて次に将棋を習う方がいいかもしれません。逆に、将棋を先に覚えれば、チェスはその応用で比較的早く上達できるかもしれません。ちなみにプロ棋士の羽生善治九段はチェスも世界レベルだそうです。

以上、将棋とチェスの違いを思いつくまま、まとめてみました。では次は盤上で会いましょう。


(余談)

過日「オセロが解けた」という記事を目にしました。

知らない人はまずいないと思いますが、オセロは白と黒の駒を使い、互いに相手の駒をはさむと裏返して自分の色に変えるという人気のボードゲームです。そのオセロが「解けた」とはどういう意味でしょう。

AIを使って先手後手(白と黒)が互いに最善手を指し続けたらどちらが勝つかということを数学的に解析した結果、答えが出たのです。ナント答えは「引分け」だったそうです。これは意外に思われるかもしれません。先に指す方が絶対有利だろう、いわゆる「先手必勝」の論理です。でも、オセロの場合、先に指しても次にどうしてもはさまれる場所に駒を置かなければならないという先手不利な局面も生じうるからです。これは将棋やチェスでも同じことが言えます。ですから将棋でもチェスでも先手後手で優劣に差はない、だからハンデは付けない決まりになっています。もしかしたら将棋もチェスもお互いが最善手を指し続けたら「引分け」になるのかもしれません。

かつて故米長邦雄永世棋聖が「将棋は人間の不知を競うゲームだ」という名言を残したと聞いたことがあります。つまり将棋にしてもチェスにしても常に正解の最善手があり、勝負に負けるのは人間がその最善手を知らない(不知)あるいは見落としてしまうからだという意味だそうです。だから常に最善手を指すよう心がければ必ず勝てるという戒めにもなっています。

もしこのままAI棋士が進歩してゆくと、人間が超えられなかった「不知」が克服されてしまうかもしれません。つまり将棋の神様、チェスの神様の降臨です。その時にはプロ棋士もGMもいなくなり、強くなろうと努力する「人間」もいなくなるのかもしれません。これを「棋界のシンギュラリティー」と命名しておきましょう。


(余談2)

読者の方から、「オセロが解けた」に関し、「囲碁」も解ける日が来るのではというご感想をいただきましたので、私の見解を追記させていただきます。ちなみに私の囲碁のレベルはアマ初級です(段位者には全く勝てません)。

まず囲碁のルールを簡単に解説しておきますと、囲碁は将棋やチェスと違って相手の王様を取るのが目的ではなく、石で囲われた陣地を取り合うゲームです。碁盤は19×19の361ある交点(将棋やチェスと違ってマスを使うのではなく、線と線の交点を使います)に石を打ち(囲碁では「指す」ではなく「打つ」と言います)、石を取り合ったり囲い合ったりして自分の陣地を多くとった方が勝ちです。この陣地の数を「もく」と言います。

これ以上の細かいルールの説明は省略させていただきますが、囲碁は先手絶対有利ということが統計的にも証明されています。ですから、プロの棋戦では先手黒番が「コミ」というハンデを出すことが決められています。コミは通常「六目半」です。つまり先に打つ方が六目半ほど有利なので、コミを出すことで先手後手の勝率が拮抗するようになっています。ただ、これは人間が統計的に決めたルールで、実際コミは四目半、五目半という時代もありました。つまり囲碁は盤面上だけで見れば(つまりコミを出さなければ)先手必勝なのです。


本当にそうなのかということで、ある思考実験をしてみました。もし白番(後手)が完全な「マネ碁」をしたらどうなるかという実験です。全く馬鹿げた話ではありますが、後手は先手が打ったのと全く対称な位置に石を打ち続けるというものです。何をされても完全に無視して対称点に打ち続けるのです。それでもいつかは必ず石が競り合って均衡が破れる時が来るという反論がありそうですが、少なくともその時点まではアマ初級者でもプロ高段者でも、あるいは最強のAIソフトでも全く互角の戦いになるはずです。

ただ碁盤には一ヶ所だけ対称点がない場所があります。それが碁盤のど真ん中にある「天元」です。天元だけは対称になる点がない、まさに「天の元」とも言うべき孤高の一点です。通常、囲碁は陣地を囲いやすい隅から打ち始めるのが常識であり、習い始めも必ずそのように指導されますし、プロの棋戦でも必ず隅から打ち始めます。初手を天元に打つ人はまずいません。

でもAIソフトが計算に計算を重ねたら、先に天元に打った方が盤面上は勝ち、なぜなら天元には対称点がないからという結論になりそうな気がします。

囲碁ファンの方々大変失礼いたしました。


(余談3)

藤井聡太七冠がなぜあんなに強いのか、彼こそ「将棋の神様か」というご意見をいただきましたので、誠に不遜ではありますが、私見を述べさせていただきます。一言で言うと、彼の将棋は「逆算将棋」あるいは「帰納法将棋」だと命名したいと思います。帰納法将棋とは、まず詰め上がり図をイメージし、そこから現局面に向かって逆算して読んでいくという意味です。言い方を変えると詰め将棋を創作していると言ってもいいでしょう。

論理学で出てくる「演繹法」と「帰納法」は考え方が全く逆です。演繹法はまず決まった法則がありそこから順を追って結論を導き出すのに対し、帰納法はまず結論がありそこから逆算して共通の法則を導き出す思考法です。

常識的に考えると将棋は演繹法になります。現局面から相手がこう指せばこっちはこう指すと順読みしてゆきます。でもこれだと読みが単純化してしまい、相手に読みを外されるとたちまち動けなくなります。一方、帰納法将棋では複数の詰め上がり図を仮定し、そこに至る道筋を考えます。これであれば相手に外されても別の道にすぐ移動できます。


超簡単な例。王様の頭に金を打って詰みという詰め上がり図がイメージ出来たら、その一つ手前に歩を置きます。これで一手詰めの詰将棋の完成です。これぐらいならアマ10級の人でもできるでしょう。でも相手が金を打って王様を補強したら、コチラは王の横から金を打つという別の詰め上がり図を用意します。さらに駒を追加して、というようにドンドン複雑な詰め将棋が出来上がってゆきます。このようにして絶えず何十手詰めという詰め将棋を複数個考えているのです。詰め将棋が超得意な藤井七冠にしかできない技であり、他の棋士が真似ることは容易ではありません。

大盤解説などで彼の指し手を見ていると、時々意味不明の手を指します。解説者も困るようなボンヤリした手です。でもこの駒が何十手か後に働き出し、詰むようにできています。後になって「ああそういうことか」と気づいてももう手遅れです。これはまさに「余談1」で書いた人間の不知を利用した作戦です。相手が知らないところで詰みを創る、あるいは詰みを創っておいてそこに相手を誘導する、これこそが藤井七冠が強い所以です。


では藤井七冠はAIソフトを超えられるかですが、結論から言えば「無理でしょう」ということになります。最強のさらに最強のAIなら人間の不知までも完全に読み切ってしまうため、藤井七冠が作る詰め将棋もすべて看破されます。やはり人知には限界があります。でも逆に限界があるからこそ、人間同士の対局が成立します。もし人知に限界がなければ、指す前から勝敗が分かってしまい、そもそも勝負事は成立しません。当たり前のことですが。将棋ファンとして人間が完璧でないことを願い続けます。

藤井七冠、アマのヘボが大変失礼なことを申し上げました。ご容赦ください。





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