転生
部屋の中に入ってくる暖かい光で目が覚める。最近見慣れた天井を見て、光の具合から夕方かなぁと俺はぼんやり考えた。
(そうだ、転生したんだった)
生まれてどれだけたったかわからないが、まだ正確に言葉が話せない。
ー数日前ー
(なんか、肌の色白くね?)
明らかに肌の色が白い。前世でも白い部類だったがこれはだいぶ白い方だ。
(もしかして、アルビノというやつなのでは…?)
嬉しくなってひとりきゃっきゃと騒いでいたら人がやってきた。
「どうしましたか〜?あら、起きちゃいましたね〜」
いつも俺の世話をしてくれる人だ。口調や慣れた感じからおそらく乳母かお手伝いさんといったところだろう。優しそうな雰囲気で3、40歳くらいに見える。
(アルビノじゃなかったかー)
この人も色が白かった。どうやらこの人種はみんな色が白く、髪が黒らしい。
(日本人より色は白いけど髪は黒いからあんまり変わらないじゃないか!いや、でもまだオッドアイという可能性も…!!早く鏡が見たいぜ…)
乳母に抱っこしてもらってうとうとしてきたらまた寝る。食事や排泄をしてそれだけで1日が終わる。正直退屈な毎日だ。早く歩けるようになりたい。
毎日見慣れた天井、襖、畳。この世界はそう、和風異世界なんだ。
(…なんか思ってたのと違う!剣は?魔法は?モンスターは!?!?)
俺は泣きそうになった。もしかして転生失敗とか?間違えて過去に戻っちゃったのではないか?とかいろいろ考えた。
(剣はないかもしれないけど刀はあるでしょ!…魔法は…)
俺は両手を上につき出した。呪文の詠唱をしたかったけど上手く言えなかったので、とりあえずあたまの頭の中でいっぱい想像してみた。
(…"我に力をたびたまへ"!!)
これは俺が前世で好きだったライトノベル、『異世界新人/神人/記』で主人公が桃妖という精霊的なやつに力を借りる時のセリフだ。
しばらく手をそのままにしていたけど何も起こらない。手が疲れてきてそのままへたり横になった。
(冷静になるとダサかったんだな…あのセリフ。"与え給へ"でいいじゃん。)
キャラや世界観が唯一無二といった感じで人気があったが、名前や決め台詞が微妙なのでネットでは作者のネーミングセンスのなさをいじる傾向もあった。
とりあえず魔法は出来なかった(教えて貰えばできるかもしれないけど)が、俺はまだ諦められなかった。半ばヤケクソにもう一度あげた手に精一杯の力を込める。
(やっぱ詠唱ないとダメなのか?
…ん?)
なんか変な異臭がする。嫌な予感と共に不快感が俺を襲った。
(最悪だ…。魔法を出そうとして他のものを踏ん張ってしまうなんて!)
「ふぇ、ふぇ…」
広範囲に広がってきた不快感と異臭に赤ん坊の本能と悔しさと恥ずかしいさで俺は泣いた。