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見栄っ張りと秘め恋パズル  作者: 七都あきら
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第六話

 翌日、職員室に荷物を置きに来たら休憩中の熊沢に遭遇した。そのまま通り過ぎようとしたところ、テレビからはお昼のバラエティ番組のパズルコーナーが映っていた。天龍寺豪鬼監修だが、名前が大々的に出ているわけではない。

 番組の中にある、お遊びコーナーのひとつで、誰も注目なんかしていないと思っていたし、侑斗自身、放送をリアルタイムでみたのはこの日が初めてだった。


(いつもこの時間、仕事してるし)


 熊沢は少し高い位置に置いているテレビを真剣に見ながら昼食をとっていた。人に食育だ栄養だといつも言っているのに、自分はいいのかと思った。

 なので、いつも遊ばれている仕返しに、ちょっと言ってやろうと思った。


「熊沢さん。ながら食べ行儀悪いんじゃないですか」

「うん、だから、子供から見えないところでこっそりしてるの」

「あ……そーですか」

「だから、秘密ね」

「どうでも、いいです」


 ちょっとくらい悔しがったり焦って欲しいと思ったけれど、勝てるはずもなかった。

 それきりテレビの世界に戻っていってしまった。外見は立派な大人に見えるのに、口を開けば子供だ。


(こんな、真剣にみる人いるんだな)


 ディレクターからの依頼で、お昼休みに楽しめる軽めのモノを作って欲しいと言われた。

 軽め、という曖昧な指定は困ったけれど、要は難解でない仕事の息抜きになって、周りと会話が盛り上がるようなパズルだと理解した。

 半年くらい依頼が続いているので、おそらくディレクターの要求は満たしているはずだ。


(それか、ただの尺埋めでパズル自体に興味がないか)


 いつだって少し卑屈なのは、やっぱり自分のパズルを解いている、楽しんでいる人を見たことがないからだろうか。

 侑斗は周りに自分が作ったとは言いたくないし、ファンからの手紙も怖くて読めない。

 だからこそ、いま隣でテレビを真剣にみている熊沢が気になった。


「あの、それ、そんなに、面白いですか? ただの漢字の穴埋めパズルじゃないですか」

「んー?」


 熊沢からは生返事が返ってきた。

 中央に入る漢字を答えるものだ。和同開珎パズルとも呼ばれている。例えば、今テレビで映っている問題は、上から時計回りに令、歌、室、平で、中央に入れて熟語になるものを答える。問題が複数あるので、制限時間内で反射スピードが要求されるものだ。

 この場合、一問目の答えは『和』。

 やらせの有無はさておき、テレビだから出演者には、ある程度、盛り上がる面白い回答をしてもらわないと、場がしらけることもわかっていた。

 だから、侑斗は、実際テレビで解いているところをみるのが怖いと思っていた。演者が滑ったら自分の責任でもあるから。


「え、で、なんて?」

「だから、パズル、面白いですか!」

「あー、今、解いてるから、あーとで」


 熊沢に無視されて、むっとなった。けれど、よくよく考えてみれば、子供の頃の自分だってそうだった。一人でパズルを解いて遊んでいるときは邪魔をされたくなくて「あとで」ばっかりだった。

 それで、ぼっちになって、今に至る。

 だから自分ほどでないにしても、それほど、真剣に楽しんでくれているのなら、無視されても作った人間としては素直に嬉しかった。制限時間前だったが、熊沢は、できたと声を上げる。


「はい、全部とーけた。一番、ほら、出演者より早かっただろ、どうよ? 惚れる?」


 手元の紙に走り書きされていた文字にちらりと目を向けると全部正解だった。

 ちょっとだけ感動していた。こんなふうに自分の作ったパズルを目の前で真剣に解いている人を見たのが初めてだったから。


「ほんとだ正解。早いですね。好きなんですか? パズル」

「……あぁ、うん。好きだよ。ちょうど休憩時間かぶった時はいつも見てる。天龍寺先生のパズル」

「え」


 突然自分のペンネームを呼ばれて、一瞬頭が真っ白になった。


「知らない? このパズルコーナーの作家さん。まぁ、普通は知らないか。俺ファンレター送るくらい好きなんだよ」


 目の前の男が、ファンレターを送るほど自分のパズルを解いているなんて、思いもよらなかったから、侑斗は動揺が隠せない。


「そ、そう、なんですね」

「もう、何年もファンレター送ってるけど、月一くらいパズルでお返事くれて、律儀な先生だよ? そのパズルがまた凝ってて、返事くるたび嬉しいんだよね」


 侑斗は一度だってファンレターを読んでない。だから律儀でもない。

 毎月返事のために、パズルを書き下ろしてはいるけれど、コピーして全員に同じものを送ってもらっている。だから喜ばれるような物じゃない。


「――そんなの」

「どしたの?」


 思った通りのことを侑斗は口にした。


「適当に、作ってるんじゃないですか、朝飯前で、さらさらっと、なんの苦もなく」


 そういう完璧な、かっこいい作家になりたいと侑斗はずっと思っている。


「宇津木先生。頑張ってる人をバカにするようなこと言ったら、怒るよ。俺には分かるんだよね。先生は読者に対して、ちゃんと愛を込めてお返事のパズル作ってくれてるよ」


 嬉しいのに、悲しくて、申し訳なくて。いま自分は、どんな顔をしているんだろう。


「すみません。僕、パズルのことは何も知らなくて、きっと、すごい先生なんですね」

「面白いよ? 天龍寺先生のパズル。先生も今度解いてみたら? 雑誌持ってこようか」

「――はい、是非」


 雑誌のアンケートハガキはさておき、天龍寺豪鬼個人宛の手紙は届いていても、毎月、数件だと聞いている。読み切れないほどじゃない。

 それなのに、一度だって読んでいない。


 ずっと、それでいいと思っていた。けれど急に「読んですらいない」ことに罪悪感を覚える。

 胸が痛くて、苦しくなった。


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