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第2話 地味豚公爵の人望・①

 6頭立ての馬車×4、それとオールー公爵家直属の騎士団の中でも優秀な騎士達に、最新鋭の武具と肥えた馬を与えて、少しでもパルベッヘル公爵家とエレーナ嬢に恥をかかせないようにする。更に3代続く大商人のイヤン家に依頼して、馬車の通り道にいる王都の民相手にバラの花びらと金貨をおひねりとしてばらまくようにさせた。

これだけの数の騎士がいれば、道中に何らかの敵の襲撃があったとしても撃退できるし、『地味豚公爵』だけれどもエレーナ嬢の生活について金銭面は全く心配させませんとパルベッヘル公爵家に保証したかった。


 騎士団長のグレイグが騎士達に指示を出していたが、俺がやって来たので兜を外した。

「閣下!いやあ、この度は実に目出度い!拙者も閣下が一生独身だと悲観しておりましたぞ……!」

日焼けした顔が破顔している。

犯罪者相手には『鬼神』と恐れられているものの、嫁のレナリアさんには何一つ頭が上がらない男である。

「そこまで言うかよ……」

「ええ、申し上げますとも。オールー公爵家及び公爵領の民全員が本当は悲観しておったのです。何せ閣下にお子が無ければ、オールー公爵の跡取りがあのクソバカになりかねないではありませんか!」

いきなり怒り出したのを、俺は慌ててなだめた。

「不敬罪になるって、落ち着け!」

「不敬だと言われようが何と言われようが、我らは閣下が大好きであのクソバカが大嫌いでございます」

イヤン家の4代目になる予定の『苦味』のマオンまで加わってきた。線の細い美少年だが金と損得の勘定と先を見る目は大人も顔負けで、今回のことも安心して任せられる。ただし、『苦味』なんてあだ名の通りに利益の上がらないものに対しては辛辣で、俺相手じゃなかったら不敬罪まっしぐらの毒舌なんだよな……。

「マオン、よくぞ言った!」

「勇猛で名高い騎士団長にお褒めにあずかり光栄に存じます。そう言えば、本日お誕生日を迎えられる奥方様のご機嫌はいかがでしょうか?」

グレイグが真っ青になった。

あーあー……やっちまったな……帰ったら説教3時間か。

俺は哀れみの目を向けた。

「あっ……い、今からでも『ユメカスミ草』の花束を贈れるか?」

「当日のため特別料金を頂きますが可能でございます」

「背に腹はかえられん、すぐに頼む!」

「しかと承りました」

マオンは『遠音機』を取り出してイヤン家の本店に発注をかけた。(良かったなグレイグ、これで説教も1時間で済みそうだ。)

それから『携帯計算機』を指で叩いてグレイグに見せる。

「こちらがお支払いです」

「――げえええっ!!!」

グレイグ相手に断末魔をあげさせられるのはマオンくらいだろうな。

血涙を流しながらグレイグが支払った後、マオンは俺の方を向いた。

嫌な予感がした。

「閣下。あのクソバカがまたやらかしました」

「今度は……何だ?」

「閣下の猿真似、いえクソバカ真似をされて林業に手を出したのですが後先を考えずに伐採した結果、はげ山を作ったそうです」

血の気が引いた。

「どこに作った!?」

「最悪なことにテテ第一ダムのすぐ上流でございます」

「何てことを……」

「もっと最悪なことにはげ山の麓には村がございます、ワードルス村」

うん、知っている。森林浴や狩猟のための貴族の別荘がいくつか作られている山村だ。

「今から対応する。情報、ありがとうな」

「いえ、本件を我がイヤン商会にご依頼下さった『感謝』でございます。どうぞ今後ともご贔屓に」


 俺も『遠音機』を取り出してオールー公爵家の行政館にかけた。

相手は行政庁にいる行政官長のクードだ。

『閣下、既に人の手配や資材の用意は完了してございます。ワードルス村の民にも警報を出しました』

「どうして俺に言わなかったんだ?クードにしちゃ珍しい……」

クードは少し黙ってから、

『……無二の慶事に水を差すのはためらわれまして……』

「まだ婚約だから!」

しかも手を繋いだら俺は暗殺される。

『いいえ閣下!自信をお持ち下さい!僕らはですね、閣下を心からお慕いしております。――そうだな、お前達も!閣下を応援するぞ!』

そうだ!そうだ!閣下頑張れ!閣下頑張れ!

……クードや行政官のみんなからの応援は嬉しいけれど、俺は『地味豚公爵』だ。

熱気のある応援を聞きながら、『弱点は娘』のクードに天候を考えつつも早めにはげ山の応急処置と再生工事に着工するように頼んで、俺は『遠音機』を耳から離した。

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