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あの~それは武器ではないかと・・・異世界に来た芸人さんが持ち込んだコレこそ、僕に最適な武器でした!

作者: Mr.ゴエモン

短編第4作です。

誤って途中で全部消してしまい、一から書き直したという、苦い思い出のある作です…

「アーネスト、お前は本当に才能がないな!」

「……」


先生にそうハッキリと、キッパリ言われた僕だったが、言い返せない。事実だからだ。


僕の名前はアーネスト・ウォルターズ。

ここはアトミックス帝国の戦闘訓練所。教育機関も兼ねているので、学校と呼ばれることが多い。僕はそこの生徒の1人だ。

総人口約1万2000人位のアトミックス帝国は、世界でも指折りの軍事国家だ。なので一定の年齢になると、ほぼ強制的にココに入学させられるのだ。

この世界では、誰にでも得意武器と言える物が最低1つは存在する。中には2つか3つある人もいる。もし4つ以上あれば、天才や神道と呼ばれる。

しかし僕はというと、その得意武器と言えるものがなかった。

最初は基本的(オーソドックス)な剣を試した。数日頑張っても、巻藁(まきわら)を切断するには至らなかった。出来て、全体の四分の一位でも切れれば御の字だ。ダメだと逆に刃こぼれし、最悪折れてしまう事もあった。

次に弓を試したが、コレもだめだった。矢を射れば明後日の方向に飛んでいき、終いには、後ろに飛んでいく始末だ(そっちの方が難しいだろう…)流石に、数十cm手前から射れば当たるが、それなら弓である必要はない。

その後も、槍やヌンチャク等、色々と試した。

鎖鎌(くさりがま)寸鉄(すんてつ)と言う暗器(隠し武器の事)に至るまで、それはもう、超どマイナーな物まで試しに試しまくった。結果は、全滅だった…

もしやと思い、素手で戦う事にも挑戦した。その結果、腕を怪我しただけで終わった…


「はぁ…」


放課後の校庭(グラウンド)。大半の生徒が、放課後、校庭で自主練をしている。そんな皆の様子を尻目に、木の下でため息を突いていると、そこに、クラスの中でも特に嫌な奴の、3人組が通りがかった。

連中は、リーダー格の奴が剣を、取り巻き達は槍を装備している。それらが連中の得意武器だ。


「おっ、無能のアーネストがいっぞ!」

「本当だ!まだ退学(辞めて)なかったのかよ⁉」

「ここまで来ると、無能なのが逆に才能かもな⁉」

「「言えてる言えてる!」」

「よっぽど、武神様に嫌われてんだな!」

「キャハハハハ!!」

「きっとそうだ。前世で余程、悪い事をしたんで、曲がったことの嫌いな武神様に、嫌われてんだよきっと!」

「ああ、そうに違いない!」

「ハハハハハハ!!」

 

 下品に笑う3人。

僕を笑うだけ笑い、言いたいだけ言うと、そのまま去っていった。

言い返したいが出来ない。悔しいけど、僕が無能なのは事実だ…

 因みに武神様とは、この世界の神話に出てくる神様の一柱で、武器・戦いの神と言われている。お国柄上、この国では特に崇拝されている。


「ネスト。またこんなトコでため息ついてるの⁉」

 「ルミ…」


そう言って僕に話けてくる少女。

彼女の名は、ルミニーナス・アレン。通称ルミ。僕の幼馴染だ。同い年で、家も近所だし、誕生日も近い上、委員会も同じだ(図書委員)。

彼女の手には、杖が握られている。彼女の得意武器は杖だ。彼女はこの世界では、限られた者しか使えない魔法が使えるのだ。攻撃魔法・防御魔法・回復魔法と一通り扱える。更に、杖術(じょうじゅつ)(杖を使った格闘術)をも会得しているので、近接戦も出来るのだ。魔力が切れても、ある程度は抵抗出来る。まさに、何でもごされ。落ちこぼれの僕と違い、彼女は優等生なのだ。


 「周りの人達の声なんて気にしちゃだめよ。それに言うでしょ、ため息すると幸せが逃げてくって!?」


 そう言って励ましてくれるルミ。でも、彼女には悪いが、僕と違い優等生の彼女に言われると、かえって虚しくなるのだ…

 

 「ルミ!先生が呼んでるわよ!」

 「分かった、今行くわ!それじゃあねネスト!」

 「うん…」


 友達に呼ばれ、そう言って去っていくルミ。

 僕は再びため息をした後、


 「…帰ろ…」


帰宅した。学校には寮があり、自宅から学校に通うには遠い生徒は、(そこ)に住んでいるが、僕は近くなので、自宅から通っている。


 「あらお帰りなさい、ネスト!」

 「ただいま母さん!」


 家に帰ると、僕の母さんが台所で()()()を使って、食材を捌いている。母さんの得意武器はナイフだ。

 接近戦ではナイフ二刀流で戦い、敵が遠のけば投げナイフで攻撃する。特に投げナイフは、狙った所に百発百中で命中させられる。遠戦・近接戦の両方いけるのだ。

 なので今でも、料理の時は普通の包丁を使わず、ナイフを使っている。曰く、使い慣れているからだとか。


 「お~い、帰ったぞ!」

 「あっ、父さんだ!」


 父さんも帰ってきた。

 父さんは、()が収められたホルダーを腰のベルトから外し、壁のフックに引っ掛けた。父さんの得意武器は斧だ。

 父さんは、斧でありとあらゆる物を破壊したり、薪のように真っ二つにしてしまうのだ。そんな父さんは、特技を活かして、普段は木こりをしている。


 父さんと母さん。2人共、学校では優等生だったとか。僕とは雲泥の差だ。本当に2人の子なのかと疑問を感じたことすらある。

そんな僕の内心を察してか、


 「得意武器がなくても、生きていける!」

 「この国に生まれたからといって、別に戦いに人生を捧げる必要なんてない!」

 

 等と言って励ましてくれる。

 確かに、清掃・農作業・事務職等、得意武器がなくても、襟好みしなければ仕事はあるから、生きては行ける。

 でも、僕にはそれが、単なる現実逃避に思えて仕方がなかった…


 夕飯後、僕は部屋に戻った僕は、ベットで本を読んで過ごした。読書が僕の数少ない楽しみだ。

が、どうしても、今日の出来事を、反芻思考(はんすうしこう)してしまう。


 「無能」


 その二文字が頭からなかなか消えず、脳内を圧迫し続けた。そのお陰で、本の内容なんて、全く入ってこなかった。

 そんな感じのまま、その日は寝落ちした。

朝になって、寝返りが原因で、本に思いっきり折れ目がついてしまってるのを見て、地味にショックを受けた。


 今日は、学校が休みなので近くの森に行った。幼馴染のルミは、用事があるので休みながらも学校に行くようだ。劣等生と違い、優等生は多忙で忙しいのだ。

 それは兎も角、


 「あっ、木苺だ!それにヒラタケもこんなに!」


 食べられる野草や木の実、キノコ類をカゴに入れていく。こんな僕だが、幼い頃から森や山に採取に行って来たので、野草や木の実等の知識だけは、少し自信があるのだ。

偶に森などに出向き、野草やキノコを採取し、売って家計の足しにしている。

 そんな時、


 ガサガサ!


 「!スライムだ!」


 草かげからスライムが出て来た。

この世界には、魔獣(モンスター)と呼ばれる生物がいる。無害なものもいるが基本的には、人に対して有害な存在だ。森や町外れに時折出現し、襲われる事がある。そんな時、大抵の人は、自分の得意武器で撃退する。

学校卒業後は、何割かの人はそのまま国の軍に所属するが、大抵は一般の仕事に就く。そんな人達でも、モンスターに遭遇した時に、身を守る為に戦う(ケース)がある。自衛という点でも、学校での訓練は無駄になる事は略略無い。


話を戻す。

 スライムは、ゼリー状の身体をした、数あるモンスターの中でもひときわ弱く、毒も無いので(中には毒を持つ種もいる)、学校で訓練を積んでいれば簡単に退治できるモンスターだ。

 しかし、僕は…


 「ウー!ウー!」


 スライムのゼリー状の身体で顔を塞がれ、危機的状況に陥っている。何とか、近くにあった石ころや木の枝で追い払え、危機を脱した。


 「ハーハー!!…僕はスライム以下なのか…」


 呼吸が落ち着いてから、指にはめた指輪に目をやった。


 「表示(オープン)!」


 そう言うと、指輪の上に「モンスター討伐数=0」と表示が出た。

 これは「計測指輪(カウントリング)」。モンスターを討伐した数及び、対人戦の結果等が自動的に記録される仕組みになっている。記録の書き換えは不可能で、討伐数・戦果が正確に残る。

 完全な各個人専用で、紛失しても、国の機関に頼めば、場所はすぐに割り出される。売買は不可で盗めば重罪となるので、老若男女問わず、それはそれは厳しーく罰せられる。なので、たちの悪いイジメっ子であっても、指輪に手を出すものはいないという。


 優秀な人なら、討伐数・戦果も中々の数値を誇るようだが、僕の場合は、両方共0。当然だった。得意武器のない僕は、モンスターを討伐した経験もなく、模擬戦の経験も皆無だ。


 「はぁ~…」


 それを見て、ますます虚しくなったのだった。

 そんな時に、


 「ねぇ、ここ何処なのよ!?」

 「さぁ…さっきまで居た、原っぱじゃないのは確かだな…」

 

 人の声がした。僕以外に誰か来てるのかな!?

 声の方に行くと、一組の男女がいた。


 「スマホも圏外だし…」

 「ネタ合わせでよく来てるけど、東京にこんな場所()あったのか…」


 スマホ・ネタアワセ・トウキョウ…聞き慣れない単語が会話に使われてる。

 それに2人共、服装も見慣れないものだった。気にわなったが、見たところ悪い人ではなさそうだ。なので、思い切って話しかけてみた。


 「あの…」

 「「わぁー!!」」

 「あぁ、驚かせてすみません…」

 「あっいや、こっちこそいきなり大声だしてすまない!」

 「でも、人がいてよかったわよ!」

「だな!君、見たところ外国の人みたいだけど、ココは何処なのかな!?」

「(ガイコク!?…)ココですか?ココは、アトミックス帝国の西の方の森ですよ!」

「!?アトミ…帝国!?」

「東京じゃなくて!?」

「トウキョウ?…」

「あぁ、あれかな?そういう名の、テーマパークか何かかな!?」

「テーマ…パーク?…」

「そう、テーマパーク…あぁ、日本語で言えば、遊園地かな?」

「ユウエンチ?…ニホンゴ?」


知らない単語が次から次に出てくる。


「ちょっと、どうなってるの?」

「さぁ…一応、言葉は通じてるようだけど…」


ふと女性が空を見上げた。

すると、


「!?ちょっと…あれ!…」

「?…なっ!!」


男性も空を見上げる。そして驚愕の顔をした。


「た、太陽が2つある…」

「そ、そんなまさか…」

「?…」


太陽が2つ?そんなの当たり前の事だけど…


「ここ、地球じゃないわよ!…」

「みたいだな…てことは…」


男性は少しためてから、


「まさか俺達、異世界に来ちまったのか!?」

「嘘でしょ⁉ラノベじゃないんだから…」

「(チキュウ?イセカイ?ラノベ?また知らない単語が…)」

「でもそれなら、現状の事にも、辻褄は合うだろ…」

「だからって…」


2人共、顔を真っ青にして、深刻そうな表情になった。今一つよく解らないけど、この人達にとっては、とても良くない状況下にあるのだけは、雰囲気で分かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ガッガッガッ!


「どう、お口に合うかしら?」

「えぇ、美味いっすよ、奥さん!」

「全くもう、もっと落ち着いて食べなさいよ…あぁ、本当にすみません、いきなり来た上に、ごちそうになってしまって…」

「気にしなくていい。ほら、遠慮せずに食べなさい!」


例の2人の男女。2人は今、僕ら親子と共に、食事を取っている。食卓には、僕が森で採ったキノコと野草の入った鍋がある。形や色が悪いなど、売り物にならないヤツはこうやって、我が家の食卓に上がるのだ。

 あの後、2人は行く宛も帰る宛もなく、途方に暮れており、更には、お腹も空かせていた。


グー!


「腹の虫がなってる…腹減ったな…」

「そういえば、今朝も2人で1枚のトーストを、分けて食べただけだったもんね…」


 2人でトースト1枚って…この人達、どうやらお金も余り無いらしい。

そんな様子の2人を見かねて僕が、家に招いたのだ。

 人が良い両親は、快く受け入れてくれた。


「ゲイニン…ですか?…」

「そう、お笑い芸人だ。まぁ、コメディアンとも言うな!」

「全って言っていい程、売れてないけどね…」


食後、お二人の事を聞いた。

この人達。男性は「ケント」さんで、女性の方は「マイ」さん。僕とルミと同じく、幼馴染らしい。

お二人はこの世界とは別の世界の人で、お笑い芸人という仕事をしていたらしい。

最も、それでは全く食べていけず、アルバイトという仕事(やつ)をして食いつないでいるのだとか。

で、次の舞台に備えて、ネタ合わせというのを、近所の原っぱでしていたら、突然濃い霧に包まれ、気付いたらあの森にいたのだとか。

何とも信じがたい話だけらども、嘘は言ってないみたいだし、お二人の姿等から見て、どうやら事実の様だ。


「にわかには信じられんが、君達の身なり・持ち物といい、嘘ではなさそうだな…」


父さんも似たような心境らしい。


「しかし、これから先、どうすりゃいいんだよ俺等…」

「そうね、コッチには家族・親戚は愚か、知り合いも友人もいないもんね…」


暗くなってきたので、話題を変えようと、お二人の荷物について聞いてみた。


「ところでそのカバンの中には、何が入ってるんです!?」

「あぁ、これか!?コレは…」


ケントさんは、カバンの中身を机の上に広げた。それらは、


・カラフルな羊の毛ような物(後にアフロのカツラと聞いた)

・鉄製の丸いお盆(ネタでボケた時に、バコンってやるのだとか…)

・メイク道具


等だった。他にも変な衣服に、厚めの紙を折りたたんだ物など、色々と入っているようだ。何でも、舞台でネタというヤツをする時に必要なのらしいけど、一体全体どう使うのかは、僕も両親にも見当もつかなかった。


「色々と必要なんですね!」

「まあな!っても、全然ウケないんだよな…」

「だよね…あれこれ試行錯誤してるんだけどな…」

「後輩は次々と売れてくのに、俺等は…」

「そうそう。この前も、売れっ子になった後輩に「まだ辞めてなかったんスカ?」って、嫌味言われたもんね…」

「あぁ…M-◯・キン◯゛オブ◯ントと、賞レースは軒並み1回戦落ちだしな…」

「前のM-◯なんて、小学生の女の子のアマチュアコンビが2回戦に行ったのにね…」

「あぁ、アレはマジで辛かったな…俺等は素人の子供以下なのかってな…」

「才能ないのかなアタシ達…」


空気がどんどん暗く、そして重くなって行く。知らない単語のオンパレードだが、この人達もまた、苦労しているという事だけは分かった。

そんな空気の中、僕はこの人達に親近感を感じた。得意武器がなく、スライムにも負ける学校きっての劣等生である僕には、お二人の気持ちが痛い程よく解った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


数週間後。


パキャ!!


家の庭で、薪が割れる音が辺りに響き渡った。


「ふー…」


 ケントさんが切株に腰をおろし、首にかけたタオルで汗を拭った。


「ケント!この位でバテてるようじゃ、話にならんぞ!薪割りが終わったら、この薪を町の方に卸しに行くぞ!」

「うっす!」


父さんとケントさんが、庭で作業をしている。

行く宛の無いケントさんとマイさん。2人はあの日以来、僕の家に居候していて、仕事の方も、僕の両親が世話した。

ケントさんは、父さんの手伝いを。

マイさんは町の食堂で働いている。その食堂は、母さんの友達がやっているので、早い話がコネだ。そこで調理を手伝ったり、食器洗い・掃除をしている。

2人共、毎日汗だくになっている。大変そうだったが、他に頼れる人も居ないし、贅沢は言ってられないと、必死に働いている。

最初は慣れない仕事に四苦八苦していたけど、数週間程続けた事もあってか、次第に慣れたようだ。


因みに、僕はというと…

 学校にて。


「無能のアーネストだ!」

「よっ、劣等生代表!」

「キャハハハハ!」


あいも変わらず周りからバカにされる毎日を送っていた…

正直、もうウンザリだった。こんな所通いたくない。でも学校は、よっぽどの事がない限り、中退は認められない。

しかし、


「…帰ろう…」


まだ授業が残っているが、その日、僕は初めて学校をサボった。


「…さてどうしようかな?…」


サボったはいいが、このまま家に帰っても、母さんになんて言えばいいんだ!?

等と考えていると、町が騒がしいのに気付いた。

元々、活気のある町だったが、今日は何時もと様子が違った。

皆が皆、顔色が変だ。明らかに普通じゃない。


「ハァハァ…」

「マイさん!」

「あっ、ネストくん⁉」


息を切らしている走っているマイさんと出くわした。そして、彼女の口から驚くべき事を聞いた。


「ス、魔獣の集団暴走(スタンピード)!!」

「そうらしいわよ!アタシもさっき聞いたばかりだけど…」


スタンピード。それは、なんの前触れもなく、モンスターが大量に出現し、町や村、国に総攻撃を仕掛けてくるという、魔獣災害だ。理由は全く、分かっていないが、歴史上、スタンピードによって滅びた国は数しれずとのこと。

まさに、国の存亡の危機なのだ。

そのスタンピードが、このアトミックスに向かってきているという。しかも、かなり大規模なモノらしい。


直ぐ様、国から全国民に、避難勧告が発令された。

大半の国民が、ろくに荷物を纒めてる暇もなく、避難している。それ以外の国民はというと…


国の軍隊の駐屯地にて。帝国の軍隊、国軍に緊急招集がかけられ、階級問わず国軍の全兵がココに集まった。


「諸君!これより我らは、スタンピードを迎え撃つ!普段の訓練の成果を発揮する場面だ!精鋭揃いのわが帝国、国軍一同並びに、志願者達よ!!」


大勢の人々の前で、国軍の将校が話している。聞いているのは、軍に在籍している兵士達。男女約1000名と、それ以外の人達、志願者約300名。

志願者とは、普段は一般人として生活している人達だ。普段は普通の仕事をしているが、国の危機の際、軍と共に出陣する事がある。別名、志願兵と呼ぶ。今回の様に、国を守る為、軍と共に、スタンピードに立ち向かう決意をした人達だ。

無論、強制ではない。本当に命をかけて、国の為に戦う気のある者が、この場にいるのだ。


「国軍兵・志願者共々、逃げたければ逃げてくれて構わぬ!本当に命を失う覚悟がある者だけ、ココに残るのだ!!」


アトミックス帝国は軍事国家だが、決して、強制で人を戦地に送るなんてことはしない。本当に覚悟のある人だけが戦地に送られるのだ。

将校はその場の約1300名に対して言葉を放った。が、立ち去る者は皆無だった。

本当にココには、スタンピードと戦う覚悟を持った者だけがいるのだ。

そんな人達の内、志願者の中には僕の父さんがいた。生まれ育った国を守る為、志願者になったのだ。

僕がそれを知ったのは、国の外れの避難地でのことだった。母さんから聞かされた。

何で父さんが、と僕は思ったが、母さんによると、父さんは若い頃、家族で別の国にいる親戚の所に行った。そこで運悪く、スタンピードが発生した。規模は至って小さめだったが、そのスタンピードで、父さんは両親と妹を失ったらしい。

その経験から、父さんはスタンピードを激しく憎んでおり、黙っていられなくて、志願したのだとか。

母さんも初めは止めたが、覚悟を決めた父さんの顔見を見て、送り出す事にしたとだとか…


そして、いよいよ、戦いは始まった。小高い丘の上の避難地からでも、戦いの様子は遠巻きながらも見えた。

スタンピードの先陣は、ゴブリンといった低級モンスターだった。国軍・志願者等の連合が真正面から迎え撃った。低級がゆえ、戦闘力の低いゴブリンに苦戦はしなかった。

スタンピードの先陣が崩れた。が、モンスター達は休む間もなく押し寄せてくる。迎え撃ち続ける連合軍。

 拮抗していたが、無数に湧いて出てくるモンスター達。次第に守りの隙間から漏れ出て、町に到達するモノが出て来た。


 「おいあそこ!」


 誰かが指差す。その先には、犬人間(コボルト)と呼ばれるモンスター数匹が、町の肉屋を荒らしている。閉じていた戸を破壊して中に侵入、商品の肉を手当たり次第、貪るように食べている。


 「あぁ、ワシの店が…」


 肉屋の店主が涙目になっている。あそこの肉屋は、上等な肉を多く取扱っているから、被害額は相当な額になるだろう。

気の毒だけど仕方がない。命の方が大事だ。


そんな感じで、避難地から戦闘を傍観している人々。避難者の中には、学校の関係者も大勢いた。学校も、避難勧告が全生徒・職員出された。おかげで、学校をサボった事は有耶無耶になりそうだ…

等と、なんとも不謹慎な事を思ってしまった。ますます、自分が嫌になった…


と、そこに、マイさんがやって来た。


「ネストくん!」

「マイさん!ケントさんは?」

「それがね、ケントったら、家の方に行ってしまったのよ!!」

「!!ケントさんが!!何で?…」

「それが…」


聞けば、家にある自分達の荷物を取りに行ったのだとか。

実はケントさん達は、幼い頃に両親を失くしていて、施設で育ったらしい。荷物には、亡き両親の形見の品が入っているらしいが、突然の避難勧告だったので、家に置いたままになっている。それを取りに戻ったのだとか

スタンピードは規模が大きければ大きい程、爪痕は大きくなる。モンスターを全て撃退しても、それ相応の被害は出る。今回の様な、大規模なスタンピードならば、例え殲滅できたとしても、町への被害は甚大だろう。竜巻(ハリケーン)が通った後のように、町はほぼ、原型を留めていないだろう…

そんな場所に向かうなんて、大嵐の中、荒れ狂う海に入るよりも危険だ!


「そんな、いくら大事な物とはいえ…」

「アタシも止めたんだけど、アイツ、静止を振り切って行っちゃったの…」

「…」


ダッ!


「!?ネストくん!!」


気付いたら僕の足は勝手に動いていた。


所変わりウォルターズ家。


「はぁ、はぁ…ケントさん!」

「ネストくん!何でココに!?」

「マイさんから話を聞いて、飛んできたんですよ!無謀すぎますよ!」

「すまない…何しろこれは…」

「ご両親の形見の品何でしょ!?それも聞きましたよ!」

「あぁ… 」


 ケントさんの手には、小さな布袋が2つ、握られている。ケントさん達がいた世界の御守りというやつらしい。それも、亡き御両親の手作りらしい。


「兎に角ケントさん、早く逃げましょう!」

「ああ!」


2人で家から出た。その時だった。


 『ギギー!』

 「!?しまった、ゴブリンだ!」


 僕らの前に現れたのは、ゴブリンの群れだった。

 僕らはゴブリンの群れに囲まれてしまった。逃げ場は無い。


 「くっ…」

 「すまないネストくん、俺のせいで…」


 本気で申し訳なさそうな顔をするケントさん。

 彼を咎めるつもりはない。僕に戦う(すべ)があれば…


 『ギガー!』


 等と思っているうちに、ゴブリンが襲って来た。万事休す。 

 その時だった。


 「火球(ファイヤーボール)!」

 

 何処からともなく飛んできた火の玉が、数体のゴブリンを焼き払った。


 「大丈夫ネスト!?」

 「ルミ!?」


 現れたのは、僕のお馴染みのルミだった。

 今の火の玉は、彼女の攻撃魔法だ。


 「なんでココに…」

 「おばさんから聞いたのよ!スタンピードの真っ只中に、それも丸腰で、無茶よまったく…」


 僕らの事を母さんから聞いて、助けに来たのだという。

 

 『ウガー!!』


 等と話してたら、残ったゴブリンが襲って来た。仲間をやられて、怒り心頭のようだ。


 ヒュン!!


 バシッ!!


 『ギャッ!!』


 怒り心頭のゴブリンを紐状のモノが襲い、薙ぎ払った。


 「ルミの言う通りよ、アンタ!」

 「サリーサ!?」


 声の方には、鞭を持った少女がいた。彼女の名はサリーサ。ルミの友人だ。鞭持っているから分かるだろうが、彼女の得意武器は鞭だ。鞭を手足の様に自由自在に操れるのだ。

 そして間もなく、ルミとサリーサの2人によって、ゴブリンの群れは全て倒された。

 

 「コレで全部倒したわね!?」

 「ええ。さぁ、早く避難を…」


 ドシーン!!


 ゴブリンの群れを倒した直後、大きな地響きがした。

 

 「な、何だ!?」

 「あ、あれは…サイクロプス!?」


 僕らの目の前に現れたのは、一つ目の巨大な鬼、サイクロプスだった。これまた巨大な棍棒を持っている。

 サイクロプスは上位ランクのモンスターだ。


 「サイクロプス…」

 「こんな上位ランクのモンスターが、こんなにも早く来るなんて…」


 2人は顔色を悪くしている。

 2人共、学校の成績はいいが、上位ランクのモンスターの相手なんて無理だ。


 「ネスト!その人を連れて逃げて!」

 「ルミ!?」

 「あたし達が時間を稼ぐから、早くしなさい!」

 「(サリーサ)まで…」


 2人共、僕らの為に囮になるつもりだ。

 でも、


 「そんな…2人を置いてくなんて…」

 「アンタに何が出来るっていうのよ!?ナイフの1本も、マトモに使えないアンタに!?」

 「…」


 返す言葉がなかった。確かに、得意武器のない僕なんていても邪魔にしかならない。

 だからといって、2人を犠牲になんて…

 そう考えていると、


 「コンニャロ!」


 ケントがカバンの中身を、サイクロプス目掛けて投げ付けた。例の、お笑いと言うのに使う言っていたやつだ。


 コン!カン!


 サイクロプス命中したが、ノーダメだ。


 『ウガー!』


 しかし、ノーダメでも気に障ったのか、棍棒を振りかざすサイクロプス。そして、棍棒を地面に叩き付けた。


 ド~ン!!


 地震と間違うくらいの衝撃波が走った。

 皆、転倒した。その際ケントさんのカバンの中身が散らばった。


 「うぅ…!?」


 見ると、サイクロプスが転倒したルミとサリーサに棍棒を振り下ろそうとしていた。


 「ルミ!サリーサ!」


 僕は思わず、目の前に落ちてた、ケントさんの荷物の1つを思わず掴み取ると、サイクロプスの方に走った。

 何の宛も作戦もない。ただ、無我夢中での行動だった。

 しかし、初めて手にしたソレは妙に、僕の手に馴染んだ様に思えた。


 「うわ~~~!!」

 「ネスト!?」

 「やめなさいって!?」


 2人声も耳に届かなかった。ただ僕は、2人を守りたい一心だった。

 そして、手にしたそれをサイクロプスに叩き付けた。

 

 パシーン!!


 次の瞬間、サイクロプスはまるでバットで打った野球のボールの様に飛んで行った。


 ド~ン!!


 吹っ飛んでいったサイクロプスは、ココから離れた所にある岩崖に頭から突っ込んだ。


 「「「「……えっ………」」」」


 皆が皆、目が点になった。


 「サイクロプスが…」

 「ちょっとアンタ、何したの?」

 「さぁ…」


 当の本人である自分が聞きたいくらいだ。

 考えられるとしたら、これだ…

 厚紙を折り畳んだだけのコレのお陰だとしか…


 「ケントさん、コレは何なんですか?ケントさんの故郷の、特別な武器か何かで…」

 「…セン…」

 「えっ…」

 

 よく聞こえなかったので、聞き直した。


 「何て?」

 「いやだから…()()()()だよ!ハ・リ・セ・ン!」

 「ハリセン!?」

 「そ!」

 

 ソレはハリセンと言うらしい。

 ケント曰く、お笑いの小道具らしい。

 そして何より、コレは()()()()()()とのこと。武器でないにもかかわらず、何故か、妙に僕の手にシックリくる。


 『ギギギギ!』


 等とやっている間に、新手のモンスターが来た。人間大のネズミ、ビッグラットだ。上位ではないが、群れで行動する厄介なヤツだ。

 そして何よりも、獰猛で、獲物を見つけると、見境なく襲ってくる。


 『ギギー!』


 一番近くにいた、僕を襲って来るビッグラットの群れ。

 しかし、不思議と恐怖心はなかった。

 そして僕は徐ろに、手にしたハリセンを振った。


 パシーン!パシーン!パシーン!


 軽快な音をたてて、次々にビッグラットを弾き飛ばした。


 「ウソ…」

 「あのネストが…」


 気付けば僕は、ビッグラットの群れを全滅させていた。


 「表示(オープン)!」


 そして指輪を展開した。

 それまで0だった討伐数が、早くも20台に達していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ふむ…やはり、ただの厚紙だな…」

 「何の魔力も何も感じませんな…」


 ココは国の研究機関。例のハリセンを専門家達がアレコレと鑑定しているところだ。


 アレから暫くして、兵・志願者達の活躍のお陰で、スタンピードは無事に収束した。父さんも無事だった。

 ハリセンの話を聞いた機関が、騒ぎが落ち着いてからココでハリセンを研究したいと言ってきた。

 僕もハリセンで何故アレだけの事が出来たのか知りたく、承諾した。


 研究の結果、このハリセン自体には、特別な力は無いと結論付けられた。

 他の人が持っても、アレほどのパワーは出なかった。力を出せるのは、国中探しても僕だけだった。


 ハリセンと僕。この組み合わせによって、凄まじいパワーが出る。それは、専門家曰く、天文学的な奇跡とのこと。

 何でも奇跡的に、ハリセンか僕のレベルに合っていたらしい。


 いや、理由なんてどうだっていい。

 ハリセンとの出会いで僕は変われたのだから。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ハー!」

  

 パシーン!


 今日は学校の生徒達が、モンスターが多数生息する森に入り、モンスター狩りをする実戦をする日。

 僕は、クマのモンスターを仕留めた。

 勿論、例のハリセン片手に。


 「絶好調ね、ネスト!」

 「ルミ!」

 「大したものね。あっという間に、私の討伐数を超えちゃったんだもん…」

 「ヘヘ!」

 「学校でも、例の3人組を負かしたんですって!」

 「まあね!」

 「まさかそれが、あなたの得意武器とはね…」

 「正直、自分でも信じられないよ…」


 自分の得意武器が分かったお陰で、もう誰も、僕の事を才能ないとは言わない。


 「そういえば、ケントさん達元気?」

 「ああ、元気にしてるよ!」

 

 ケントさんとマイさん。元の世界に帰れる見込みはないままだけど、もう吹っ切れたらしく、この世界で生きて行くと決めたと聞いた。

 町の方で仕事に就き、2人仲良し暮らしている。


 「慣れれば、元の世界よりも居心地いいよココ!」

 「住めば都ってやつかしらね!?」


と言っていた。

因みに、仕事先の飲み会で、余興で例のお笑いというやつを披露したら、結構受けたらしい。この世界の人には刺さるのかもしれない。

 

 「あっ、クレイジーボアだ!」


 イノシシのモンスターを見付けた。畑を食い荒らす迷惑なやつだ。向こうもコッチに気付いたらしく、鼻息を荒くしてコッチに向かって来た。


 「よ~し、こい!」


 僕はクレイジーボアとの戦闘に入った。


 「張り切ってるわねネスト!」

 「あっ、サリーサ!」

 「イキイキしてるわね!」

 「ええ。もう前みたいに、ため息も暗い顔もしてないわ!」

 「変われば変わるものね!」

 「そうね!」

「…てか、何であんな厚紙を折っただけのやつで、あんな事が出来るのよ!?…」

「うん。それが本当に謎だよね…私も試しに使わせてもらったけど、ああはいかなかったよ…」

「おかしな話ね…」


 『ブーー!』


 等と2人話している内に、僕はクレイジーボアを仕留めていた。


 「ヤッター!」

 「ほらルミ!あたし達も負けてられないわよ!」


 そう言って鞭をパンと張るサリーサ。


 「ええ。ぼやぼやしてたら、置いて行かれるもんね!」


 杖を構えるルミ。

 2人もモンスターに挑みに向かった。


 「クレイジーボアは、皮から骨まで余すことなく使えるからな。持って帰れば母さん喜ぶぞ!」

 

 母さん、父さんが無事に帰ってきた事にも、僕の得意武器が判明した事にも大いに喜んでた(正確には、僕の得意武器がないと言う悩みが解消されたことにだけど)。

 父さんと母さんの為にも、もっと頑張らないとな。


 そう思っていたら、次の獲物(モンスター)を見付けた。


 「よし。次はアイツだ!」


 パシーン!!


 それから間もなく、僕の得意武器「ハリセン」の音が、森に木霊(こだま)した。


ーー完ーー

 終盤付近がやや雑になってしまいました…

 ちょくちょく直していきたいと思います!

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