098. 探し物をしていたら
「初見はみんな驚くのよネェ。新鮮な反応で良いワ」
呆然と飛び交う本を眺めている私の横で、リーナは慣れたように手に持った紙切れを上に差し出す。すると何冊かの本がこちらへと向かい落ちてきた。
「高所からの飛び降りはご遠慮願いまーす!?」
「こんな状況でもツッコミを入れるなんて……コイツ、出来る」
「照れるぅ」
思わず口をついて出たツッコミといきなりイケボになったリーナの返答の中、勢いよく重力に従っていた本達はぶつかる少し手前で重力に反逆した。ふわりと滞空するように動きを緩め、お行儀よく重なって持ちやすいように整えられる。
「びっくりしますよね! でも本さんたちが自分できてくれるので、高いところにあっても届かないことがないんですよ! 便利です!」
きらきらした弾んだ声のレラ、君だけはこの空気に染まってくれるな。え、もう遅いかも? そっかー。
なんて脳内コントをしている間に、二人が仕組みを説明してくれた。
どうやら最初から飛んでいたわけではないらしい。いや、渡り人が来る前は、ということだけど。
崩落があったその日、飛行実験の最中だったとかで、仮で組み込んだ術式がそのまま保護されてしまったそうな。
本の飛行実験ってなんだよとは思うが、背が低いのがデフォルトのスピリトゥス属発案とのこと。検索も出来る、自分で飛んできてくれる、ただし発動コストとページが痛むのは除く、みたいな、実用化三歩手前くらいの精度だった。が、今となっては崩落現象で術式自体も紛失したとかで、解除するのも更に発展させるのも難しいそう。コストや痛み大丈夫?という疑問は保護だからで片付けられた。保護ぱねぇ。
ものとしてはすべてが飛んでいるわけではなく、各地からかき集められた書物はきれいに本棚に並んでいる。こっちが通常の図書館として見慣れた光景だ。
それとは別に高い部分はバサバサとページをはためかせて、何十冊……下手したら百冊以上の本が飛び交う。
先ほどリーナが行ったように、欲しい内容のキーワードや文章を専用の紙に書いて差し出せば飛んできてくれるということで、早速、穀物のワードを差し出したところアバウトすぎたのか本に埋もれそうになった。慌てて種のワードも付け足せば、五冊ほどまで数が減る。ただ残った本をざっと斜め読みしたところ、選別とか、育成方法とか、品種改良の歴史とか、種自体がどうこうというものはない。農業には役立ちそうだけども、すでに契約パートナーに丸投げしてんだよな。自分で育てるのは家庭菜園で十分です。
「やっぱりないなー……」
麦、小麦、大豆、なんてピンポイントな品名でも芳しくない。なお料理レシピがあるかなと思ったがそれもなかった。逆に麦という主人公のラブロマンス小説が飛んできて、そんなことある?ってなった。中身はちゃんと書かれてそうだったので興味ある人は読んでみると良い。
「何を探しているのぉ?」
「種……小麦とかの入手方法かな」
「情報屋も考察班も隅まで調べたそうだけど、見つかってないわネェ」
「あー、まあ、望み薄だとは思ってた」
そりゃあ図書館があるなら調べないわけはないわな。知ってた。
実際に自分でも無いことが確認できたし、この後どうすっかな。
「……知識管理施設って、普通に入れそうだよな」
ボソッと独り言として呟いた言葉に、一人頷く。まあそっちも調べられてる可能性もあったが、基本スキル習得の場所だろうから、蔵書量的に隅から隅まで読み尽くされていることもなかろう。目的のものがあるとも限らんけど、今のところ打開策がないのだから、図書館からほど近いこともあるし足を伸ばしてもいいかと思う。
「条件が厳しいって噂の場所ネ。一緒に行けばワタシも入れるかしら?」
「条件確定したんだ?」
「自力でスキルを獲得したら、ってことらしいわネェ。このゲーム自力獲得はかなり渋いし、獲得方法もまだ確立してないのよぉ。あんたどうやって取得したの?」
「めちゃくちゃ……頑張りました……」
遠い目をして爆発する肉に思いを馳せる。答えになっていないと言われても、頑張った以外に答えられんのよ。それは他のスキル自力取得者も同じ感じらしい。全く同じ素材同じ製法でチャレンジしてもできる人とできない人に分かれるんだとか。
「レラも行く?」
「は、はい! 気になってました! あ、でも、そろそろエドとの待ち合わせ時間……」
「連れておいでよ。待ってるから」
旅は道連れ世は情け、ではないが、急ぐものでもない。程なく合流したエドも加えて、四人で知識管理施設へと赴く。
レラとエド、ずっと一緒にいるのかと思ったけど、最近はそうでもない。今日はモルトと戦闘訓練してたらしい。もっと役に立ちたいからって、なんて健気。泣かせるね。
【調理(知識)】を得たとき以来の訪問となる知識管理施設だが、今日はきちんと建物前にエステラーゼが居た。ピシッとした直立不動で二本の尻尾だけがゆらりと揺れている。こちらに気づいて姿勢を崩しかけたが、すぐに一人じゃないと気づいて元に戻っていた。んー、相変わらず残念属性。
「何か御用でしょうか」
「中に入って調べ物したいんだけど」
ストレートに要望を伝えれば、観察するような目線が身体を舐めていく。
「新しく習得できるものはありませんが」
「うん、単純に蔵書を読みたい」
「……まあ、いいでしょう」
暫し逡巡のあと、ゲートが開かれる。扉っていうよりゲートだよねここの演出。連れて入るのにも何も言われなかったので、資格者が同伴していればいいみたい。……じゃあここでなんか得るのも難しそうだな。考察班が複数人で入り隅まで見てる可能性が高まってしまった。一人きりなら芽はあったんですけどねー。
ゲートをくぐった先には待合室、かと思いきや、直で本が並ぶ区画へと入っていた。最初に訪れたときとの違いに面食らうも、どことなく空気が重く動いていない感じがするから、倉庫とかバックヤードかな?
あらためてスキル取得のときを思い返してみると、本は開けたけど、なんか読めない文字だった記憶が。最初にスイに箱庭作ってもらったときに流れていた文字に似てたって思ったから、神様用のものなんかね? 今の今まで忘れてましたけど! もっと早く思い出して自分!
「初めて入ったワ。なんというか……」
「倉庫、ですかね?」
「すっげぇ!いっぱい本がある!」
三者三様の反応に、やっぱり倉庫だよなと頷く。
まあ、来てしまったからにはちゃんと調べてみよう。まずは倉庫っぽいけどほんとに読める本なのかってところから。
図書館とは違って飛んでいる本もなく、四方の壁はすべて蔵書で埋められ、空いている床には積み上がった本と文書。少しくすんだ色合いの羊皮紙、宝石が埋め込まれた分厚い上製本、そういったいかにもファンタジーなものが積み上がっているが、それらは置物のようで動かしたり開いたりは出来なかった。
手に取れるのは壁に整理されている本で、こちらは問題なく中身を読むことが出来た。背表紙にタイトルがあるものもあれば、かすれて読めないもの、文字自体ないものが混在しているから、目的のものを探すのは骨が折れそうだ。
「なあなあ、レラ、これ読める?」
「えっと、花の芽の神とシルクの獣? 絵本、みたいだね?」
「やっぱ渡り人は読めるんだ!」
「エドは読めない、の?」
「読めねえ!!」
ケラケラとした笑い声が室内に響く。
「エドが文字読めないの意外だな」
「お買い物は問題なく出来てるわよネェ。数字は大丈夫なのに」
「よく使うのは読めるぞ! この絵本は、多分古い言葉! こっちのは読める!」
「へ、ぇ?」
レラの手にしている絵本と、エドが掲げた薄い冊子を見比べて首を傾げる。
戸惑っているのはレラもリーナも同じらしく、どうやら渡り人には同じ文字に見えているが住人には違う文字だということがエドに聞き取りして解った。
「ヒントになるかしらね?」
「どうだろうなあ。エド、その、読めない文字が書いてある本で、植物のイラストがありそうなの探せる?」
「わかった!」




