096. お前はそれでいいのか
「外に出るの珍しいね!」
「人を引きこもりみたいに……確かに初対面で戦闘に期待するなとは言ったけれども、まったくしないわけじゃない。魔物、いや、敵性のドロップは有用なものも多いからね」
パラトスがわざわざ言い直したのは、このゲームに明示的な魔物が少ないからだろう。
今まで確認されているいわゆる通常ゲームのモンスター、敵性生物とも言い換えられるそれは、識別すれば大抵が猛獣。魔物は一握りだ。所によって植物だとか機械だとかもあるから、生物と一括りにするのはちょっと違和感あるけども。
目的はすぐ先のボスなので、早速四人でパーティを組む。それぞれUIを調整したり、パーティを組んだことで表示された情報をチェックしたり。
パーティを組んだときに開示される情報は基本のHPとMPは固定で、その他はプレイヤー側で設定可能なものも多い。まあ大抵開示するのはジョブ情報や基本装備くらいにとどまるけど。やろうと思えばスキルの開示も出来る。装備もオーダーメイドだと名前以外の性能が隠されていることが多いかな。
野良でやるときには何かと便利。あまり打ち合わせしなくてもだいたい把握できるから。
「ジョブは術士か」
「そう。水、風、火、土一通り使えるようにしてるけど、スキルレベルは高くない。薬品投げたほうが貢献できる」
「爆薬?」
「どうしてさ。残念ながら回復や毒……デバフ効果だ」
「初対面で爆発してたし」
呆れたように諭されるが、こちらにだって言い分はある。思わず口に出た反論は軽く肩をすくめることでかわされた。
「実験に失敗はつきものだ。爆発はアイテムじゃない」
「リトさんこう言ってはりますが」
「ほんに努力家でおまんすなあ。おかげでえろう名声が轟いてはる」
リトのすぐに合わせてくれるところ好きだよ。
すごく遠回しにパラトスを非難しつつ、彼女は直剣を抜き放つ。
「さて、では行こうか。ボスの情報共有はしなくてオッケー」
「初見です! なんにもわかりません!!」
「え、ちょっと」
リトの宣言に乗っかる形で手を挙げる。パラトスが信じられないようなものを見る目をして、唯一の経験者であるモルトを振り返るが、彼は静かに首を振った。
「諦めろ。うちはこういう流儀だ」
さーて突撃とつげきぃ!
止められる前に安全地帯の直ぐ側、まばらになった森の中、薄く光の膜がかかったようなフィールドへと踏み込む。
フィールド型のボス戦の場合、ここから始まりますラインがしっかり見えていいね。
先程の安全地帯の広場よりは物が多く、積み上げられたスクラップが点在している。またそこかしこにえぐれた地面や、これ見よがしにダメージゾーンだろう電気が流れる水たまりも見えた。
あたりを見渡しても低いタービン音が鳴っているだけで、ボスの姿はまだ見えない。
「りゅ」
「お、起きた?」
右肩で惰眠を貪っていたリモが短く鳴く。どことなく不快そうなのは、空気中に漂う油と鉄が焦げ付いたような臭いのせいだろうか。
「来るぞ」
最後にパラトスがボスエリア内に足を踏み入れたところでモルトが合図を出す。
プレイヤーの動きを奪う強制演出は無い代わり、パーティメンバー全員がエリア内に入らないとボスは出てこない仕様らしい。モルトの言葉から程なくしてタービン音が近づき、大型の金属の塊が少ない木々をなぎ倒して開けた場所へ躍り出た。
最初の印象はロボット。だが全貌が確認できたときには、それは最初からロボットとして作られたものではなく、飛行機のようなものが複数組み合わさっているのだと解った。頭と胴体のように見えた影は折れ曲がった機体。足のように見えたものは垂直尾翼と水平尾翼が組み合わさったパーツ。ピストン部品が関節のようにそれらを繋いでいて、頭を模した操縦席からは赤い光が漏れている。本来なら翼があるだろう両側には、歪な形で取り付けられたアームが腕のように伸びていた。
「オキャクサマノ、ゴアンゼン、ゼン、ゼゼゼゼ、リリ、リスクハイジョ、ジョジジジ」
「うっわ、壊れてら」
「なるほど暴走」
「モード、killllllllllyar!!!!」
「ホップが壊れてるとか言うから!」
「リトも暴走って言ったじゃないか!」
こちらを認識すると赤い光を明滅させ、アームの先から複数枚の刃が飛び出た。プロペラのように回転しながら両脇から迫ってくるのを各々回避する。交差するように通り抜けた刃はアームの先に接続し、そのまま鋭い爪のような状態へと変化した。
「とりあえず……殴るっ」
敵へと一瞬で接近したリトが、殴ると言いながら直剣で装甲を斬りつける。甲高く耳障りな音がして思わず眉をしかめた。
「……デバフついたね」
「【聴力低下】かあ。なんかザリザリずっと聞こえてくるけどこれか。パラトス解除薬ない?」
「初めて見るデバフだからな。持ち合わせてない」
「いっそ無音のほうが集中できていいんだけど」
まあ動けないほどでもないので、私も攻撃に加わることにする。短剣だとダメージは入らなさそうなので、覚えてる手持ち術の中から……うん、電気回路のショートを狙ってウォーターボールにしよう。
眼の前に水球を浮かべてぶつけようとするが、思いの外機敏な動作で避けられた。
ジェット噴射っていうの? 緊急回避みたいな瞬間のスピードアップで少し離れた場所まで移動する。リトもそれに合わせて更に前に出たが、ダメージゾーンだろう水たまりの奥へ逃げられて迂回を余儀なくされていた。
「こいつちょこまかと!」
「それ悪役のセリフだよなあ」
リトの悪態に感想を言いながら、今度はウォーターショットで弾速を速くしてみるも、これまた大半は避けられた。多少掠るようにあたりはしたけど、ダメージとしては微々たるものだ。
「君は参加しないの?」
「俺、経験者なので」
「一応周回前提って聞いてたんだけどね……」
「まあ一回目は」
パラトスとモルトののんびりした会話を後方に、クレイジー・マシンナリーの動きを観察する。
リトが何度も攻めては居るが、装甲を叩いても継ぎ目を狙っても効果は薄いようだ。それどころか毎回耳障りな音を立てて、デバフ時間が延長されていく。まあ、時間延長だけで効果が重くならないからまだいいが。
こちらも何度かボールやショット、カッターやランスも打ち込んでみたが、全て命中とは程遠い。
ただ、攻撃よりは回避に重点を置いたボスのようで、攻撃頻度は高くないし避けるのもやりやすい。あたったらそれなりのダメージを覚悟しなくてはいけなさそうだが、とにかく狙いが大ぶりなのだ。これはあれか? 計測機器も故障してるとかそういう?
決定的なダメージを与えられないなら何らかのギミックがあるのだろうが……いや単純な火力不足の可能性もあるけども!
さあて、どうするか。逡巡を始める前に、目の端を何かが掠めてボスが回避行動を取る。無駄打ちになるかと思った物体はボスが避けきる前に割れて、中身の液体が機体の一部にかかった。
「リトくん、腐食液だ。気をつけて殴りたまえ」
「壊していい武器じゃないんだけどなあ!!」
パラトスが投げたそれはどうやら装甲にダメージを与えるもの。こちらの武器にまで影響があるようだが、リトは器用に液体を避けてその周辺を殴りつける。いや斬りつけるなんだけど、こいつ斬れないから殴ってると同じなんだよな!
数回は同じようにダメージがなさそうだったが、徐々に液体のかかった部分がひしゃげていく。瞳を思わせる赤い明滅が激しくなっているので、ダメージが通っているようだ。
「ナイスゥ!」
こうなれば後は早い。パラトスが当てやすいようにショットやボールを駆使して進行方向をコントロール。程なくして胴体の一部が無くなり、バチリと内部機構から火花を出す。さてここから第二形態か!
「あ、こいつこれで終わりだから」
「へ?」
モルトの言葉とともにひときわ耳障りな音を上げたボスは、出現したときと同じく木々をなぎ倒して遠くへと去っていった。
――振り上げた拳の降ろしどころください!!




