095. 上納品はこちらです
「ヨバレテトビデテジャジャジャジャーン」
「棒読み!!」
無表情かつ抑揚のない声に思わずツッコミを入れつつ、いつも傍に居る灰雪さんを探す。そんな私たちを置き去りにネネは颯爽と去っていった。
ちょっとスキップしてるのは新たな素材に浮かれてんだな……。
「灰雪は箱庭の方に居るぞ」
「なんで!」
「寝てたから」
「……それは仕方ない」
お猫さまの眠りを妨げてはならぬ。
非常に、ひっじょーに!残念だが。目的の八割が灰雪さんだっただけに。
「軽くしか事情聞いてないけど、食料ほしいって?」
「あー、うん、そうそう。素材や加工品じゃなくって自生するやつ」
「お前のとこ蜂蜜くらいだもんな。タンパク質は取れそうだけど」
「虫食はご遠慮したい」
いや、あれもあれで貴重なタンパク源なのは知っているんですよ。でも他に美味しいものがあるなら好んで食べようとは思わないだけで。食べること自体に忌避感はそんなに持ってないほうだけど、そもそも今回の目的は住人のためである。アマヌスも流石に虫食のみはどうかと思うし、システム的にもオッケーとはならないだろう。なってるならクエスト発行されないはず。
「んー、うちから何匹か渡せればよかったんだけどな」
「できないんだ?」
「それ用のシステム開放してない。牧場ゲーもどきをやらないと譲渡できないらしいぞ」
「お前のとこ良く言えば放牧だもんな」
受け入れはするが放ったらかし、それがモルトの箱庭の状況である。それこそ動物達の餌はどうするんだと思ったら、移住してくる際に最低限の餌は生えるらしい。で、初期は草食動物のみで、草食動物がある程度増えたら次に肉食動物がくるそう。灰雪さんは契約パートナーでもあるので、扱いとしては箱庭移住組とは別とのこと。でもおやつ感覚で箱庭内の小動物狩ったりするみたいよ。世は弱肉強食。
「……受け入れたの、食料になる気持ちどう?」
恐る恐る伺えば、手招きされて近くの椅子へと座らされた。答えをもらえないまま、近場に出ていた屋台から串焼きをいくつか買って手渡される。
「とりあえずほれ、食いな」
「この流れで。まあ食べるけど。ありがと」
鳥か兎かはたまたゲーム特有のネズミか。なんの肉かはわからないが、滴る肉汁と香りが暴力的だ。味付けは塩オンリーのようだが、それが素材の味を引き立てていて無限に食える。うん、美味しい。ビールか焼酎がほしい。
「なんつーか、ゲームでもリアルでも、俺等食ってるじゃん」
「うん」
「自分で育てて情が湧いてるならまだしも、勝手に増える分までこころ配ってられないわな」
「まあー、それは」
「あと身も蓋もないがゲームだし。解体スキルはあるみたいだが、それも取得してアクティブにしなければ、モンスターであれ、小動物であれ、倒した時点でアイテム化するからな」
言外に殺しの忌避感が低減されていることを示唆されて、まあそうだよなあと思う。が、納得とはまた別ベクトルなんだな。
「どうしても嫌なら菜食主義もいいんじゃないか?」
「それはやだ」
「そこは即答するんだな……」
だってほら! 美味しいものは糖と油と肉と相場が決まってますし!!
自分でもなんでこんなに引っかかってるのかわからないけども、迎え入れること自体が嫌なわけではないんだよ。
「実際、自分でも狩ったりするもん?」
「んー、俺は無いかな。お前みたいに食事にこだわりあるわけでも、弱いやつとの戦闘が楽しいわけでもない。理由がないんだよ」
「空腹値、は、あー、マーケット」
「お前からも貰えるし。ジャーキー補充よろしく」
「一本につきモフリ十回になりまあす」
「灰雪は犠牲になったのだ……」
手元にあったので受け渡しをしながら軽く応酬。灰雪さんがここに居ないから出来ることだね!流石に眼の前でこんな事言いません。嫌われたくない。
「あ、ただ上納品のつもりかなにか、肉はよく供えられてるな」
「そなえ……?」
「おう。縄張り争いで負けたやつのとか、群れのリーダーが獲物として狩ったやつとか、箱庭に居させてもらうお礼っぽいな。もしくは猫が獲物を取ってみてみてーって枕元に置くやつ」
「リアルグロやめろください」
「あいつらにとっちゃ親愛なんだよなあ。ま、そういう感じで、中にいるやつも殺ったり殺られたり自然の摂理に則ってるから深く考えなくていいんじゃね?」
「なんか馬鹿らしくなってきたな」
全部が一気に溶けたわけではないけれど、動物王国のモルト箱庭実情を聞いて、なるようになれー!って気持ちになってきた。
実際、今も口に運んでいるこの串焼きとか美味しいし。繊維がぎゅむっとしてるのに、噛みしめるとほろほろほどけていって、それがまた次のひとくちを誘う。これも命あるものだったんだろうなーなんて、普段そこまで考えないことを思いつつご馳走様と手を合わせた。
「よっし、じゃあモルト君に協力してもらってボス周回といきますか!」
インエクセスで発見されているボスはクレイジー・マシンナリー。暴走機械が暴れまわって、森の仲間達が住めなくなっているというストーリーだ。だからボスを大人しくさせると、一定確率でランダムな動物から箱庭移住を希望されるらしい。
掲示板では動物ガチャと言われているんだって。
最初は確定で草食動物になるから、それが運良く食肉に適したやつだと繁殖して食事事情が良くなったりするそうだ。食物ポイントも期待できますね。
「あれか。効率重視で周回するならメンバーもうちょい……リトがインしてるな。誘うか」
フレンド情報を確認したモルトが連絡を飛ばす。程なくして了承の返答がきた。おまけにパラトスも来るらしい。
「めっずらし。爆薬でも出来た?」
「さあな。集合現地にしたから行くぞ」
「はいはーい」
灰雪さんを迎えに行かなくていいのかと思ったが、周回しすぎて飽きたそうだ。最近は連れて行っても攻撃せずに遊んでるって。なにそれみたいって言ったら今度なって一蹴されました。
集合場所はボス手前の広場だ。このゲームにセーブポイントなんてものはないが、ちょっと開けた場所で最終調整をするのに便利。ダンジョンに入るようなボス以外の、フィールド配置型ボスにはそれぞれそういった場所があるみたい。なお徘徊型は出会ったら即戦闘なので除く。
広場といっても整備されたようなものじゃなくて、倒木が周囲に折り重なっていたり、インエクセスらしく壊れた基盤や鉄骨なんかが飛び散っている。何か大型の機械が墜落して出来た空間って感じ。
その機械が暴走しているのかはたまた暴走した機械に撃ち落とされたのか、世界観考察がはかどりますな。いつものメンバーにもフレンドにもマキナ種が居ないのが惜しい。
「お待たせ、待った?」
「いいや、今来たところだよ」
「嘘、こんなに手がつめ……たくないな。ほんとに今来たところか」
「寸劇途中で放棄するの辞めてもらえます??」
集合場所に辿り着いた直後、私達の後ろから姿を表したリトに手を取られ……寸劇のはしごを途中で外された。彼女がこれやると某歌劇団が頭をよぎるな。配役的には待ってる男役のほうが似合うので今回と逆ですが。
そんなリトさんも例に漏れずネネのターゲットという名の着せ替え人形なので、衣装がまあ変わっておりますね。今回は武器が直剣だから騎士風か? 華美にならないラインで抑えられた綺羅びやかさ。基本白だから汚れ目立ちそう。
「君たちいつもそんなことしてるの」
「たまに?」
「稀によく?」
呆れたような音声はアフロから。やあやあ久しぶりだねパラトス!




