087. 流れのままに
更新遅くなってすみません。
ちょっとリアルで死にかけてました。今はもう回復してるんで、徐々にペース戻していきますね。
「わっ、と、っと」
落ちた果実が更に机から溢れるのを静止する。握り込んだ極彩色は、思ったよりも柔らかく弾力に富んでいた。
「補佐、とは」
「そのままの意味。管理系ジョブになるのかしら。私達でいう運営スキルをメインとする職業よ」
「そんなんあるんだ」
やはり蛇の道は蛇、ではなく、情報に精通した商人である。
詳しく聞いたところによれば、全体の設計計画やら栽培の管理やら果ては箱庭外との売買まで手広くやれるものだろうとか。
だろう、というのがミソ。
「誰も契約パートナーになれたことがない、と」
「まあ、えてしてそういったスキル持ちは中央交易区での役人だったり、ギルドの管理職だったり、既に就職済みか住人との契約済みなのよ。私もそろそろ欲しいのだけど、なかなか」
「難しそう」
「何を学んでいるかまでは聞いてないのでしょう? 提案だけして反応見てみたら?」
「まあ、ありか」
結局これ!っていうのはなかったし、出てきた案の中で一番やってほしいことに近いかもしれない。MP回復薬の蜂蜜ジュースは料理っちゃ料理なんだが、調薬でも作れるみたいだし、決め手に欠けたんだよな。ログイン後にチェックしたら、他の人も安定したもの出品してたから、そこまで切羽詰まってない状況になった。
「契約パートナーが職業欄埋められるようにしておく? 私の方で預かっておく?」
「二度手間になるかもだけど預かってて」
「OK」
羊皮紙が丸められ革紐で括られると、取り出されたルービックキューブのような物体に吸い込まれていく。うーん、やはり便利。欲しい。
「そうだ。配信のフックが欲しいなら、ネネとコラボすればいいじゃない」
「んぇ?」
「そうと決まれば早速行きましょ。丁度皆とお茶する約束してたの」
「ええ?」
そんな話してたっけ? だとか、説明を、だとかを全部無視して、こちらの行動を待たずサクサク話がまとまっていく。纏まってくっていうか流されていく?
契約書作成の報酬として持ってきていたクッキーもびっくりのサクサクさ。
実力行使とばかりに腕を組まれて引っ張られ、慌てて契約書を手に取った。
「それいつもの女子会だろ! 私はちょっと!!」
「リーナとネネがいる時点でいまさら」
「それはそう!!」
男の娘とオネエを出されたらなんも反論ができん!
ほぼ抵抗もできないまま、ステッラの箱庭からネネたちの待ち合わせ場所に移動する。
途中の道で二度見されたり納得されたり手を振られたりしながらだったんだけど、全部一定の距離を保って遠巻きにされてたのなんででしょうか。
「Hay! ホップも連れてきたわ!」
「連行されました」
気分は両脇をつられる宇宙人。エージェントは一人だが。
待ち合わせ場所は中央交易区の一角で、それなりに人通りの多い大通りから一本逸れた細い路地。計画都市みたいな作りの中央交易区は、中心に最初に訪れたでっかい神殿があり、そこを円状に囲んだ水路があって、そこから水路と区画が八方に枝分かれしていく。
っていっても、今プレイヤーが入れる区画は四つ。
北側にある住人のあれやこれやを管理する役場区、東側にある生産施設やスキル訓練所などの施設区、南側にある屋台や露店がひしめいている市場区、西側にある図書館や大店なんかがある知識区。
主にプレイヤーが利用するのは施設区と市場区で、今いるところは知識区。西側だ。エステラーゼと出会ったのもこの区画。
ギルドは各国に実務が分散していて、中央交易区の役場区にあるのは管理するところだけだそうで、プレイヤーが利用することはほぼ無い。クエスト受注も出来ないらしい。
逆にユニオンだとそこそこお世話になることがあって、クエスト完了報告なんかも一部は中央交易区の本部で直接とかあった。採取・調査系のものが多かったかな。
たまにケトゥンが出没してて、ユニオンは暇なのか人手不足かと思ったけど、よく考えたらあいつ上の役職だから中央に居たりしたんだろうな。
「あらぁ、珍しいじゃない。美味しいお菓子を期待して良い?」
「期待せんといて」
リーナの輝いた顔には悪いが、持っていたクッキーは全部ステッラにあげたので何も所持しておりません。普段ならおよばれしたら手土産の一つでも持ってくるんだけどね。突然だったからね。
「材料ある……小麦粉、バター、牛乳、ベーキングパウダー……」
「ベーキングパウダー発見されたの!?」
ネネから作れとばかりにお出しされた材料に、まだお目にかかっていない存在があって驚いた。スッと上がった手はネネの双子の妹、リトのものだ。
「僕が作りました」
「生産者の顔が見える」
「眼の前に居るからね」
「料理無いって言ってなかった?」
「調薬のほうで出来たんだよねー」
調薬と料理の境目がわからないよこのゲーム!! 医食同源ってか?
なんにせよ素材のバリエーションが増えるのは良いことだ。中間素材になるのかなこれ。
「レモンからクエン酸が抽出できてさ。同じく海水から重曹も手に入るから、割合に気をつけて配合すれば出来上がり」
「調薬だ……」
「正確なスケールはスキル頼みだからなー。一時誰かさんのお陰で調理スキルがもてはやされてたけど、僕達薬師の存在価値は薄れないね」
「ジョブは剣士だけどねん」
和やかな情報交換をしながらネネの箱庭へ。移動した先はクラシックなイングリッシュガーデン風の庭とそれを臨むガゼボ。完全なるアフタヌーン景観ですありがとうございます。
お庭はシェフレラが作ったらしいよ。今日はリアルの都合でインができないから残念がっていたとか。順調に交流を深めているようで何よりである。
「ネネ、手入れできるの?」
「染料……ならないかなって」
「素材用だった」
華やかな花々や草木、小さな実が、実は全部染料の実験用だと聞いて納得する。
草木染めは太古からある染め物だもんな。さすが服のことになると行動力を発揮する男だ。
可愛いものや綺麗なものが好きなら自分で作ればいいじゃない精神で、リアルでもブランド展開してるんだよなあ。筆頭モデルはリトだ。まあ、彼女が着るの大抵ユニセックスラインで、女性らしいものは別のモデルさんが大半。
小さいブランドながら固定ファンは多いと聞く。
私にとっては子供の頃から着せ替え人形にしてくる幼馴染が、そのまま性質変えずに大きくなりましたって感じなんだけども。
「リーナ、釜、作れる?」
「ここで? 景観崩れちゃうわねえ」
「あとで壊す……焼き立て、スコーン」
「作るとは言ってないんだが?」
さり気なく品の指定も入れてくるネネに突っ込みつつ、リトがそっと机に並べてくる材料を眼の前にレシピ一覧を呼び出す。スコーン、スコーン……無いな? カルメ焼きはあるけど逆にマニアックだな。パン系が充実してたから既に登録済みかと思ったんだけど、また特産品登録とかになりませんように。
「なにか手伝うことある?」
「……いや、ステッラは座ってて。お願い」
親切心だろうけどもダークマター製造機には触らせられない。たまにすごく成功することもあるけどそんなギャンブルはこの場ではいらない。
全部失敗するわけじゃないから、本人も自覚がイマイチなんだよな。美味しいと思う調味料全部入れを辞めるだけでだいぶマシになるんだが。
お菓子作りは分量が命。まあスコーンならざっくり適当でもいいが、単純すぎて手伝ってもらうほどのものは逆になかったりする。
「そいやヨーグルトってあるの?」
「まだ。あれって作れるもの?」
「ヨーグルト自体があればそれを元にして増やせるんだけど、卵鶏問答になるな。まあなくても作れるからいいよ」
自作スコーンにはヨーグルト使うレシピが好きなんだけど、無いものねだりはすまい。
なんだっけ、菌関係だよなヨーグルトも。ヨーグルト酒が危険な口当たりって聞いたことがある。あとでログアウトしたら調べてみよ。
酒のことに行動力を発揮する者と服のことに行動力を発揮する者
類友




