084. だからっていいわけではない
「お待たせしました……ってどうしたんですか?」
「いえ、何でもありません。お話中のところ、割って入ってしまって申し訳有りませんでした」
「? ツェチィーリアさんが謝ることは何も」
3つの腕輪を抱えて戻ってきたガジェットさんとツェチィーリアさんが顔を見合わせている。私は意味のない声を漏らすばかりだ。というかどうしろってんだこの状況。
仕方がないので残り少なくなった赤茶を呷ることにした。うーん、甘酸っぱい。
「お代りいりますか?」
「お腹いっぱいなので大丈夫ですそちらのクラヴィン登録したら帰ります……転移先にログハウスあるので、もし私が居なかったら入って待ってもらってて構いません。十分待って戻らなかったら、その日は散策するなり帰るなりお任せします」
「承知しました。渡り人様方が時間が不規則なのは知っていますので、問題有りません。お手を煩わせるのもなんですし、日時の設定をしたほうがいいでしょうか。それともお時間よろしかったら今からでも」
「あー……」
正直今からのほうが手間がなくて助かる。が、エーフ三人衆と早く離れたい。ああ、でもメルティとレティも一緒に来るんだろうな。養蜂は早くお任せしちゃいたいし、造園や料理や植物系スキルのあるパートナー探しにも行きたいし……。双子は保育的な意味でのクラヴィン登録だから、彼女たちにはっきりとした仕事を頼むつもりはない。まあ、お父さんのお手伝いという名の遊びくらいはするんだろうけど。
逡巡しながら手は機械的にクラヴィンを登録していく。やり方はアマヌスのときに覚えた。
受け取った腕輪一つ一つに付けられている水晶の色が変化するまで触れる。それだけ。
これは箱庭主の魔力登録をしているんだとか。指紋か網膜認証に近いのかな。変化する色は渡り人それぞれで違うらしいが、私の色は透明度の高いマスカット色だ。丸いカットの石だと美味しそうなんだよね。
「出来ました」
「はい、確かに」
とりあえず、まずはクラヴィンを戻して時間を稼ぐ。住人はここからもう一工程あるらしい。自分専用にする作業だって。
ガジェットさんがチェックと作業をしている間に、エーフ三人衆に視線を移した。なにか言いかけようとして口を開いては閉じるを繰り返しているシェルテットと目があう。
「…………言いたいことがあるならどうぞ」
「っ、べ、別に!」
「そう?」
絶対なんかあるだろとは思うけど、一度水を向けたものを流されて更に深堀りする意欲はない。とくに敵意を感じる相手では。
まあ、勘違いだと理解したのか、最初よりは緩和してるけども。
「ホップはどれくらいパートナーが居るんだ?」
「いま二人だけど」
「ほほう!ガジェも含めたら三人か!まだ余裕があるなら、俺も使ってみないか!」
「突然の売り込み」
「俺は直感を信じる男なんでな!!」
いきなり何を言い出すかと思えば、腰に手を当てて胸をそらしながら笑うダルシェンツェからのアピール。私も直感に従う率は高いけども、相手から切り出されると大丈夫か?って思っちゃうな。
「ちなみに出来ることは」
「造園だな!」
探す前に向こうから来たかー!!
三兄妹、それぞれ性格違うけれど、この人シェルテットの兄なんだよなあ。
「ダル、眼の前で売り込みしないでくれるか? ホップさんも困ってるじゃないか」
「お前と働くのも悪くないと思ってな! 手間がなくていいだろう!」
「君、別の場所で契約してただろ?」
「そこならつい昨日満了したところだ!! 暇になったからお前と飲もうと思って今日は来た!」
「酒あるんですか!?!? 契約します!!!!」
「おう! よろしくな!! 酒はないが、エーフ特製、ジャバンデック水があるからな!!」
「ないんかーい!!!!」
脊髄反射で契約承諾の返事してしまったが、そりゃ、お酒……お酒を匂わせられたら何を置いても契約しちゃうでしょ……! お酒じゃなかったけど!!
「ジャ、ジャバンデック水……とは……」
「ジャバンとデーリで香り付けした水だな。子どもも飲める!好きな子は少ないがな!飲むか?」
「いただきます……」
テーブルに置かれた瓶の中身は無色透明。勝手知ったるとばかりに奥からコップを持ち出してきたダルシェンツェが人数分注いでくれた。
香りは花と森を思わせるツンとした感じ。香りだけだと甘いのか苦いのかよくわからないが、強すぎるギリギリに調整されたもので、どことなくリラックス出来るアロマ。
断って鑑定すれば、実際にMNDに%補正がかかることが解った。
そいやハーブティもMNDの補正だったな。ハーブ系はMND補正がかかりやすいのかもしれないし、今度ハーブパスタとか作ってみようかな。まあ、私のビルド的にINTやMPの補正が欲しいところだけども。MNDだとヒーラーに適正では軍配あがるからなあ。ギャジーに売りつけよ。
ジャバンもデーリも、リアルでそんなハーブはなかったはずだし、ゲーム特有かな。デーリはディルっぽい語感ではあるんだけど、香りは違うから別物だろう。
香りを堪能して、実際のお味はと口に含めば……うん、水だね……。ちょっと辛い気もするけど、ジンジャーほど辛味が強くもなく、飲みにくいわけでもない。香りの良い美味しい水って感じ。
三国で売られてるレモン水なんかの水シリーズよりは高級な味がするが、アルコール特有の喉を焼く感覚も空気に触れて気化していく感じもない。炭酸水で割ったらそれなりに美味しく飲めそうだけども、お酒の代替えにするにはパンチが弱い。
「うん、美味しい。ジャバンはツェチィーリアか」
「おう。デーリはシェシェだな。そうだ、俺だけじゃなく、俺達兄妹まとめて契約しないか?」
「はい?」
さっきからキラーパス投げまくりだなこの兄さん!!
唐突さ加減に直ぐに反応ができない私を追い越すように、ダルシェンツェのアピールタイムは留まるところを知らない。ずっと俺のターン!
「ツェチィは栽培スキルが高いし、俺の造園とも相性がいい。欲しい植物なんか、すぐに手に入るとは限らないしな!シェシェは目立ったスキルの発現こそまだだが、妖精の加護があるから俺達兄妹や箱庭自体にいい影響があるぞ!」
「ちょっと!お兄様!!みだりに加護のことを言いふらさないでくださいまし!!」
「なにこれ聞いていいやつ?」
思わずツェチィーリアさんとガジェットさんに問いかけてしまった。苦笑しているツェチィーリアさんと頭を抑えたガジェットさんを見るに推して知るべし。
シェルテットなんて先程までの対応をかなぐり捨てて、縋るような目でこっちを見てくるし。
これホントに軽く聞いちゃいけないやつだって、どんなに鈍くても解る。
「こうなったら一蓮托生……わたくしとお姉様とも契約するしかありませんわ!」
「いやー、不可抗力で聞いたのはあれだけど、承諾するとは限らないよね? 誰彼に言いふらすことはしないけども」
「いいえ、していただかなくては、あなたにも悪い影響が……」
「そんな呪いみたいな」
スッと目をそらされた。呪い、あるんだ。呪術師的なジョブが存在する可能性があるってこと?
いや、目下問題はそれが己が身に降りかかるかもしれないことで。
「妖精もシェシェに似て恥ずかしがり屋だからな!仲間と認めたもの以外には、存在を隠蔽する傾向があるんだ!ま、渡り人は死にはしないから、四六時中狙われるくらいか!!」
「まって」
さらっと告げられた衝撃の事実。妖精はアサシンだった????
酒を餌にしたら壺とか絵とかも売りつけられそう
ジャバンデック水はあれ、ノンアルコールジンみたいな感じ




