083. 旋風のお帰りはあちらです
仁王立ちで指を突きつけてくるのは、紫の髪を緩く左右に二つ結びした、推定十代後半の女性。
泥棒猫と言われるからにはガジェットさんへの片思いかと思われるが、ガジェットさんはどう若く見積もっても三十半ばくらい。ありかなしかで言われたらギリありかもしれない。が、若さを理由にあしらわれるのが目に見えている。
いやわからん、この世界設定だと普通なのかもしれん。
「アナタどういうおつもり!? 」
「どういうおつもりも何も……」
「ガジェットお兄様から離れなさい!!」
あ、だめ。こういう人の話聞かなさそうなのちょっとだめ。
めっちゃ嫌そうなのが顔にも態度にも出ていたのだろう、ガジェットさんが慌てたように間に立ってくれる。
「シェルテット!彼に失礼だろう!謝りなさい!」
「いいえ!お姉様というものがありながら、他の女に手籠めにされそうにっ……彼?」
ヒートアップしかけだったのがいきなりトーンダウンして、突きつけていた指まで下ろす。脇からそっと確認するように覗いてくる姿にミーアキャットを思い出すが、ミーアキャットのほうが可愛いよね。大人しいし。
「……嘘でしょう?」
答えてやる義理もないのでこれ見よがしにため息を吐くことで返答とした。
「シェシェ? 走っていくから何事かと……あ、ガジェットさま、すみません妹が」
「ツェチィーリア? 二人揃って、って」
「よぉ、久しぶりだなガジェ! お邪魔するぞー」
いきなり登場人物、増え過ぎでは?
失礼な女の後ろから出てきたのは、おっとりとした女性と筋肉がはち切れんばかりの男くさい人物。
よく見たら三人とも耳が尖っているから、エーフ・メディオキスだと思われ。
……筋骨隆々なエーフもいるんだ!?
プレイヤーならキャラクリの段階でそんなモデリングも出来るんだろうが、注視判定では住人のようだし、もしかしてこの世界だとエルフの男性みんな筋骨隆々とか? いやいや、町中で見るエルフ、ここだとエーフの皆様は世間一般のイメージ通り線の細い方々でしたよ!
「ちょ、ちょっとまって三人とも! いま仕事の話をしていて……!」
「おお、ようやっとパートナーが見つかったのか!」
「は!? お兄様パートナーってどういうこと!!」
「あああ、もうややこしくなるからダルは黙れ!!シェルテットも威嚇しない!!」
ガジェットさん、苦労人属性と見た。どことなく雰囲気もエールズに似てるなあ、ははは。
なんて現実逃避で遠い目をしてしまったが、契約さえできればここからお暇しても問題ないわけだ。もうちょっと落ち着いて話したかったけど、双方の意思確認も出来たし帰ってもいいだろう。さっさと終わらせて帰ろう。
机の上に放置されていた書類をタップすれば、薄いウィンドウが立ち上がる。
これは情報屋の卵から買った情報紙だが、魔法によっていくつか機能が付属している。そのうちの一つが契約進捗状況……まあクエスト進捗状況と同じ感じ。やるべきことのリストと、それが完了したかどうかが確認できる。
契約パートナーとなるための進捗状況は1/2。
お互いの意思確認にチェックが入っており、残すはクラヴィンの登録のみとなっている。
クラヴィンっていうのは簡易転移装置みたいなやつ。契約パートナーの箱庭へ転移できるアイテムで、大体、ブレスレットやイヤリングなんかのアクセサリー形態をとっている。
転移できるのは装着者一人だけ、物品は手に持てる範囲だけっていう、限定的な機能のもの。
発行や管理はユニオンの管轄で、クラヴィン自体は住人が用意することもあるし、渡り人がユニオンに申請して貰うことも出来る。
ガジェットさんは双子にもそのクラヴィンでの出入り許可をくれって願ったわけだ。情報として書かれていた特記事項有りってそのことだった。
ちなみに、箱庭内に設置作業が必要だったステラの場合は、ちょっと違う。クラヴィンではなく、オストゥムっていう、特殊な扉を使って出入りしてる。こちらだと、物品の搬入やオストゥム自体に登録すれば、何人でも入れるっていう仕組み。まあ、肉を大量に持ってきてもらう関係上、台車とか使ってホントに搬入作業になるわけで。
アマヌスもクラヴィンで出入りしている。指輪だったかな。
作業に邪魔にならないのかと思ったけど、スキルや魔法を使っての建築なんで、大丈夫みたい。
「すみません、ガジェットさん。クラヴィンの登録しちゃうんで、ご用意いただいても? それとも私の方でユニオンに申請しましょうか?」
「あああ、すみませんすみません! 私の方でレティとメルティの分も用意してますので、取ってきますね!!」
二人に何もするなと言い置いて、ガジェットさんは奥へと消えた。
そこは三人じゃないんだと入口付近で団子になってるエーフ達を見る。
「ごめんなさい、お取り込み中だったかしら……」
口に手を当てほわほわと喋る、えっと、おそらくツェチィーリア?って呼ばれてた人。
ゆったりとした口調と同じように、空色の髪もゆるくカーブを描いていて、邪魔にならないようにか片側で結ばれている。申し訳無さそうな瞳はペリドット。全身で癒やしオーラを出している感じだ。多分この人は話が通じる人。
「おぅ!お嬢さん、いや、お坊っちゃん? なんかハッキリしねえな!俺はダルシェンツェっていうんだ!ダルでいいぜ!」
片腕でポーズを取りながら筋骨隆々のエーフが発言する。
いや力こぶを見せられてどうしろと……?キレてるよー!ナイスマッスル!って掛け声しなきゃだめ? ボディビルの知識はうろなんですけど。
爛々と輝くオレンジの瞳は暑苦しいが、短く刈り込まれた髪がオリーブ色なので多少は緩和しているのがまだ救い。
「渡り人のホップです。未分化なので、判りにくい、のかと?」
言いながら首を傾げた。ハッキリしないといったダルシェンツェはエーフ属、のはずで、エステラーゼのように特に嗅覚が鋭いだとか眷属だとかではないはず。だよな?
「なるほど未分化か!渡り人では珍しいが、なくはないな!!ほら、シェシェ、ツェチィ。お前たちも挨拶しろ!」
「ツェチィーリアと申します。ダルシェンツェの妹で、シェルテットの姉になります」
「……シェルテットよ」
うーん、まだ敵意を感じる。金の瞳で睨めつけられるのは、はっきり言って気分が良くない。
居心地悪く思っていたら、ダルシェンツェがシェルテットの背を張り飛ばした。すごくいい音が聞こえて瞬きする。
「っった〜〜!!お兄様!力加減間違えてましてよ!!」
「はっは、シェシェは人見知りだからなあ!ほらお兄ちゃんが居るから安心しろ!」
「そおっゆうことじゃないんですのよ!!アナタも!パートナーってどういうことですの!!アナタよりお姉様こそガジェお兄様のパートナーに相応しいですわ!」
おぅ、流れ弾が来た。しかも見当違いの。っつーか、なに?彼女はお姉さんの恋路を応援しているってこと?いや恋路なのか?押し付けじゃね??
「シェシェ、落ち着いて。お兄様の言うパートナーって契約パートナーのことじゃないかしら。ほら、この間学院で学んだって言ってたでしょう?」
「契約……で、でも!」
「でもじゃないの。それに、そうじゃないパートナー云々はガジェットさんが決めることよ」
「お姉様のお気持ちはどうなるの!」
「想い合うことだけが全てではないわ。解るでしょう?」
わー、この世界にも学院ってあるんだー。情報屋に売ってやろ。いや、もう把握してるかな?
眼の前のメロドラマをそっちのけにして思考を飛ばす。なんなん。ガジェットさんに乙女ゲームの攻略対象って思ったのがいけなかったん?




