081. 双子狂想曲
ローグイーン!
ご飯と洗い物を済ませて、シャワーも浴びて、あとは寝るだけまで整えてからのゲーム。寝落ちもこれで怖くない。まあ、寝落ちしたこと無いんですけど。
目標地点サラエフ。クルトゥテラからコルト側へつながる道の途中に分岐点がある、コルトより南側に位置する街、とのこと。コルトみたいに大量のエネミーに邪魔されるでもなく、途中の草原でリモとピクニックも楽しみながらゲーム内時間半日ちょっとで辿り着いた。
小高い丘の上からぱっと見た目の特徴は、なんといっても複数の湖。これは池だろという小さいものから、これぞ湖という大きなものまで、家々や区画の間を埋めるようにして存在している。橋も数多くかかっていて、渡し船の行き来なんかもあったりして、水の街って感じ。移動が大変そうだなーとは思ったけど、徒歩移動以外に転移装置みたいなものもあるらしく、下手な場所より利便性は高いらしい。
あとすごく目立つところでは、一番でかい湖の真ん中がドーナッツみたいにめっちゃ深い穴になってて、見た目でわかる危険地帯。滝みたいに轟轟とした音もなく静かに水が消えていくのは、不安感がすごい。あれ多分崩落したとこだな。
現実ではまずお目にかかれない光景。観光もしてみたいが、まずはやることやってしまいましょう。
N.N.から買った情報に従って、街の外れ、湖畔から離れた森の近くへと歩を進める。石畳で舗装された道から土を踏み固めた道になり、手入れのされていない野花が目立つようになったところで小さな一軒家が見えてきた。
まあ、小さいと言っても日本の平均家屋と比べておっきいんだけど。海外ナイズの小ささだよね。それにゲームだし、外観と中身の大きさは比例すまい。
「りゅ」
「ん? ああ、眺めてただけ。行こうか」
立ち止まってしまった私を催促するようにリモが鳴く。ノック……ノックでいいのか? この世界も。とりあえずノックしてしばし。ドタドタと喧しい足音が聞こえて、勢いよく扉が開かれたと思ったら、ダブル音声で「「帰れー!!」」コール。
「え?」
「違うのだわ、違う人なのだわ」
「でもこの人も女の人なのだわ」
「新しい人かもしれないのだわレティ」
「そうね、やっぱりママではないのだわメルティ」
「「帰れー!!」」
「えー、っと?」
情報では対象者は男性のはずだが、眼の前で帰れコールをしている二人はどう見ても女性、というか、幼女である。
きれいな金色の髪はピンク味のあるふわふわと白に近いストレート、ピンクゴールドとホワイトゴールドだな。力強く睨めつけてくる瞳は二人とも同じエメラルド。わー、可愛いーと呑気に眺めている場合ではない。どうやら歓迎されてはいないようだが、何をおいても勘違いを正さなくては。
「女の人ではありません」
「嘘なのだわ!」
「嘘つきなのだわ!」
「ガジェットさんと養蜂の契約結びに来たんだよ、ほら、書類」
「「……ホントなのだわ!」」
幼女にどれだけ通用するかわからなかったが、N.N.から買い取った書類には名前の他に写真も載っている。ばっちり役目を果たしてくれたようで、取り付く島もなかった二人は警戒心を解きはしないものの、話を聞いてくれる体勢に移行した。
「パパにご用事なのね?」
「お仕事のお話なのね?」
「そうだよ。ガジェットさんを呼んでくれる?」
「「わかったのだわ!」」
いい返事とともに部屋の奥へ駆けていく。第1段階はクリア、といったところか。そもそも段階を踏むようなものではないのだが。
暫くして奥から二人に引っ張られ、ガジェットさんと思われる長身の男性が姿を表した。茶色の髪は寝癖がついたままで、鳶色の瞳の下には薄っすらと隈。くたびれた様子が隠せない姿に大丈夫かと思いつつ、下げられた頭にこちらもお辞儀を返す。
「どうも。こんな姿ですみません」
「いえ、こちらこそアポもなしにすみません。養蜂の契約パートナー探しでこちらをご紹介いただきました。お話させてもらっても?」
「遠いところからありがとうございます。あまり綺麗な場所ではないですが、どうぞ奥へ」
仕事モードをちょっとだけ被り、丁寧な受け答えを心がければ部屋の中へと案内される。取引先との連絡RPだと思えば……と脳裏をよぎったが、そんなもんゲーム内でやりたくねえわと内なる自分が舌を出した。ちょっと黙ってて。
シンプルな長椅子に腰掛ければ、両隣に双子の幼女が登ってくる。困ったような顔をするガジェットさんが降りるように言ってもそっぽを向いたままだ。子どもが苦手なのか、リモは頭の上で丸まったまま微動だにしないし、両脇は固められているしで姿勢を正すしかすることがない。まあ、口さえ動けばいいので問題はないのだが。
「えっと、すみません」
「いえ、お気になさらず」
「パパ!飲み物なのだわ!」
「お客様に飲み物なだわ!」
「あ、ああ、そうだね。少しお待ち下さい」
双子に催促されて、止める間もなくガジェットさんは消える。えーと、この双子と二人……いや三人きりにされるのはちょっとご遠慮願いたかった。
「「あなた、お名前は?」」
「ホップ、です」
「あたしはメルティ」
「わたしはレティ」
「「なのだわ!」」
「これはご丁寧にどうも」
いかん、仕事PRが抜けていない。幼女二人相手にめちゃくちゃ丁寧な受け答えをしてしまったが、それが二人には良かったのか、にこりとした笑顔を向けられた。
「女の人じゃないのだわ?」
「男の人なのだわ?」
「そうです。まあ、正確には未分化、かな?」
「「ふーん?」」
よく解ってなさそうに首を傾げられる。女ではないということを確かめるためだろう、小さな両手が胸元をぺたぺたと触っていく。これ動いたら事案。いや触られてるのこっちだから事案ではないか? 石像、石膏、銅像になってやり過ごそう。あっ!まってそっちはだめ!
「「ホントなのだわ」」
「……お嬢さん達、他の人にこんなことしちゃだめだからね……」
「「しないのだわ」」
色々なものがバキバキに折れてしまったが、契約を結ぶまでは帰るわけには行かない。いや帰ってもいいか……? 僕頑張ったよ◯トラッシュ……。
「お待たせしました。二人とも、いい子にしてたか?」
「はーい」
「なのだわ」
もう帰ってやろうと腰を浮かしかけたところで、トレイを持ったガジェットさんが戻ってきた。
テーブルに並べられる赤茶とキューブ状のお茶請けを見て覚悟を決め直す。わざわざ用意してくれたのにね、無下にはね、出来ないのでね。
「お茶は酸味があるので、苦手ならはちみつを入れてください」
「ありがとうございます。赤茶、ですね?」
「ご存知でしたか。渡り人様製だとか。あの、不躾なようで申し訳ないのですが、貴方も?」
「はい、渡り人です」
ガジェットさんは得心したといったように頷いた。
「年若いお嬢さんかと思いましたが、渡り人様でしたら問題ありませんね」
「「女の人じゃないのだわ」」
いや問題おおありだが? と思い突っ込む前に双子から訂正の言葉が飛ぶ。びっくりしたようにこちらを見直すガジェットさんになんとなく居た堪れなくなって身動ぎした。
「これは……とんだ失礼を……」
「いえ、見た目が紛らわしいのは自覚しておりますので……あ、私ホップと申します」
「ああ、これはご丁寧に。私はご存知かと思いますが、ガジェットです」
名乗り合って間を持たすために赤茶を口に含む。酸っぱい。蜂蜜入れ忘れたのは動揺していたからではなくて、酸味が好きだからでして。
酸味を紛らわすために口に含んだお茶請けは、ショートブレッドのような味。練り込まれているドライフルーツがアクセントを添えていた。
うん、素朴で美味しい。開始当初の食堂なんか目じゃないくらい味がちゃんとしている。軽く鑑定すれば、これも渡り人製っぽいのでプレイヤーの頑張りに感謝。
「契約のお話をさせていただいても?」
口に残ったパサつきを赤茶で流し、未だ申し訳無さそうにするガジェットさんへ、交渉の口火をこちらから切った。
お子様最強




