079. 逆緑の手
「とりあえずここー、かな?」
箱庭内、森にほど近い草原の一角でぐるりと辺りを見渡す。
条件はそこそこの広さがある平面、群生した花畑、川や湖など水源から離れていること。
そう、養蜂のための候補地です。
ちまちま蜂の巣を納品すること幾星霜、ようやく箱庭内での養蜂許可をゲット。許可っていうか、追加っていうか、話的には増えた子達の分蜂ってことだったんだよな。
ハニカム模様が刻まれているルービックキューブ的なものを渡されまして、これを設置したいところで使用するそう。
蜂の箱作りからとか言われなくてよかったよ。ちゃんとゲーム的処理だった。
というわけで、いい感じの候補地を見つけたので、居住区、まあ今は私しか住んでないログハウスからの道を整備する。機能を使ってずざーっと一気に出来ていくのは壮観。
細かい整備はあとに回して、大枠ができればいっか。
一旦、出来た道をホームまで往復。真っ直ぐなのもいいけど蛇行するのも散歩道としていい。ちょこちょこ道幅や方向を修正して、周りの景観をどう作ろうか妄想しながら元の場所へ。
養蜂って、基本放置でいいと思うんだけど、どれくらいのサイズになるんだろう。
こう、ファンタジー的にすぐさま蜂蜜が採れるのか、ちゃんと絞ったりゴミを取ったりなんだりしないといけないのか、それによって手間が随分変わる。
もし後者だったら、それ専門の契約パートナー欲しいかも。調理スキルもあれば、MP回復薬までお任せ出来る。
大抵のゲームでは自分よりNPC、住人が作ったもののほうが効果は低いけど、ここだとそれも育成で伸ばせる気がするし。
ここぞというときのは自分で作れば安定するから、普段使いのはぶん投げたい。
というかそればっか作るの飽きてるんだよ!
同じの作りすぎたせいか、あんまりレベルも上がらなくなってるし!!
ステッラとモルトに納品はしたから、もうええか……の気持ち。いつものメンバーなら依頼されたら作るけど、それ以外は気が向いたときに流す程度で市場で争奪戦しててくれ。
自分で露店出すのも興味あるけど、やること増やしても大変だ。ステッラのところに間借りすれば気分は味わえるしさ。
「えっと、使用方法は、と」
気持ちを切り替えてルービックキューブを取り出す。
これ正式名称なんだっけ? 蜂芽箱、だっけ? ゲーム特有アイテム。
まあ、名前より効能ですよ。こういうものは。
教えられたとおりに、設置場所の近くで箱に刻まれたハニカム模様をなぞる。すると、模様の一部が浮き上がり、押し込めとばかりにボタンっぽくなった。そのまま押し込めば、箱が手から離れて浮かび上がり、花が綻ぶように開いていく。
「おー、ファンタジー」
見守る前で開いた箱は、開くだけにとどまらず根本から分解され、およそ箱の中に入るとは思えない質量を伴って地面へと突き刺さっていく。
瞬く間に組み上がったそれはきれいな長方形。横長に鎮座する、蜂の巣箱だ。
< 養蜂機能がインストールされました。今後メニューより養蜂設置を行うことが出来ます >
アナウンスでもしっかり追加されたって出たし、これで安心。
蜂蜜が自由に手に入ればミードの研究も捗るってものよ。
「さて、家はできたけど蜂さんはどこぞ」
分蜂っていうならすでに居そうなものだけども。
首を傾げること一瞬、疑問に答えるようにヘルプ画面が開く。追加された養蜂についての説明だ。
なになに、箱のなかで休眠状態……エリア設定が必要……メインの花畑や集める蜜種類の設定……細かっ!
なーにこれ。レンゲの蜂蜜とかマールムの蜂蜜とか百花蜜とか、蜜の種類まで指定できるの? こんなん確実に自家栽培のほうがええですやん。というかレンゲ、存在したのか。アクティブになってるってことは箱庭内にあるってこと? 選択は、あ、出来ない。近くに存在しませんって出るわ。これだと箱庭にあるのかどうかすらわからないな。
思った以上の成果にほへーなんて声が出つつ、養蜂箱のある草原の一角をエリア設定、近くの花畑をメイン花畑に指定する。蜜はとりあえず百花蜜で。単品より採取速度早まらないかなっていう希望を込めて。
一応、メニューからも養蜂設定が出来るってことで確認したけど、設置できるのはあと一つだけみたい。ただ、時間経過で設置可能数が増えるとも書いてあるから、箱庭内に住み着いたところから更に分蜂が行われる感じなんだろう。
さてさて、設定されて動き出した蜂さん、見た目はまんまるフサフサのミツバチ系。刺されないなら可愛いよね。実際のミツバチも人は刺さない子が多いらしいけど、居るとやっぱりびっくりする。
すぐに花畑へ飛んでいったけど、どれくらいで蜜が取れるようになるんだろ。時間とかタイマー、出てないんだよな。
「みーつーけーまーしーたー!」
「ひゃっっ!!」
背筋ぞわってした!ぞわって!!
慌てて振り向いた先には、さっき作った道の上で両手を上げたアマヌスの姿。ホラー耐性はないんですけど、どうしてこの子と契約しちゃったんだろう……断る選択肢は出なかったですけどね!はい!
「な、なに? 今日は料理してないけど」
「蜂蜜ぅ〜……ってなんでですか!私食いしん坊キャラじゃないんですけど!んっんんっ、違います、ちょっとその、我が契約者にご相談というか要望というかお願いというか……」
いや食いしん坊キャラだろうよ。
そう突っ込みたいのを抑えて、後半につれ声量が落ちていくのをなんとか聞き取る。
「えーと、植物育てる人が欲しい、って、こと?」
「はい……いえ!私も!?別に!?出来るんですけど!!?この場所すべてをカバーするには足りないっていうか!?そもそも本職は乾燥させた木を扱いますから!?ちょーっと相性が悪いと言うか!?」
「はいはい。探してくるからどういうものが作りたいか教えて」
聞き取れた内容になるほどねえと相槌を打つ。ここで彼女の強がりとも言える言動を否定したり修正したりしてはいけない。これはあれ、ちっこいわんこがキャンキャン吠えるやつ。プライドが高いとはまたちょっと違う、自分を守るための行動だよね。
というのもアマヌス……致命的に植物を育てるのに向いていない。それの何が問題かって、作った建物や柱に生きてる植物の装飾が施せないってとこ。
せっかくファンタジーなのだから、落ち着いた建物にツタを這わせたり、明かり代わりの光る不思議植物で道を照らしたり、リアルでは手が出せないバラの庭園とか作ったりしたいじゃん?
本人も美的センスはそれを望んでるっぽいのが、東屋に枯蔦が巻き付いて朽ちてるように見えるものとか(枯蔦は取り除いた)道脇の立て看板に枯れた植物が重なってるとか(枯れた植物は周りの土に漉き込んでみた)散見されてたんだよな。
頑張ってるのは解る。居るよね、リアルでも同じ環境でなんでか枯らす人。
多分そのせいで植物使おうとするとホラー味が増す。
ホラーだめ、絶対。
「作りたいものは色々あるんですけど……私は!?神級構築士ですから!?ちょーっと造園は勝手が違うというかなんというか!!でも!建造物は映える場所にあってこそより輝くと言うか!!造園と植物関連のスキルがある方が欲しいです」
最後の一言だけで問題ないのに可愛いやつよ。色々言ってるが、根は素直なのか度重なる餌付けで心を許してくれているのか、最終的にはストレートな要望に落ち着く。
「いいよー。ちょうど養蜂担当者も探すかなーってしてたし。ついでに探してくるわ」
「! さっすが我が契約者!! ついでに蜂蜜もください」
「さっき設置したばかりだから採れないよ」
やっぱお前、食いしん坊キャラだわ。




