075. マールムは大変なものを(ry
< アークにて初めて生成されました。ネクソムと照合……過去データに該当あり。重要度レベルA。他アークと照合……該当なし。他者のアークにて初回生成されたため、他者の特産品に設定できます >
「「えっ」」
アイテムがシードルにならず、そうやないやろがいと突っ込んだ直後に流れたシステムメッセージ。に、驚いた声は二つ。
一つはもちろん私、もう一つは、箱庭主のレラだ。
「あ、あの! ホップさんっ」
「うん……うん。多分同じものだと思う」
「わ、わたしの! 特産品がっ!」
「レラはもう埋まってる? よかったら登録するけど」
「ひえっ」
肯定でも否定でもない短い悲鳴が聞こえた。
レラは確か家を建ててランク上げたから、特産品は空いてる可能性が高い。と、思っての提案だったんだけど、衝撃が強すぎたようだ。
「……とりあえず、落ち着け。俺達しか居ないんだから」
「はっ、はいぃ!」
「ほら、吸って、吐いて」
「すーはーすーはー」
モルトに肩を叩かれ深呼吸を全身でするレラに、マールムを差し出すギャジー。
「いやなんでそこマールム!?」
「よくわからんが美味しいものは落ち着くと思って」
「食いしん坊理論!!」
「どうせお前がなんかやらかしたんだろ」
「わざわざ突きつけないで! あってるけど!」
あってるけどぉ……!
おかしい。私はただ酒を作りたいだけなんだ。別に珍しいものを作りたいわけでもゲーム的に重要なものを作りたいわけでもなんでもないのに、酒を作ろうとするとくっついてくるんだよ。
「……酒が重要アイテムなのでは!?」
「出来てねえじゃん」
「だまらっしゃい!!」
ぎゃーわー言い合ってもウィンドウは消えてくれない。燦然としてそこにある、他者の特産品にできるという表示。
「す、すみません……落ち着きました」
「ん。ホップ、水出して」
「え、はい」
「ほい、だばー」
「ぶわっぷっっっっ」
レラが落ち着いたと見るや、モルトに催促され出した水が私の頭にぶちまけられた。どうして。
「お前もちょっとは落ち着け」
「お、落ち着いてますけど……」
ポタポタと髪から滴る雫。ゲーム内だから乾くのも早いけど、濡れた感触はきちんとある。
よくある、一発できれいになるクリーン的な技能も魔法も、いまのところ存在確認がされていないので、ウィンドを使って急速乾燥。
あー、これも普通はできないんだっけか。ラベルからの取得だもんな。ウィンドボールで擬似的に出来なくはないと思うんだが、大多数はそこまで微調整が出来ないそうで。なんでだ。
「お前のペースでぽんぽん進めるなってことだよ。回転速度落とせ」
「……説明、足りなかった?」
「説明も飲み込むための時間も足りてない」
「なー……、ごめんね、レラ」
「いっ、いえ!! 解らない私が悪いので!」
「こら、レラも自分を下げない。謙遜は美徳だけど行き過ぎは辛くなるだけだぞ。あとホップについていけるのごく少数だから」
お互いに謝り合って、最初の話題に戻って来る。ギャジーとリモはマイペースにマールムを咀嚼していた。
なんかさらにエドが参加してるけど、美味しい? そう、よかったね。
「で……、えーと、私には、作ったこのアイテム、発酵マールム水っていうんだけど。これがレラの箱庭の特産品指定にするかの許可ウィンドウが出てて」
「は、はい。私にも、その、強化薬の特産品指定をリクエストしますかって確認ウィンドウが……」
「私の箱庭にはまだマールムの木がないし、特産品も蜂蜜ジュースで埋まってるから、レラに登録してもらうほうが良いかと思って」
「あ、その、あの、ありがとうございます。でも、ホップさんが作ったのに……」
「いーじゃん貰えるなら貰っとけば。いらないならオレに頂戴」
「ぜってえやらねえ」
途中でギャジーからの茶々が入りつつ、お互いのウィンドウ内容の確認。レラの方にはアイテム名自体は出ていないようで、アイテム種別のみの表示だった。
少々押し問答になったが、無事にレラの特産品へと登録することに。
「で、では、リクエストさせていただきます!!」
「こっちも許可出すね」
二人共に操作を終えて、無事に特産品登録がされたことを確認する。
これ、片方が駄目ってなると登録できないんだろうな。そもそも他の人の箱庭で新しいものを作るっていう事自体、やらない気がする。
もう少し人が増えたり素材が増えたりして、一人だと回らないようになってから機能するのかも。まあ、今考えることじゃないか。
「ちなみに影響度はどうなった?」
「えっと、二のまま、ですね。変わっていません」
「箱庭クエストに変化は?」
「待って下さい……あ、増えてます。品質向上とか改良とか、ユニオンへの納品も出ました」
「なるほど」
即座にモルトが確認している。マメだね。
自分の仕事は終わったとのんびり眺めていたら、こちらに向き直ったモルトに両肩を掴まれた。
「なに?」
「お前、配信始めろ」
「は!?」
「目を離すとすぐなんかするから、いっそ垂れ流しておけ」
「はぁ!?」
あまりの豪速球に開いた口が塞がらない。
めちゃくちゃ真剣な顔をされていますが、私の事情知ってるよね!?
「四六時中とまでは言わない。秘匿したいことは流さなくて良い」
「いやいやいや!! 目立つのやだって!!」
「今が目立ってないとでも?」
真剣というかこれ、ガンギマってますね!? 目が座ってますね!?
そりゃめんどくさい後処理とか情報のやりとり全部任せてる自覚はありますけど!!
「お前、自分のスタンス変えないだろ? おそらく今後も同じようなことが起きる。どうしたって隠れるのは限界があるんなら、いっそ一番目立つ方向のが良い」
「いっちばんダメなヤツ!!」
「考えても見ろ。目立ってアレに捕捉されるのが嫌とはいっても、まだアレはこのゲームに来てない。でも来たとき、今の中途半端な状態だと、遅かれ早かれ捕捉されるぞ」
「っぐ」
「発想を逆転させるんだ。捕捉されたとしても手が出せないくらい、出されてもアレが叩き出されるくらい、お前がこのゲームで重要で有名になれば良い。監視員と護衛を量産すると考えろ。難しくはない。お前はそのまま、ありのままのプレイを垂れ流せばいい」
「配信未経験者に無茶を仰る!!!!」
「誰が見るのかとか視聴者数の獲得とか維持は考えるな。そんなもん普通についてくるし、それが目的じゃない。まあ、狂信者を生む危険はあるけど」
「いま頑張ってる人たちに喧嘩売ってないそれ!?」
「っていうかすでに狂信者生まれてるから今更」
「いるの!?!?!?!?」
いるの!? え、なにそれこわい。
一回しか配信でまともに流してないんですけど!
「害はないタイプの狂信者だから安心しろ」
「なんでそれで狂って文字がはいるんですかねえ!?」
「……知りたい?」
「あ、いいです」
世の中には知らないほうが良いこともあるっていうもんね。
掴まれた肩から手を外させつつ、言われた内容を熟考する……ように見せかけて、これほとんど一択なんだよな。
自分がそれなりに重要なものとかアイテムとかぽんぽん見つけているのは事実。まあ、今まで渡り歩いてきた様々なゲームでも、なんとなくでやったことが重要なものだった、みたいな例は枚挙に暇がない。もちろん、他の人も見つけてはいるんだけど……確率の問題だ。
箱庭に引き込もれるようなシステムではなかったし、行動制限はごめんだしで、これで目立たずに過ごそうっていうのが無理ゲーなんだよなあ。特に、今は人口もそこまで多くないから、他に目を引くようなやつって、片手の数しか台頭してきていない。
モルトの言い分も理解はできる。消去法でそれが一番良いだろうこともわかる。
が、感情はまた別!! 自分の! 納得を! させるのが!
「……前向きに考慮致します」
「じゃあ10日後に配信開始な」
「ほぼ強制!!!!」
こちらの性格を熟知している親友に遅滞作戦は通用しなかった。悲しい。
某狂信者「姫が配信を始める気がする!!」




