074. ならば作ろう
「何やってんだお前」
行倒れのように籠を抱えて地面に伏していたらモルトに突っ込まれた。
いやー、アマヌスを笑えませんな!
「採取が二次になりまして……」
「……品質、下がった?」
「察し能力が高い」
籠の中に盛られたマールム、その上に鎮座するリモ。たまにコロリと籠から落ちるのは、リモのお眼鏡に叶わなかった低品質のマールム。
世は無常ですね。
理不尽を噛み締めつつ、よいしょと反動をつけて立ち上がれば、赤い果実がそこかしこの地面に散らばっているのが見えた。
品質はBが多い。リモ的には無しなんだろうが、他アイテムと比べてそれなりに高いので別の籠にまとめておくことにする。実験的にシードル作るならこれくらいでも大丈夫だし。
そうそう、発酵させるための酵母どうすんだよと思ったけど、ミード(なってない)のときも特に問題なかったし、きっと伝統的手法に則り皮の部分に天然酵母さんがいることでしょう。
栽培や調理は情報追加されてるのに、菌知識さんは仕事してくれなかったけど、居るのは解ってるんだからな!
「美味いなここの林檎」
「あっ」
散らばったマールム、その最後の一個へ手を伸ばした先でギャジーにかっさらわれた。
いやまた採ればいいんですけど、いいんですけど!
服の裾でマールムの表皮を拭い、そのまま齧り付く姿がワイルド。
「そんなに林檎好きだっけ」
「果物は全部好き」
「そっかー……それ品質Bね」
「へー。自分で採るより甘いな」
だろうと同意するようにリモが跳ねた。えっ、ギャジーはリモと同じ、ってこと!?
思わず吹き出しそうになるのを、口元を覆ってこらえる。視線の先では器用に芯を残して食べきったギャジーと、その側で籠の中身を減らしていくリモ。
駄目だ笑う。
「……なに笑ってんだ」
「ふっ、くく、いや、なんでも……w」
草も生やしますわこんなん。
説明を求めるようにギャジーの視線がモルトへ向かったが、さしものモルトも把握できなかったのか首を振る。
「戻ったぞー!」
「ただいま戻りました!……どうかされました?」
タイミングよくレラとエドが戻ってきて、疑惑の視線は霧散した。ナイス。
「なんでも。重そうだね。持とうか」
「あっ、地面に置くので大丈夫ですよ!」
梱包された大きな袋を抱えていたので手を差し出せば、気づいたように地面に下ろす。
その横にエドも大きめの籠を並べた。上に布がかかってるから中身は解らないね。
「なんだ? これ」
「帰りにパラトスさんに会いまして……依頼してたものの試作品をいただきました!」
覗き込むギャジーに見えるように身体をずらしながら、レラは梱包を開く。
出てきたのは少々いびつな形をしたガラス瓶。大きいのがレラが抱えていたもので、エドが持っていた籠の中には小さめのものがいくつか。
大きいのは一升瓶を寸胴にした感じで、小さめのはポーション瓶と試験管の中間くらいの大きさだ。
「おお、ガラス!」
「初めて見た」
もちろんゲーム内で、という意味だけれど。
んー、しかし、条件揃ったな。
「レラ、ちょっとここでシードル仕込んでみていい?」
「ここで、ですか?」
「うん。あとそのガラス瓶使わせてもらえると嬉しい」
「構いませんけど……必要でしたら普通に差し上げますよ?」
「それは別の機会に! いまちょっと飲めるか飲めないかの瀬戸際なんで!!」
「は、はあ……?」
不思議そうな顔されてますけど、自分のとこまで待てない。林檎、ガラス瓶、ジュースにするのはウィンドカッターをちょちょっとやれば出来そうだし、この場で仕込めるんですよ! ミードのときもそこまで時間はかからなかったし、シードルも大きく時間は取らない気がする!
箱庭主の許可も得たので、いそいそと作業にかかる。
今回は丁寧に煮沸もしてみよう。っていってもウォーターで出した水を貸してもらったガラス瓶、大きいほうのやつに入れて……って私、炎系持ってないじゃん。取ろう。なんだかんだで料理にも使えるだろ! というわけで【火魔法】習得!
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【火魔法】Lv.1
基礎魔法のひとつ。燃え盛る火は荒々しい。
<< アーツ >>
ファイアーボール:火の玉。
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これで魔法三つ目。器用貧乏への道、爆誕。
テクニカルビルドって言うよりはエンジョイ勢なのでね。使いそうなら考えず取りますとも。
SP運用だけが心配なんだが、一応育てきったらSP返還されるっぽいのでまあ……なんとかなるでしょう! 料理に使いたいだけなら一次で止めとくという手もあるし。
気を取り直して作業の続き。
ちっさいファイアーボールを水に落として沸騰させる。む、水よりコントロール効きやすいな。風よりは難しいが。
やはりスピリトゥスって種属でなんか補正かかってるかもしれん。シールフは一般的には風だろうから、風が一番扱いやすいのも頷ける。まあ、この世界での設定が違ったらどうしようもないけど!
ある程度沸騰を持続させて、熱々の瓶は熱湯をこぼしてゆっくりと冷ます。あんまり急速に冷やすと割れたら困るし。
冷えていくのを待つ間に、ウィンドカッターを三枚刃のような形状にグニッとしてぐるぐる回してみる。うーん、いけるかな。回転しながら形を保つの高難易度。
やりたいことは、そう。ジューサーです。
ホントなら漉して果肉は入れない方が良いのかもしれんが、お試しなのでね。天然酵母が皮にいるのなら砕いた皮と果肉ごと瓶に入れちゃったほうがシードルになる気がする。
何回かウィンドカッター製ジューサーを作っては霧散させて感覚を掴む。攻撃のバリエーションも増えるかと思ったけど、これ、作った場所から動かしたら刃が崩れるな。許されたのは同じ場所での回転までだった。
ようやく安定して回せるようになったので、温度が落ち着いたガラス瓶の少し上に生成。刃がガラスに当たらない程度に微調整して……よし、マールム投入。からの回転!
砕ける感じに合わせてガラス瓶を持ち上げつつ、全体が滑らかになるまで撹拌。
できた! そして放置。
「これで終わり、ですか?」
「そそ、基本はジュースの発酵だから」
「蓋とかしなくていいんです?」
「したほうが良いかもだけど、ガスが出てくるし、いったん無しかな」
「ガスってなんだ?」
「二酸化炭素……えっと、エドも飲んだピリピリする水のピリピリ成分」
「おお、あれか!」
エドの疑問に答えつつ、念の為【鑑定】でも確認。
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[ 食品 ] 果肉入りマールムジュース【レア度:C 品質:C】
マールムを滑らかになるまで砕いたもの。天然酵母で元気いっぱい!
HP回復10。
◆発酵情報◆
適正温度になれば発酵が始まる。15度〜35度を保つこと。濁りが取れないようなら失敗。
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普通に美味しそうである。でもまあ目当てはシードル、酒なので!
そして特に通知も来ないので、誰かしら作っているようだ。そういや例の渡り人製パンを売っている露天販売でマールムパンとかあったね。
「わ、気泡が上がってきました!」
「やっぱり反応始まるの早い。見てるの面白いだろ」
「これ、特に時間経過のアイコンとか出ないんですか?」
「出ないね」
「じゃあ完成は見た目が……?」
「澱が落ちきって透明度が安定したら、だな。ミードより見た目は解りやすいよ。あと、多分鑑定結果も違ってくるし、そこで判断したら確実」
説明している間にもどんどんと透明度が上がっていく。早回し見てるみたいで面白いな。ミードのときは透明度とか特に変わらず、気泡が出なくなったら、だったから、ここまで見た目の変化はなかった。
「よし、出来たかなー?」
しばらくみんなで見守ったあと、下に果肉や澱が溜まって、上の液体が透き通ったところで鑑定。
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[ 強化薬 ] 発酵マールム水【レア度:B 品質:C】
マールムジュースを発酵させたもの。甘さはなくなり、華やかな香りとキリリとした辛さが際立つ。
10分間MND2%上昇。
ステータス異常をランダムで一つ解除する。
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「おもてたんと違う!!!!」
< アークにて初めて生成されました。ネクソムと照合……過去データに該当あり。重要度レベルA。他アークと照合……該当なし。他者のアークにて初回生成されたため、他者の特産品に設定できます >
テクニカルビルドは中の人の能力で何やかやするやつ(ざっくりすぎる)
まあ、判りにくい尖ったやつと思ってもらえれば? 嵌まれば強い、使いこなせなければ弱い。
エンジョイは能力関係なく好きなものをとっていくやつ。俺がルールだ!




