071. チェックは念入りに
無言になった私。
答えを待つように見つめてくる、ギャジー、レラ、エド。
「……たくさん、あります、ね?」
「そんなにレベル上がったのか? お前結構上なんじゃねーの」
「いや中堅……いやいやそういう事じゃなくて」
ひぃん! 自分のうっかりを説明するのが心に痛い!!
「実はかくかくしかじか」
「それじゃわかんねーんだわ」
「まるまるうまうま?」
「おい、殴るぞ」
「ヒーラーが暴力ふるってくるぅ!! 設定間違えててアーツ増えてたの気づいてなかった★」
きゃるんって顔しても許されませんよね。解る。
スンッ、となったギャジーと、まだ理解が追いついてないレラ。
この雰囲気どうしようかと思ったところで、エドがあっけらかんと言い放った。
「そっか! 渡り人ってたくさん技を覚えられるんだもんな! アーツ、だっけ? いいなー! おれ、スキルだけなんだ!」
「スキルからアーツ生えねえの?」
「おう! スキルはスキル! 一個だけの技だ!」
話の流れで住人とプレイヤーの差異が判明してしまった!
こういう細かいのも世界設定大好き勢は美味しいんだろうなあ。あ、いや、戦闘勢も気になるか? このゲーム、パートナー契約あるし。
「で? ホップは何が生えてんの」
「確認しますのでお待ち下さい」
このままいい感じに有耶無耶には、ならなかった。それはそう。
少し待ってもらってチェックしましょうねー。とりま戦闘系を……。
そうしてチェックした結果、短剣、水魔法、風魔法のアーツは合計で13個も増えていた。
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【短剣】Lv.12
短剣の基礎。まずはここから。
基本的な技と振るい方を覚えたあとからが本番。
なお木も削れる。
<< アーツ >>
瞬速振り:出の早い振り下ろし攻撃。クリティカル補正。
マテリアルパリィ:物理攻撃をパリィ出来る。タイミング補正小。
瞬速突き:出の早い突き攻撃。弱点にヒットした際、クリティカル補正大。
マジックパリィ:魔法攻撃をパリィ出来る。タイミング補正小。
二段斬り:斬りつけ斬り返しの二連続攻撃。対象に出血を確率付与。
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瞬速振りはよく使ってたね。つーかこれクリティカル補正あったんか。
しかし木も削れるってその情報いる?? まあ確かに木の枝削ったりは出来るけれども……箸作れってか。いやレラに作ってもらってたわ。あれ木工だと思うんだけど。
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【水魔法】Lv.5
基礎魔法のひとつ。流れる水は姿を変える。
<< アーツ >>
ウォーターボール:水の玉。
ウォーターカッター:水の刃。ボールに比べて詠唱速度が早い。
ウォーターランス:水の槍。ボールに比べて飛距離が長い。
ウォーターアロー:水の矢。ボールに比べて命中率が高い。
ウォーターショット:水の弾丸。ボールに比べて弾速が早い。
<< etc. >>
ウォーター:飲用可能な水が出せる。
【風魔法】Lv.8
基礎魔法のひとつ。吹き抜ける風は縛られない。
<< アーツ >>
ウィンドボール:風の玉。
ウィンドカッター:風の刃。ボールに比べて詠唱速度が早い。
ウィンドランス:風の槍。ボールに比べて飛距離が長い。
ウィンドアロー:風の矢。ボールに比べて命中率が高い。
ウィンドショット:風の弾丸。ボールに比べて弾速が早い。
ウィンドエッセ:風の付与。武器や防具と組み合わせて。
<< etc. >>
ウィンド:攻撃力のない風を起こせる。
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絶妙に説明が不親切。短剣と比べて曖昧な表現が多いのはなんなの?
まあ、使ってる感じ、結構自由度が高いから解らんでもない……にしてもこれは使って威力なり操作範囲なり確認しないとですね。
あと付与。これ属性付与……でいいのか? 他のゲームだと攻撃と防御の属性付与は別れてることもあるけど、ここは一緒のパターン、というか魔法に組み込まれてるんだな。エンチャンターという職はあるのかないのか。
確認するのにそれなりに時間を使って、結果を三人、もとい主に聞いてきたギャジーへ共有。やはり気になるのはウィンドエッセのようで。
「防具、部位どれでも出来るんか」
「んー、いけ、そう? 意味あるかはわかんない」
「次までに把握しとけよ」
「気になるならギャジーが取ればいいじゃん」
「あー……」
「なに、訳あり?」
煮えきらない返事に突っ込ませてもらう。
というのもね、ギャジーの瞳の金銀オッドアイ、アバター使いまわしてるなら両眼空色のはずなんだよね。基本色変えもしないやつだし、気になるじゃん。しかもHPも見えてる風でしたしね!
「モルト戻ってきたら話す。一回で済ませたいし」
「素直に話してくださる」
「墓場まで持っていっても良いんだぞ?」
「墓荒らしてゾンビにするね」
ふざけるなとばかりに睨まれました。綺麗な顔で睨まれるの迫力ある。まあ自重なんてしませんけども!
雑談しつつモルト待ちなのは変わらず、というか、結構時間かかってるな。微に入り細を穿つように事細かにチェックしているんだろうか。お前もう考察班とか検証班にいってしまえよ。とは思うけど、主軸は戦闘なんだよな。特性と嗜好が一致しなかったやつだ。
「小腹空いてきたな……」
「ジャーキーいる?」
「もらう」
「おっ! ホップ印のジャーキーだ! おれもおれも!」
「ちょっとエド」
「いいよいいいよ。ほら、レラとエドの分」
非常食として優秀なジャーキーを噛み締めつつ、ちょっと足を伸ばしてミント水を買ってくる。
クルトゥテラはレモン水だけど、インエクスセスはミント水なんだな。レラに聞くと、ストゥーデフはライム水だという。インエクスセスだけオランジ水じゃないのは、やっぱりツタから外すと柔らかくなっちゃうからかね。リアルでのフルーツウォーターも、基本は固めの物だもんな。
オランジは炭酸とかあったらむしろジュースで行けそう。
……んー、炭酸って要は二酸化炭素を水に溶かしたものでしょ?
空気組成が同じ保証はないけど、空気といえば風の一部。
「あ、できた」
「出てきた瞬間仕事を増やすな」
試しにウォーターにウィンドを使ってあれやこれや調整すると、細かな気泡が水の中に立ち上がった。ついでに頭をモルトに掴まれた。
「遅いお戻りで」
「おかえりなさい!」
「おかえり!」
「いたい」
それぞれのお帰りコールに交じる悲哀。エールズみたいに力は入ってないから、言うほど痛くはないんだけど。
「おう。無事に箱庭機能が使えるようになった。サンキューな」
「どうせ掴むなら頭皮マッサージを所望。ジャーキー食べる?」
「貰う。で、何やったんだ?」
ささやかなリクエストは無視されたけど、掴んでいた手は離れていった。
「かくかくしかじか」
「炭酸水出来ないかなって試したら出来たって?」
「なんでそれで解んだお前」
ギャジーには通じなかった省略説明でモルトには伝わることに柳眉を顰めたギャジーに、心外だと言わんばかりのモルト。なんかモルトが変なこと言い出しそうな気配を感じたので浮かせていた炭酸ボールを口の中に突っ込んだ。
ちゃんと小さくして飲みやすくする優しさはありますとも!
「っぐ、げほっごほっ! 殺す気か!!」
「ちゃんと炭酸だった?」
「だ、大丈夫ですか!?」
予想通り噎せたけど、窒息するほどの量入れてないので安心すると良い。
あ、でも量少なすぎて炭酸を感じれなかったかも?
「多少ピリッと来たから成功してると思うぞ。で、何やったんだ」
重ねて同じことを問いかけられたが、まあこれは製法かね。
「ウォーターにウィンドで圧縮した二酸化炭素的な何かをこうずぼっと」
「相変わらず頭おかしい操作精度だな」
「照れるー。あ、みんなもどうぞ」
空になっていたそれぞれのコップにお裾分け。丁度、全員に行き渡った。
モルトはコップないけど、さっき飲んだからいいだろ。




