067. 選択の自由
「で、なんか用か」
インエクスセスのユニオン本部で出会ったギャジーを引っ張って、角の談笑スペースへ連行してしばし。
お互いの雑な自己紹介も終えたところで、彼の方から話を切り出してくれた。
なお、ギャジーの顔と口調が合っていないのはいつものこと。
顔に合わせて丁寧口調で猫を被っていた時代も合ったが、その時のことは黒歴史になっているらしい。
「今ってどっか所属してる?」
「あ? 特には。つーかこのゲームまだプレイヤーギルドとか実装されてないだろ」
「実装はされてる気がするけどね。唾もついてない、と」
「なんだよ気持ちわりぃ」
満面の笑顔だったのが悪かったのか、そんな憎まれ口も投げかけられたが広い心で許してやる。
というかこの顔だぞ。気持ち悪いはずないだろうが。
「ホップ、口から出てる」
「え、あれ? どこから?」
「す、素敵な笑顔です!」
「シェフレラ、そんなに必死にフォローしなくても問題ない。気持ち悪いはず無いって部分だな」
「見た目の話はしてねえええ!」
うむ。見た目詐欺はお互いにあるものな!
綺麗な顔をめちゃくちゃ顰めているギャジーの言葉にうんうん頷く。
この手のゲーム、というか、キャラメイクができる系だと総じて現実よりキレイめにビジュアルが落ち着くよう設計されているものだ。その美男美女の中で頭一歩目立つ容姿というのは、ねらってやるには調整が難しい。
アバター素体として各々使い回せるベースを、外部の制作者なんかに作成依頼もできるのだが、なかなかどうして使ってみるとしっくりこない、というのは有る。
私もギャジーも、その点で言えば素体作成に成功し、なおかつプレイ感もしっくりきたから同じものを使い続けている派だが、モルトやエールズなんかは色々作る方、リトやネネは大幅に変えていると思いきやよく見れば基本の部分は同じだったり、人によって幅があるのが一般的。
「ソロでやるつもりがないなら、うちのメンバーにならない?」
「だからプレイヤーギルドは……あー、何、青田買いなわけ」
「いやお前が青田は無いわ」
「うっさい。別にいいけど」
「やったー! ヒラ様だ!! 念の為、今回もヒラメインで合ってる?」
「おう。生殺与奪を握りに来たぜ」
輝くばかりの笑顔で物騒なことを言っているが、間違っては居ない。回復無いと死んじゃうからね。
ではでは、言質も取れたところで、本来の目的であるクエストをやっていきましょう。
クエ主のモルトに目配せして主導権を譲る。
「ちょうど今からクエ選ぶところ。動き合わせるのも兼ねて行かないか?」
「ユニオンクエ?」
「そ。ほら、加入記念で好きに選んで良いぞ」
「おー。なんか戦闘に偏ってない?」
「俺だし」
「……んじゃ、これ。調査依頼の【水平線の行方】ってやつ。戦闘じゃなくてわりーな! オレに選ばせるからこうなる」
「織り込み済みだから言わんでいい」
ピッと指し示されたクエストの受注処理をしながらモルトは灰雪さんを撫で……ようとして、すでに私にもしゃもしゃされているのを見て手を下ろす。
譲ってくれたらしい。優しいね!
「どんなものなんです?」
「ちょい待ち……指定箇所の採取調査だな。採取物をここに持ち帰ってくればいいらしい」
「では容器がいりますね。私が調査で使っていたのがいくつか有るので、まかせてください!」
「付属の地図によれば水場かな。密閉できる容器だとありがたい」
「了解です! ガラスはまだ無いんですけど、木の器ならあります!」
「助かる」
レラが両手を合わせてあれとこれととエドと必要物をリストアップしている。楽しそうで何より。そういえばユニオンクエは調査依頼を多くやってたって言ってたっけね。
私、調査依頼はそこまでやってなかったからなあ。持ち運んでくるのがネックだ。クルトゥテラでは植物系の採取依頼のついでにやれるものとかにしてたっけ。
「採取物多いのな」
「えっと、これ、パーティ専用のクエストですね。指定箇所が多いのもそのせいかと」
「へえ、パーティ専用なんてものあったんだ」
「みたいですね。エドといっしょに受けたときは見当たらなかったなぁ」
それぞれ準備のために一旦解散し、街の外で落ち合うことに。まあ、言っても街中に用があるのはギャジーだけで、他のみんなは一緒に街の外へ出たのだけど。外じゃないと箱庭開けないしね。
ステラのところに顔を出しても良かったが、今は箱庭で直接やり取りできるし、納品物もこの間渡したばかりだ。特に用事はないので、準備が必要ないモルトと話しつつ時間を潰す。レラとエドは器の数の確認に一度箱庭に帰った。
「いいタイミングだったな」
「ホントに」
「やっぱお前は持ってる」
「日頃の行いがいいから」
「そうか。じゃあ酒もすぐに出来るな」
「なんでそういうこと言うの……っ」
お酒、お酒が作れないんです。ミードはことごとく失敗という名のMP回復薬になるしっ!
箱庭機能解放の検証が終わったら、モルトに持ってきてもらった蜂蜜での量産作業が待っている……。
「どれか一個でもミードになってくれたらなあ」
「未だに酒を作るつもりでやってるのか」
「あたりまえでしょ! あとでレラの手伝いもしてシードルも手に入れて見せる」
「林檎だろ。またなんか変な効果でも出るんじゃないか。期待してる」
「酒を期待してください」
雑談に興じていれば、隣で空間が歪みレラとエドが戻ってきた。それと同じくらいにギャジーも姿を見せたので、目的の場所に向けて出発する。
街道から細道に逸れて森の小道。細く長い木が乱立しているフィールド。葉も密集していないから、他の二国と違って見通しはいい。
違うのは空気もそうだ。少し乾いた冷たい気温。といっても寒すぎることはないのだが、ハーフパンツはTPOに合っていない気がする。まあデバフが出るほどでもないし、耐寒性はまだ考えなくて良いライン。もう少ししたらネネからまた呼び出しがかかるだろうから、その時に毛皮や革素材でも持っていってお願いしよう。
「そいや防具系って売ってるの?」
「なんだ藪から棒に。普通に売ってるぞ。今のところプレイヤーメイドと一般品と差はそんなにないな」
「結構、住人もしっかりしたもの作るぜ。渡り人からランク高い素材渡せば成長もするらしいし。流石に成長率は渡り人のほうがいいけどな」
「パーツのご依頼とかもありますよ」
「レラのパーツは評判いいんだぜ!」
へえー。とそれぞれの話に相槌を打つ。
防具関係はネネに投げっぱなしだから詳しくないんだよね。見た目にこだわる方でもないし、性能が良ければそれでいい。ただ性能だけに偏るとネネにめちゃくちゃ悲しい顔をされるから、それならもうまるっとお任せスタイルになっている。
そう考えると、リネン系や蚕みたいな糸が採取できる子も箱庭にほしいなあ。モルトが言ってた機械ボスの周回でそういう子が居着いてくれないだろうか。あと農業な。流石に糸が取れるほどの大きめな畑管理は片手間できつそう。
「あ、見てください! 森の切れ目です!」
「地図的にももうすぐだな」
そうこうしているうち、クエスト目的地の近くまで来たようだった。レラが指さした方向へ進んでいけば、水音がだんだん大きくなる。滝でも有るのかと思ったけれど、森から抜けて景色が広がった時、それは違うとすぐに解った。
「みーごとに崩落してら」
「わあ……」
森のそばの湖。決して狭くはないその湖面が、ある特定の場所でぱっくりと切れている。そのまっすぐに切れた部分から水が勢いよく落ちているようだった。水音の正体だ。
奥に行くにつれて水が浅くなり底も見えているから、湖というより池なのかもしれない。が、手前はそれなりに水深も深いし、地面が見えているのは崩落の影響が大きそう。
「調査ポイントはあの水が流れ落ちてるところだ」
モルトの言葉に、気合を入れるようレラとエドが拳を握った。




