066. 出会いは突然に
さっくりとモルトのクエストをこなした後、ユニオンへの道すがら彼が口を開く。
「にしても……やっぱヒラ枠は欲しいな」
私、モルト、シェフレラ、エドベル、灰雪。このメンバーだと防御役のタンク一人にアタッカー四人、もしくは私をサブタンクと数えればタンク二人にアタッカー三人。
いつものメンバーにもヒーラー職は居ないし、ヒール力が足りないのは明らか。レラが自己ヒール力高めのタンクとはいえ、序盤を超えた中盤からは力不足の場面もでてくるだろう。
ま、現在どんくらいの進捗なのかってわからないんだけど。
「今回リトが生産メインだからね。ジョブもアタッカーだし」
「だよなあ。しばらくは、野良入れても良いんだけど、も」
微妙に歯切れが悪くなるのは、個性豊かないつものメンバーに思いを馳せたからだろう。すんなり馴染んだレラがどっちかといえば珍しい。素直は最高の財産ですね。
前回、野良からメンバーに昇格した相手と、まあなんやかんやあったのも影響してるのは想像に難くない。あれは皆が悪いわけでもなく、相手がちょっと行き過ぎたとか勘違いとか、うん、あんまり思い出したくない記憶ですね、私も。
「あの……私が役割を変えても」
「タンクの立ち回りいっぱい練習したんでしょ? うち、タンクも少ないし、無理に変える必要はないよ」
「そうだな。やりたいのやるのが一番だ」
「そうそう。ヒラが居ないとダンジョンやボスに挑戦できないシステムじゃないから」
ヒラ用ジョブはあっても、その他のジョブがヒール系を覚えられないというわけではない。伸びやすさとか効力は、まあ本職には劣るけれど。
ヒラが居ない状態を工夫して切り抜けていくのもまたおつなもんよ。
一番いいのは気心のしれたメンバーが増えることだが、望んですぐというわけにも……いや? 一人心当たりがあるといえば? あるか?
疑問形なのはあいつがこの世界で私達と遊びたいかが不明だから。友人というより悪友に近いやつで、同じようなゲームを渡り歩いているが、付かず離れず。パーティのみのこともあればギルドに一緒に加入したこともあるし、かと思えば敵対したこともある。あ、もちろんゲーム内のロールとしての敵対だけどね。
後で確認してみようと思いつつ、ユニオンへ到着。インエクスセス側のユニオンなんで、私も入るのは初めてである。
見た感じ、出入りはクルトゥテラとそう変わりなく。大体が住人でプレイヤーが見当たらないのも同じ。
「閑散としてるな」
「そ? ここはいつもこんなもんよ」
「そうですね」
「灰雪中に入れても良かったか」
灰雪さんとエドは入口近くでお留守番。ギルドは混雑してるからだいたい入口で待ってるそう。リモはそんなこととは無縁に頭の上に戻ってきた。まあ、混んでてもこいつくらいなら邪魔にもならんし、ギルドいったときも変わりなさそう。
「ようこそ、トランス・ユニオン インエクスセス本部へ。ご用件をお伺いいたします」
受け付けてくれたのはシャープな印象の女性。輪郭に沿うように機械の一部が配置されていることからして、おそらくイナニマタ・マキナ種なのだろう。落ち着いた声音で対応する姿にケトゥンとの落差を思う。あいつも落ち着いた低音ボイスではあるんだけど、言動が、ねえ。
「箱庭……箱庭操作機能と、クエストについて知りたいんだが」
「かしこまりました。登録証を拝見いたします」
スムーズにやり取りが行われている。私とレラはここで箱庭チュートリアルも受けてるから違和感はないけれど、モルトにとっては未知の世界だ。ユニオン自体、最初の登録以外に足を運んでいなかったらしいし。
「……まだ、実績が足りないようですね。ごく一般的なご説明となりますが、よろしいでしょうか」
「頼む」
「承りました。まず、箱庭操作機能について。こちらは箱庭を発展させるために便利な機能群となっております。初期機能は箱庭マップとなりますが、それ以外にも追加することが可能です。次に、箱庭クエストについて。こちらは箱庭操作機能を追加するためのポイント取得用になります」
大体、こちらで把握してることと同じ。問題はどうやって解放するのかってことだろう。
まあ、実績云々言われてる時点でほぼ確定したようなもんですが。
「どちらも俺の箱庭には無いんだが。どうやったら追加される?」
「そうですね……各機能の詳細説明は実績に応じて開示されます。お見受けしたところ配信と箱庭マップは追加されているようですので、こちら、ユニオンのクエスト実績を積んでいただくのが早いかと」
「他にも追加の仕方が?」
「特殊なものですが」
「ギルドの実績は加味されない?」
「状況によりけりです。ただ……冒険者ギルド実績単体での追加を目指すのは、おすすめしません」
「なるほど」
納得したとモルトが頷く。
こっちも疑問に裏付けが取れてよかった良かった。これでユニオンクエストも消化されるようになれば、ケトゥンからの猛攻も緩和するだろう。あっちもこっちもハッピーうぃんうぃんである。
「機能追加にユニオンクエストが必要なことを大々的に宣伝するつもりは?」
「必須ではないので特に予定はありません。まあ、メンテナンス時期には必ずユニオンに来ていただくことになるので、そちらでの誘導予定はあったようですが」
「渡り人の間でこの情報は広めても問題ないか」
「特に隠しているわけでもございませんので、問題ありませんよ」
ユニオンのクエストが消化されなくてめちゃくちゃ泣いてたケトゥンが頭をよぎるが、あれはポーズの面もあるんだろうから置いておこう。管理者としての責務もあったろうしね。
実際、とても忙しかったんだろう。クエスト発行ミスもしてたから、ギリギリな感じ。まあ本人そんな印象与えないし、なんなら書類から逃げ回ってたフシもあるから……自業自得では?
そいや全く気にしてなかったけど、ケトゥンの種属ってなんだろな?
文様は見えないからスピリトゥス種ではなさそうだし、耳は髪に隠れて見えないからエーフ・メディオキスかの判断はつかない。今度覚えてたら確認してみよう。
物思いにふけっている間に、モルトは受付との会話を終えていた。いくつかおすすめクエストも教えてもらったとのことで、邪魔にならないよう入り口付近の角へ移動する。途中でエドと灰雪さんもピックアップ。
インエクスセスのユニオン本部は受付の手前が広く取られており、歓談スペースが設けられていた。受付側との間に、不思議な植物のような機械のようなオブジェクトが配置されていて、受付付近からの視線を遮る作りになっているのがさりげない配慮。こういう細かいところで格や品っていうのが出るものだ。
そうやって導線や調度品に感心していると、入口から人が入ってきた。何気なく視線をやって、プレイヤーか住人かを流れ作業で判断、して驚いた。
入ってきたのはプレイヤー。エーフ・メディオキスなのだろう、特徴的な尖った耳。長い金髪と、珍しい金と銀のオッドアイ。これぞエルフ、という美しい造形だが、そのプレイヤーネームと顔の造作に見覚えがありすぎる。
「モルト、あれ」
「ああ」
短い言葉と視線でモルトも思い当たる人物は同じだと確認を取り、受付に進む姿を眺めつつ……後ろに回って仁王立ち。
モルトも心得たもので、入り口を塞ぐように灰雪さんと陣取った。
「ギャジー!」
「え? うおびっくりした! お前はっ」
「金髪お兄サーン、イイモノアルヨ。ヨッテッテヨ」
「やめろその喋り! 古傷が疼く!!」
ユニオンに入る前に思い出していた、ヒーラー候補、彼がそこに居た。
メンテナンス時の誘導は誰も気づかなかった場合の救済措置
運営的には気づいても気づかなくても本筋の進行に大差は無いから良いよねスタンス
気づかなかったほうが悪い! なお本筋がなにかは神(運営)のみぞ知る




