064. 事実確認
アマヌスとパートナー契約してから箱庭環境は劇的に向上を遂げた。
本人が豪語するだけあって、建築技術はずば抜けているらしく、普段過ごす普通の家なんか一日足らずで建っちゃったもんね。スキルや魔法があるとはいえこれはすごい。
草原に佇む二階建てログハウス。庭付き。
まあ箱庭内は全部自分の庭みたいなもんだけど、そういうんじゃなくて、柵に区切られた裏庭みたいな? ペレラは大葉だったので、今はそいつとほかの食べられる葉ものが植わったちょっとした畑になった。
ちなみにモルトから貰った芋は種芋になりませんでした。日当たりの良い場に放置しても芽が出る様子もなかったので、魔力保護の範疇なんだと思う。
最初に植えたレモンスター、ツルフロッソ、ヘアリーベッチの三つは全部普通の草花だったのだけど、何もしなくても草原全体に分布していってた。それを植生操作で森側にまで植えてみたり、アマヌスに紹介してもらった苗木屋で見繕った苗を植樹したり。
だいぶ生き生きとした風景になりましたよ。
ようやく【剪定作業】スキルさんも使えたし、箱庭クエストも捗る捗る。
ちなみに給料の値段で固まったアマヌス、あれ、自分が提示した以上の額がきたかららしい。
ということは三百ヌンスを所望していたということ。あまりにも安くない? と思ったけど、衣食住は補助が出るから、当座のちょっとした費用だけ稼げれば大丈夫だったらしい。
まあ、高くて悪いこともなかろうとそのまま三千ヌンスで契約書に追記してもらった。
そんな一幕もあったからか、彼女の意欲は凄まじく、あれよあれよという間に希望の住居とか倉庫とか、その他大物から細々したものまで作ってくれているのである。
休み無しだよ? そんなブラック契約をしたつもりはないんだが。
ここはもう一人普通に大工を連れてくるべきかと思ったけど、アマヌスの手が早いから間に合ってるんですよね。なんで契約できてなかったんだ。口の悪さや押しの強さか?
基本は建物を作ってるんだけど、息抜きと称して椅子やテーブルや東屋なんかが出来てきて、息抜きの定義を考えたりもした。まだテーブルまでは解るけど東屋て。
なんというか、職人さんなんだろう。作ることが仕事で趣味で楽しくて、みたいな感じ。
今日は昨日までやっていた湿地帯の道の板貼りが終わったとかで、森の入口から少し入ったところに開放感のある建物をお願いしている。
自分はそんな彼女の材料が足りなくならないように森の手入れだったり、外に出てレベリングがてら狩った敵のドロップを持ち帰ったり。
ベースレベルはようやく15を突破して、一人でもルーラー・ビー挑戦が出来るかな? ってところ。
トップ勢は30後半って話なので、進捗度的には半分いかないくらい。ま、トップ争いに加入するつもりはないから、自分のペースでいきましょう。そうでなくてもスピリトゥス属はベースレベル上がりにくいらしいし。多分経験値テーブルが違うんだろうね。
そういう種属差異はあっても、強さ的には差が無いように調整されているから、特に不遇というわけでもない。なんなら大器晩成型で伸びしろがあるって意見も見かけるし。
フーからの連絡もとくにない。苗木屋でもウロの出来る木がないか探したり聞いたりしてはみたが、収穫は芳しくなかった。片っ端から買って植えてみてるから、どれかはウロのある木に育ってくれると良いんだけど。
そんなこんなで、まったりとログハウスの一階でレモン水片手にドロップ整理をしていたのだけど、そのまったりを切り裂くフレンドコールの着信。
モルトからの連絡だ。蜂蜜が集まったから持ってきてくれるそう。
「そういやそういう話もありましたねぇ」
すっかり忘れ気味だった。ここから蜂蜜ジュース製造RTAが始まる……まあどうしたって待ち時間があるからRTAは出来ないんだが。
待ち合わせはコルト。
というわけでサクッと回収してサクッと戻り。
噂の紳士同盟が見れるかなと思ったけど、今日は独占者は別のボスのところへ行っているようで、コルトは至って平和だった。
なんというか、独占者も懲りないね。まあ、毎回同じ人が突撃しているとは限らないか。
「よっと」
重たい音を立ててモルトの手と灰雪さんの口から倉庫へと籠が降ろされる。蜂蜜総数は五十らしい。もともとざっくり計算で二十のオーダーだから、倍以上。
そのうち十はモルトの個人的な依頼らしいけど。納期は特に指定されてないから、気が向いたときによろって感じ。分割も可。
「保管場所作ったんだな」
「そそ。流石に野ざらしは思うところがあり」
「鮮度とか関係あるのか?」
「さあー? 品質表示はあるけど、他の生産系ゲームみたいに素材の鮮度表示はないからなんとも。マスクされてたら解らんが」
「品質が鮮度じゃなくて?」
「違うっぽい。品質がいい方が出来たものの品質も高くなりやすいけど、外においてたときも下がるとかなかったし」
わしわしと灰雪さんを撫でながら会話。リモは私の頭の上でなく灰雪さんの頭の上に乗っている。落とす素振りも見せないから本当に灰雪さんは良い子だな!
「にしてもお前のとこも随分綺麗になったな」
「でしょー。頑張った!」
ホームのログハウスから始まり、東屋、広い場所にベンチやチェアとテーブル、道も整備され分岐点には道案内の立て看板もある。植生も草原周辺では初期の謎植物はほぼ見えなくなり、外の景色と遜色ない。湿地帯とか海方面はまだ綺麗に出来てないけど、そこは別の植物やらが必要そう。まあ環境違うもんね。
「土魔法取ったのか」
「取ってないよ? 稲作はまだ稲見つかってないし」
「じゃどうやってこんな広範囲」
「契約パートナーも居るし、一人じゃないからねー」
「結構な人数だろ。思い切ったな」
「まだ二人なんだけど」
「ヌー」
会話が微妙に噛み合ってない気がしたところで、灰雪さんの鳴き声が入った。タシンと尾が床を叩く姿越しにモルトと見つめ合う。
「道の話だよな?」
「全体の話じゃないの?」
「いやいやいや、お前、道だけでもすごい労力かかるだろ?」
「まだver01開放できてない系? 色々手を付ける前に箱庭クエスト消化してポイント貯めたほうが良いよ。効率段違い」
「は?」
箱庭クエストに戦闘系はないもんな、と納得して助言したら、なんか違ったらしい。
こめかみに拳を当てている姿は既視感を誘うもので――
「箱庭クエストって?」
「箱庭ポイントを貯めるやつ……」
「箱庭ポイントって?」
「箱庭操作機能の解放に必要なやつ……」
「ver01とか言ってたよな?それ?」
「そう。ver01は植生操作と地形操作」
「俺の箱庭にはそんなものはない」
確認されるごとに眉間にシワが増えていったと思ったら、最終的にそんな台詞を言われました。
「みんなどうやって整備してんの!?!?」
「少なくとも俺はそんなに手を入れてない。リーナはお前のとこで道作ったからその応用を試してるって言ってたが」
なんでも土魔法のコントロール練習に良いらしい。スキルレベルも上がればよかったけど、土魔法って戦闘系になるんだもんね。箱庭では訓練できても戦闘関連は上がらないってスイも言ってた。
「現実逃避に別のことを考えるな。現実を見ろ。現実を」
「いやだって私以外にも居るって! これは居るって! 意味がわからない!」
「少なくとも配信勢では見てないな」
「嘘だろ!? みんなは!?」
「そもそもまだ配信機能まで解禁してるやつが……シェフレラはもう少しで家が立ちそうって言ってたか」
「大工とか木工系スキル取得してそうだったもんね! おめでとう!」
「本人に言ってやれ」
やだやだこれ以上先人になるのはやーだー!!




