059. 箱庭チュートリアル完了
『では次に、地形操作の説明に移ります』
言葉が終わると同時、練習のため生やしていた猫じゃらしも操作範囲となっていた部分も、すべて最初の状態に戻る。
更に部屋全体がブレたかと思えば、投影されている映像が湿地帯のそれに変わっていた。
薄く張られた水、その面を覆う草と水苔、ところどころ岩の覗く泥濘の中に佇んでいる。通常フィールドなら泥だらけになること必死だが、投影映像のため足に汚れが付着することはなかった。
マップを確認すれば現在地を示す光点も、湿地帯の上になっている。
『先ほどと操作範囲の決定は同じです。まずは範囲を確定してください』
ドゥクトゥスの声に従って、適当に蛇行した線を描く。決定ボタンを押すと、マップと同じ箇所が室内でも淡くオレンジに色づいた。
『説明のため操作範囲を視覚化しています。実際の機能では視覚化されないためお気をつけください』
「了解」
『地形操作は地形の隆起や陥没が主な機能です。隆起の場合は高さ及び追加の土の指定が必要です。土指定は箱庭ポイントを消費して省略することも出来ます。陥没の場合は深さ指定及び排除した土の置き場所が必要です。土を箱庭ポイントとして還元することも出来ます』
「質量保存の法則」
いやこの世界にそれが適用されるか解らんけど。少なくとも箱庭内には適用されてる模様。
まずは適当に設定して……どうせなら湿地帯に橋をかけるつもりで……どう頑張っても道ですねありがとうございます。地形操作だから土しか操作できないんだよな。高さを一本の中で変化させることは難しい。
試行錯誤しつつ、隆起用と陥没用と、二つの設定を終える。
すると、私の設定に従ってオレンジに発光していた地面が動き出した。陥没した部分には緩やかに水が流れ込み、盛り上がった土は水の流れをせき止める。土なんだけどちょっとビーバー思い出したな。あいつら水場を変化させる困ったさんだけど、変化後は豊かになるんだっけ? うちにも来てくれませんか。豊富な水場を用意しますんで。
『完了を確認。次に、水流操作を試してみましょう』
「マイナーバージョンの機能だな」
『イエス。飛ばすことも可能ですが、どうしますか?』
「そのまま続けて」
取らなくても次のバージョンには行けるんだっけね。とすると、楽になったり細かい調整したりが出来るようになるけど、大枠にはあまり影響がない機能なのかな。
一応、飛ばしてもあとから取得はできるらしい。色々大きなことを出来るようになるのを優先するか、最初から作り込みを優先していくか、性格でそうだなー。
私? 基本はコンプリート魂があるので全部取得していくつもりだけど、やりたいことが出来たら飛ばすことも辞さない。ようは行き当たりばったりです。
『水流操作のUIに変更します』
ドゥクトゥスの言葉とともに、何も表示されていなかった長方形に、隆起や陥没が反映された湿地帯の情報が映る。それだけではなく、小さく細かい矢印が水の上に表示されていた。室内とUIを見比べるに、これが水の流れる方向を示しているらしい。
おやおや、おや。ファンタジーなこと出来るんでない? これ。
『水流操作は矢印の向きを変更することで行えます。矢印の向きが流れる方向です』
「はい、質問。下から上に流すことも出来る?」
『下……上……低地から高地へということでしょうか。可能です』
「滝!滝の場所いけますか!」
『検索します……該当地形を確認。変更します』
ぱっと室内の景色が変わる。張り出した岸壁から大量の水が飛沫を上げて落ちていく様が眼の前に。
水流操作の画面を確認すると、先程より大きく太い矢印が滝の流れに沿って何本も表示されている。
よーしやっちゃうぞ。物理法則無視の水流作っちゃうぞ。
というわけで、ドゥクトゥスに教えてもらいながら水流操作! UIの矢印に触れてグニッと動かす。滝の真中部分のいくつかを真上に向けて……決定!
すると、眼の前の流れる滝に変化がおきた。
両側、矢印をいじらなかった部分は変わりなく下の方向へ。真ん中、矢印を上に向けた部分は――下から上に。物理法則を無視して、駆け上がる龍のごとく流れていく。下へ流れる水流と上へ流れる水流が、狭間でぶつかって飛沫を上げる姿は、太陽が照らせばきっと虹がかかるだろうと思われた。
「ふぁーんたじー」
「へえ、こんな事もできるんだ。意味はわからないけど、見たことがない景色だね」
「意味はない。だが浪漫はある」
ケトゥンの感想に返しつつ、出来上がった滝をしばし鑑賞。
ぶっちゃけやってみたくてやっただけで、これでなにかしようという意識は微塵もない。
流石にリアルだとお目にかかれないものだから、目の前の光景を正しく認識しようとすると脳がバグったようになる。ううーん、逆アハ体験。
ちなみに滝壺というか、そこから流れていく川というか、その部分の水流はなんかよくわからなくなっていた。矢印がこう、ごちゃっとしてぐちゃっとして、あっちゃこっちゃ大変な有り様。
一応、水流は他の水流に影響与えるっぽく、このあと湿地帯に戻していじってみたところ、小さい矢印一個だけを逆にすることは出来なかった。いや、逆に設定はできるんだけど、他の流れに押されてすぐ戻るというか。
その後、湿度操作も教えてもらったが、これは特に面白みがなかったことを付け加えておく。
範囲設定してその部分の湿度、水分量をパーセンテージ指定するだけだからね。
『それでは最後に、天候・気温操作に移ります。天候・気温はエリアごとの設定になるため、範囲設定はありません。また、エリアの特性によって設定できる内容は変化します』
「エリアって?」
『表示します……UI更新、マップに機能付加。マップを拡大します』
今までの機能説明では変化しなかったマップに変化が起こる。
縦横に線が引かれ、数字とアルファベットが振られている。ここ、オリジナル文字じゃなくてアルファベットなんだな。わかりやすさ優先なのか。
『数字と英文字の組み合わせで、エリアを指定します。指定後、天候・気温の設定ウィンドウが開きます。1aですとマップ左上、10jですとマップ右下となります』
UIの変化は線が引かれただけではなく、下の方にスペースが出来ていた。そこにエリア指定の文字、とりあえず5eを入れてみれば、真ん中らへんの部分が薄い水色に色づく。するとドゥクトゥスの言葉通り別ウィンドウが開かれ、天候の選択肢が4つと最低気温と最高気温が表示される。あ、今日の気温の最低最高ではなく、この範囲内で決定してねという閾値だね。天気予報はなかったのだ。
「……そういや、外で雨降ってるの見たことないな」
「天候は今のところ固定だよ。魔力保護が強力だから、それで緑が枯れることもない」
「ん? でも川の水位が下がってるから調べたよね?」
初回、ユニオンで受けたクエストを思い出す。リグ川の水位が下がってるから調べてくれ、というやつで、調査結果は上流に岩が重なり詰まりが起きている、というものだった。
「そう、水位の低下も本来なら異常事態なんだ。保護されているから変化が起こりようがない。まあ結果は岩づまりっていう、どう判断していいか迷うものだったけど。あれからリグ川については定点観測しているよ」
「人為的の可能性があるってこと?」
「さあ、ね」
ほほー、なんだかきな臭くなってきましたね。
そっち側もクエストの予感がしますが、たぶん戦闘系だろうな。モルトに投げよう。
そんなこんな会話しつつ、天候を雨にすればしとしとと細い雨粒が降り注いでくる。気温も23度の少し肌寒い感じにしているけど、両方ともこの部屋では実感がわかなかった。まあホログラムで練習するためのところだしね。実際に変化は起こってないのだろう。
『――以上で箱庭操作の説明を完了します』
「さて、これで一通り試してもらえたかな。お疲れさま。完了の手続きをするから少し待っていて」
ケトゥンの背中を見つつ、しばらくは箱庭の整備のためのポイント稼ぎにクエスト消化かなーと、待っている間、引きこもり計画を立てることにした。
果たして引き込もれるのか




