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001.『ホルトゥス・ネクソム』オープン

009話目までこのあと同時投稿します。

 つややかに磨き上げられた陶器製の白いコップへ、なみなみと満たされるは黄金の液体。

 底からふつりと沸いてくる気泡が、水面に到達し弾けて消える。

 ごくりと知らず喉が鳴り、慎重に伸ばした手が恐る恐るコップを持ち上げ口元で停止する。

 深呼吸一つ。

 覚悟を決めた顔をして、喉奥へと液体を流し込んだ。


 ***


 好きなものと苦手なものが一致するのは、前世でなにかとんでもない業でも背負ったのではないかと思う。痛む頭に手を当てながら、常備してあるはちみつとレモンを白湯に溶かす。


「うー、いたた」


 唸ったところで痛みが軽減されるでもなく、出来上がった温めのレモネードを体内に入れて一息つく。


「調子に乗って呑みすぎた……」


 あまりにも嬉しかったので、前祝いと称して呑みたかったビール缶を開けたのがまずかった。気がつけばベッドへ倒れ込んで今の状況だ。お酒美味しかった。ただし体質が大量に飲むことを許してくれない。悲しい。

 そう、私の最大にして最低の欠点は『お酒に弱い体質』であるということ。


(でも、それでも!)


 お酒は呑みたい!

 そんな夢を叶えてくれる存在がようやく販売されたと聞いて、全力で買い求めて届いたのが昨日。


「ふっふっふっふ」


 取り出したるはヘッドマウントディスプレイ。略してHMD。

 VRゲームが主流となった昨今、認識できる解像度は上がり空気も味も感じられるようになってなお、アルコール類からもたらされる酔いは再現されていなかった。気持ち悪くなるなら同じでは?と、毒を飲んでみたこともあったが……具合が悪くなるのは読みどおりでも、味が美味しいとはいえなかった。


 それが今回、新しくサービス開始する『ホルトゥス・ネクソム』では、きちんと酩酊感を得つつ美味しくお酒が飲めるという!


(待ってろまだ見ぬお酒たち!)


 そうして二日酔いも何のその、意気揚々とHMDを装着し、意識を仮想世界へとダイブさせた。


 ***


 最初に感じたのは光。まぶたを閉じていても感じる明るさは、けれど刺激を強くすることもなく、優しく感覚を調整する。

 馴染んだところで周りを確認しようと意識した。まぶたを開ける感触がリアルだ。


「おお」


 さすが最新バージョンのHMDである。今は何もない空間だが、手を握ったり肩を回したり、感覚がいつもより鋭い気がする。


「さてさて、引き継ぎしますかね」


 もちろんゲームの引き継ぎではない。なんせまだサービスが開始されていない。

 行うのは前に使っていた一つバージョンの古いHMDからの移行。といっても難しいことはなく、生体認証を経由してクラウドに保存されたデータとのパスを繋ぐだけ。これで面倒なアバター作成などは他のゲームに使っていたものを使用できる。

 おそらくバージョンが上がったことにより、もっと精巧に繊細にアバター作成もできるんだろうが……そこはまあ見た目は気にしない。だってお酒と関係ないし。

 各種パラメータの同期、ホームスペースの設定、アラーム関係の調整に身体サーベイの閾値の確認。

 一通り終わったところで時刻を確認すれば、9時55分だった。サービス開始は10時から。

 キャラメイクが事前にできるタイプではないので、あと5分ほどある。


「んー、メールオープン」


 一応確認しておこうとメールを表示させれば、いくつかの新着が踊っていた。


「宣伝と仕事と、あ、あいつらからも来てる」


 リアルでの友人と、ネット上の友人と、中身は読まずともタイトルだけで内容はわかる。というかタイトルしか無いやつもある。サービス開始前のお祭り気分で送ってきたんだろう。返信してもいいが、なんだかんだでもう時刻だ。ゲーム内で会えたときにでも返してやろう。


「『ホルトゥス・ネクソム』オープン」


 あー、ショートカット設定しておくんだった。

 微妙に言いにくいタイトルを口に乗せて、意識が切り替わる直前そんなことを思った。

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