104. 第零回緊急攻略会議
クルトゥテラの街の外。入口にほど近い開けた草原の、木々が影を作って気持ちの良い午後。
四人がそれぞれ、木に凭れたり地面に座ったり灰雪さんを久しぶりにもふもふしたりしている状態でおもむろに口を開く。
「というわけでね。皆さんに集まってもらったわけですけども」
「どういう訳だよ」
バーミリヲンから色々、本当にいろいろと情報を得たことで、私の『他の人に世界のことは任せてのんびり酒探索』は方針転換を余儀なくされた。
今日はそのお気持ち表明、もとい、攻略勢への参入をいつものメンバーに宣言し、積極的な情報共有をお願いしようという魂胆だ。
モルトが呆れたような目をこちらに向けているが、一番巻き込むのお前だからな?
小腹満たしにジャーキーを差し出しながら、力を入れて声を上げる。
「このゲームの仕様上、攻略を進めてこの世界を修復しなければ酒を飲めないことが確定したんですよ!!」
「ああ、なるほど。リーナが連絡してきた件」
柔らか甘めのジャーキーを口にしながらエールズが納得した。
リーナからのチャットとバーミリヲンの島へのツアーを経たメンバーはある程度の事情を知っている。が、さらにそこへかれこれ云々、私だけが聞いていた情報をインプットする。といっても酒やMPに関係することだけだが。
「酒よりよっぽどMP回復効果のほうが大事じゃねーか!」
「だまらっしゃいギャジー! 酒作ろうとすればMP回復アイテムできるでしょ!!」
「流石に僕もそれはどうかと思うよホップ……」
「エールズに一票」
「あっれえ!?」
至極当たり前のことを言ったつもりが全否定された。ちなみにいつものメンバーと言っても全員が揃っているわけじゃないから、きっと他の人は頷いてくれるでしょう。コイツラがおかしい。
この場にいるのはモルトとギャジー、そしてエールズ。出張でしばらくイン出来ていなかったエールズに情報共有をしていたモルトのところに私がそこら辺で捕まえたギャジーを引っ張って集まりが結成されたというわけ。
他のメンバーはパラトスに引き連れられつつバーミリヲンのとこ。念願の錬金術だからね。パラトスの熱意は相当なもの。リーナとレラエドは案内役として、リトはパラトスの暴走を止めるため、ステッラとN.N.は先行者特典と言わんばかりに突っ込んでいった。ちょっとN.N.が涙ぐんでた気がするけど、気の所為でしょう。
ネネ? あいつならツェチィーリアから紹介された契約パートナーと意気投合して箱庭に籠もってるよ。
「攻略つってもこのゲームメインストーリーとかメインクエストとかないだろ? 小さいものはポコポコあるけど」
「そうだな。機能が開放される系のクエストや、素材や金稼ぎ系のものだな。これといった指示は、それこそ最初に『箱庭を発展させてくれ』って言われた以外には今のところ聞かない」
「ちなみに皆の箱庭レベルいくつ?」
「「2」」
「3」
「……いやまあ、なんか予想通りっちゃそうなんだけど、ホップが一番進んでるよ。ちなみに僕も2ね」
エールズからの問いかけにモルトとギャジーの声が揃ったので、ギャジーも無事にランクアップしたことを知った。ついでに箱庭クエストが開放されたかも尋ねたが、問題なかったようだ。前に気になってたユニオンとギルドで同程度クエストこなしてたらどうなるかってのは予想通り初手で開放。そこら辺はモルトから検証班に共有済みらしい。やっぱりユニオンでのクエスト数だろうって結論が出たそう。
「やっぱり箱庭の発展が鍵かなー?」
「現状手がかりらしい手がかりってそれくらいだしな。3にどうやって上がった?」
「よくわからん!」
「ひ・ね・り・出・せ」
「ふぁい……」
元気よく事実をお答えしたらエールズからアイアンクローを食らってしまった。でもあんまり痛くないから優しい方。
ここで更にふざけると容赦なく締め上げられるので、影響度が上がったときのことを必死で思い出す。
「……んー、これといって……パートナー契約増やした直後だったはずだし、契約数、かな……?」
「何人?」
「たしか、人数的には10か11? 最後二人同時の契約だったし、正確には解んないけど、10以上が濃厚じゃないかなあ……?」
「契約数が出来てからのランクアップパターンか。特定し辛い方引いたな」
「なんで?」
モルトが難しい顔をしたのに契約数っていう解りやすい条件じゃないかと思ったが、どうやら数多くパートナー契約を結んでも上がらないパターンがあるらしい。パートナーそれぞれの好感度か、別のなにかか、検証もあまり進んではいないようだ。まあ、箱庭の影響度は不可逆だし、検証班の人数にも限りがある。ただ、契約が特定数以上、おそらく10以上はいるだろう、というのだけ解っているそう。
「そもそも、発展っつーのが箱庭影響度なのかよ? なんかもっとこう、箱庭らしく街ができるとかさあ」
「いや、影響度3にならないと、住民の住み込みが解禁されない。ガワだけは作れても、人がいない街になる」
「誰もいない街……ロマンがある……」
「そうじゃないよね? ホップ?」
「まってごめんごめんアイアンクローはやめて!」
そうかそういう遊び方も!!と脱線しそうになったところにエールズの修正が入り、その後もなんやかや話したがこれといったものは出なかった。
「あ、そうだホップ。丁度いいや。このあと魚届けに行く」
「おお、ありがと!」
「これで食糧供給?の、クエストは達成されるんだっけ」
「そうそう。穀物は結局手に入んなかったけど……他でなんとか」
そもそもバーミリヲンと出会うきっかけが穀物を探して!だったからな。結局、物自体は手に入らなかった。ただ、錬金術で種は作り出せるそう。
「種が手に入るなら育てられるんじゃ?」
「いや……それが……」
歯切れ悪く遠くを見る。新しく取り出した辛めのジャーキーを引きちぎって、顎をひたすら動かした。
「今だと生命エネルギーが取られるから、芽を出させるだけで大変なんだって……栽培の三次スキルが必要っぽくて……」
「……吸血鬼か何かの神?」
「アルコールにMP回復に生命エネルギー。なんでもありかよ」
「全くゼロではない分温情……いや三次スキルは誰も取れてないな」
バーミリヲンから生命エネルギーって聞いてびっくりしちゃったけど、育ちにくいのは錬金術で作られた種から育てようとする植物に限ってらしい。植物は成長すれば安定したエネルギー摂取ができるのとそれなりにどこにでも生えてるから、薄く広く吸収してるんだって。ただ、錬金術の種は無理やり作っているのと同義だから、そもそも内包する生命エネルギーが発芽ギリギリなもんで、少しでも吸収されると芽が出ないそうな。
「結局バーミリヲンから受けたクエストをクリアしないとどうにも出来ないっぽげ」
「制限がひどい」
「それな」
「まあ、最初から何もかもご用意されているゲームより、開拓感があって楽しくはある」
「運営ちゃんはもうちょっと情報をお出ししたり解りやすくしてくれてもいいと思うんですよ」
愚痴りながらジャーキーを食べ終えて、その場でエールズから桶に入った魚を受け取る。街の外だからここで箱庭開けるので、自分の箱庭への放流作業もすぐに終わった。
なんとなくついてきた三人といっしょに沢へ足を浸しながら、放した魚が飛び跳ねるのを眺める。
「攻略って言っても今まで通りでいいんじゃね?」
「ギャジーにまともに諭されるとは思わなかった」
おあとがよろしいようで




