102. 其は暴食の
ビシリ、と、システムの案内が聞こえる三人が動きを止めた。それはそう。それは、そう……!!
「あとはのぅ〜、そろそろ食料の備蓄も危ういな。錬金術で生み出すにしても基本的な素材は調達せんとな。酒も欲しいところじゃが、今だと出来てMP回復薬だろうて」
「!?!?!?」
あ、ありのままに今起こったことを話すぜ! 俺たちはクエストの達成条件を確認していたはずが、何故か錬金術の習得クエが起こりそれだけじゃなく酒の情報まで!? な、何を言っているかわからねえと思うが俺も衝撃で小粋な反応を返すことが出来ない!!
「こんなところかの! 次はわらわの番じゃな」
「ちょっとストップ待ってタイム」
思わずバーミリヲンの言葉を遮って三人で円陣を組む。生贄のようにエドをバーミリヲンとアブチロンの前に差し出して、間をもたせる大任を押し付けた。
「どういうことなの」
「酒を作るとMP回復薬になるなんて思わなかった」
「アナタがやってることじゃない! んもぅ! 違うわよ! 錬金術よ錬金術!!」
「パラトスさんが探してるやつですよね……!? え、これ、渡り人の皆さんに共有したほうが……??」
「とりあえず保留よ保留! 一旦保留ボタン押して!」
リーナの一声でそれぞれが保留ボタンに手を伸ばす。一応、パーティの過半数が開示許可を出さないと、全プレイヤーへの開示は行われないみたい。
「何なのよぉー!! これ一問一答してたら日が暮れるわ! 聞きたいことが増えるばかりじゃないの!」
「報酬棚上げしてクエスト達成に動く? あー、でも外出れんのか」
「私達だけじゃ手に余るワ! 次の質問は帰る方法にするわよいいわね!?」
「酒の話聞かせてください」
「後にしなさい」
「ハイ」
ドスの効いた声で窘められて素直に従うことにした。いくら酒グルイの自認があるとしましても、泣く子とリーナには逆らえない。普段ここまで強行されることがないからなおさら。
「コホン……ごめんなさいね。話の腰を折ったわ。続けて」
「む? もうええのか?」
振り返った先ではエドがアブチロンを背もたれにバーミリヲンに餌付けされていた。これ以上ツッコミどころを増やすな。
何? 飴もらったの? 良かったね。
「では改めて質問じゃ。今、外にはいくつの国が残っておる?」
「中央交易区を除いて、でいいのかしら? ストゥーデフとインエクスセス、それからクルトゥテラね」
「パスティアとワーテシュも無くなってしもうとるのか……貯蔵庫に米と大豆あったかの……」
「んー! んー!!」
口を開くより早くリーナの手が塞いでくる。ちょっと頬を凹まされているから地味に歯が当たって痛い。
でもだって米と大豆ってそれ日本酒!ちがった日本食!
「次の質問で一旦区切らせて頂戴。アタシ達、ここから出る方法を知らないの。移動手段はどこかに行ってしまったし。どうしたら元の場所に戻れるかしら?」
「ああ、それなら簡単じゃ。この家の裏手に門がある。本来ならそこから主らが出てくるはずだったんじゃがの。じゃがもっといい方法もあるぞ。主ら、神からなんぞ貰っとろう? この場所とのパスを繋いでやるゆえ、次からは直で来れるぞ」
「あら、助かるわ」
どうやら箱庭の移動先にこの場所が追加されるみたいだ。透明度の高い紅い石があしらわれた指輪をバーミリヲンから受け取ることで、移動先が追加されたというシステムアナウンスが中空に浮かぶ。
クエストクリアが離れる条件じゃなくて良かった良かった。まあ、規模的にすぐに終わるものでもないから、何かしら救済措置はあると思ってたけど。
「一旦区切りということはもう帰るのかえ? 渡り人には別の世もあるんじゃろ?」
「そうねぇ、アタシはちょっと予定があるから落ちる……別の世に戻るけど、あなた達どうする? みんな連れてくる?」
「あ、主らは許可証、その指輪があるからここに来れるが、他のものは一旦扉から来て貰わんと直接はこれんぞ」
なるほど。予定の時間が迫ってたから圧が強かったんだな。リアル大事。
「私は酒についてすごく詳しく聞きたいからもうちょっと残る」
「あ、じゃあ私が皆さんをお連れします!」
「いい子! アタシのほうで軽く事情説明のチャット飛ばしておくから、あと頼むわネェ」
というわけで解散の流れ。
ただまあ、そんなにリアルの用事は長くないとのことで、パーティはそのままにしておいた。戻ってきたらすぐ解るし。
レラとエドが箱庭に戻り、リーナがその場から消える。一応、この家周辺はセーフティエリアということで、箱庭に入らなくても大丈夫。
最後に一言、暴走しないようにとお小言をぶん投げられたので心に刻んでおこう。しないよ。たぶん。
「で、なんぞ。酒についてじゃったか?」
「はい!」
片手を元気に上げて全身で教えを請う流れ! こんなことなら手土産の一つでも持参すべきでしたね!!
「といってものぉ。何が聞きたいんじゃ?」
「どうやったら作れますか!!」
「今は作れんと思うぞ」
出鼻でくじかれた。
「な、なんで……」
「どこぞの神が世界を支えるためにアルコールをエネルギーにしとるからの。ある程度土地が戻らんと、作っても抜かれるぞ」
「……どういうこと?」
「それぞれの神には好物……まあ、エネルギー効率がいいものといってもええか。そういうものがあってな。今の世界を支える神柱となっとるやつが、酒好きなやつでな。しかも悪食ときた。MP回復するものを好物とするのも神柱におるが、あやつはお行儀がええからの。アルコールを食らったあとの残りカスは手を付けん」
「つまり?」
「酒を作ったところでジュースかMP回復効能のある飲み物になるはずじゃな」
「奉納酒あるって聞きましたけど!?!?」
「崩落が起こる前に作られたやつじゃろ? アイツのことじゃし嗜好品扱いでメインエネルギーにはしとらんじゃろ。まあ、そもそも量が足りんわ」
「酒飲めないってことぉ!?!?!?」
終わった。私のゲーム、完。
「酒が飲みたいのか?」
「そのためにここに来たんですぅ……」
いや、でも、まって? 土地が戻ったらアルコールが、酒ができるって理解でも良いのでは?
今まで積極的にゲーム攻略には関わってなかったけど、これはもう爆速で攻略していくしかないのでは!?
思考の海に三回転半錐揉みして飛び込もうとする私の前に、すっと何かが差し出される。
真四角のグラス。いわゆるショットグラスと呼ばれる小さいそれ。細かなカッティングが下の方に施され、中身を満たす赤い液体が分光したように、緑、紫、青、黄色と様々な色をテーブルに落としている。
「わらわのとっときじゃぞ。味わって飲むとええ」
「これは……」
受け取って、鼻を近づければ特徴的なむわっとくる感じ。少量を口に含めばもったりとするとろみと甘やかな酸味、そして喉を焼くアルコール。
「神」
「やめい、あやつらと一緒にするな」
酒だあ!!!!
ちびりちびりとゆっくり味わって飲む。美味しい。美味しいよぉ……!
リアルで同じ酒があるかわかんないけどとにかく美味しい。待てを延々とさせられたあとの一杯は格別の上を行く。
折れ欠けていた精神が急速に修復されるのを感じる。やっぱりこのゲームで良かった。このアバターでは酩酊するほどの量ではないみたいだが、美味しい、酒、だ!!
一滴も逃さないと最後まで飲み干して、深く深く息を吐きだす。
「靴でもなんでも舐めますのでもう一杯ください」
「さっさと世界修復せい」
拒否されたうえに虫を見るような視線をいただきました。
飲めてよかったね
ちなみに酒精の高いベリー系の味