101. クエスト分割
「アナタ!! もっと聞くことあるでしょうが!!」
「欲望に忠実になりすぎました」
「キィィ!! アタシだって紅のこと聞きたいわよっ!」
お前もか。
顔を突き合わせていると耳に笑い声が響いてくる。引き笑いのような特徴的な声は、メンバーのものではない。バーミリヲンのものだ。
「ぬしらおもろいのぉ! 愉快じゃ。今のは数えんから相談して決めるとええ」
「では酒の作り方を……!」
「相談して決めろって言われたわよねぇ!?!?」
今度はアイアンクローが襲ってきた。ギブギブとリーナの腕を叩いて外させる。
「ごめんごめん。冗談だって」
「何割?」
「三割くらいかな」
「半分以上本気じゃない!!」
そんなじゃれあいを交えつつ、レラとエドも加えて真面目に相談する。いくつか意見は出たが、まずは順当にクエスト内容の確認が良いだろうと落ち着いた。
念の為それぞれウィンドウを開いてクエスト文章を確認しておく。
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【滄海遺珠の杜からの招待】
陸の孤島となった場所で、バーミリヲンが孤立している。使い魔とともにゲートを潜り、バーミリヲンを救出せよ。
受注時推奨スキル:
調薬・水魔法・土魔法・栽培
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「クエストって言っても通じるのよね?」
「渡り人が神々から受けるしれいってやつだろ? みんな知ってるぞ!」
ちなみにギルドや住民からのクエストは、この世界の住民的には「依頼」と変換されているらしい。プレイヤー的には違いがないんだけど、世界観的にはちゃんと違ってるんだな。
「コホン。では改めてお伺いするわ。アタシ達はクエスト――神々からの指令によって孤立したアナタを救出するように、と言われているの。先ほど侵食が激しいだとか零していたけれど、アタシ達はその、アレ? とやらを退ければいいのかしら?」
ここで退治と言わないのがリーナである。敵キャラ懐柔ルート好きだもんな。まずはお話し合い(物理)から初めましょうがいつものパターン。ちなみに私も燃える。敵がこちらに堕ちてくるのって良いよね!
「違うのぉ。そもそもアレは今の主らではどうにも出来んじゃろうて。そうじゃな、神の意志に沿うのは多少シャクじゃが、望まれているのはわらわと今の外界……世界との繋がりを復活させることじゃろう。まあ、具体的に言うならこの離れ小島とストゥーデフとの間に地面を作れということじゃな!」
「「「待って(ください)????」」」
思わずエドを除いた三人でハモってしまった。
「地面、地面ですと? どうやって作れと?」
「そこはホレ、なんぞ彼奴等から渡された仕組みあるじゃろ?」
「あ、ありましたっけ……?」
「心当たり無いわよぉ!」
「まあ気づいておらんだけじゃろ。わらわ的にはこのまま離れ小島でもええんじゃがのぅ……お外でとうない」
『引き籠もりも大概にしろ。流石にこの状態でお前のみの意思は通らん』
アブチロンが呆れたようにツッコミを入れたが、バーミリヲン、なんと引き籠もりらしい。ちょっと風向きが変わってきましたが?
「では次はわらわからじゃの。中央交易区とはなんじゃ?」
「えっと、世界の中心で残っている部分? でしょうか」
「そうね。クルトゥテラが管理している、三国間で情報共有やら連携を行う場を集約させたところと聞いているわ。各国のギルドやユニオンの本部があったり、残った知識の保管場所だったり……アタシ達も全てを知っているわけではないけれど、大崩落の後、住人が唯一他の国と交流を持てるところ、らしいわ」
「ほー、そんな事になっとるんか」
「神々から現状を聞いていたのではなくて?」
「崩落状況や対応でのやり取りが主だったからの。落ち着いた頃にはほぼ交信も途絶えておったし、その後整備が進んだんじゃろうの。お茶のおかわりいるかえ?」
「貰います!」
丁度カラになったこちらのカップに目を留めて提案してくれるバーミリヲンへの好感度が留まることを知らないっ! いやバーミリヲンからの好感度をあげろって感じかもしれないが、別にこのゲームは恋愛シミュではない。住人との円滑な交流には必要だけどね。自分を曲げてまでやるようなものではないのだ。気の合う人と仲良くなれれば良いのである。
「次の質問だけれど……」
リーナが口を開き、こちらをチラリと見る。事前打ち合わせ通りおまかせするわとジェスチャーで返して、新たに淹れてもらったお茶を口に含んだ。美味い。飲みすぎてもトイレは近くならないのでありがたいね。
私達が先程相談した質問内容は、クエストの達成条件の確定。それが出来たら報酬の確認。
このクエスト、報酬が載っていないのである。
まあかなり世界的な設定やなんやら話してくれるし、重要なNPCとの友誼を結ぶのが報酬!と言われたら仕方ないが、プレイ的にそんなことはないだろう。
クエストの達成条件が地面を作ってつなげる、とかいう壮大なものお出しされたわけですし……クリアできるんかこれ?
「地面のつなげ方は追々調べるとして……他に手伝えることはないのかしら? 使い魔が居なくなったってことは人手が無いんじゃない?」
お、達成条件の分割が出来るかのチャレンジか。いいね。
このゲーム、自由度の高さは他に類を見ないので、依頼人と合意が取れればクエストの条件が更新されることがままある。
同じクエスト受注しても、クリアルートやフラグも色々あるらしくて、それが判明したとき検証班が頭を抱えて発狂したのは割と有名。掲示板をチラ見しかしない私でも知っているくらいだ。
軽い気持ちで検証班に入った人はすでに淘汰され、現在は選りすぐりのドMの巣窟だというのは周知の事実。繰り返し受注可能なクエストを何度も受けていくので、ギルドやユニオンからの好感度は高いらしい。お陰でケトゥンから押し付けられる件数も減ったので、私の好感度も実は高い。ありがとう君たちの犠牲によって楽ができた。
……ちなみになんでかモルトも一緒に行動することが多いらしいけど、本人は検証班ではないと言い切っている。もう諦めちまえよ。
「そうじゃの……正直、地面なんぞより薬草園の維持を手伝ってほしいの」
『こら』
「いうてアブチロン。もはやわらわの園にしかない種もあるじゃろ? 立派な貢献ではないか。この者らに運んでもらえれば外界との繋がりにもなろうて」
『それで全てが代替されるわけではない。まあ、その行為自体は歓迎すべきではあるが』
< クエストが更新されました >
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【滄海遺珠の杜からの招待】
陸の孤島となった場所で、バーミリヲンが孤立している。使い魔とともにゲートを潜り、バーミリヲンを救出せよ。
受注時推奨スキル:
調薬・水魔法・土魔法・栽培
『マイルストーン < 薬草園 >』
・薬草園の整備
・収穫と保管
・中央交易区への連絡
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「他にも、調合なんぞも手伝ってほしいのぉ。素材のままよりやはり効果が段違いじゃからの」
< クエストが更新されました >
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【滄海遺珠の杜からの招待】
陸の孤島となった場所で、バーミリヲンが孤立している。使い魔とともにゲートを潜り、バーミリヲンを救出せよ。
受注時推奨スキル:
調薬・水魔法・土魔法・栽培
『マイルストーン < 薬草園 >』
・薬草園の整備
・収穫と保管
・中央交易区への連絡
『マイルストーン < 調合 >』
・レシピの習得
・機材の心得
・規定品質、規定数のバーミリヲンへの納品
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「見込みのあるものが居たならわらわの錬金術も伝授してやろうぞ」
『お前が楽をしたいだけだろうが。手が増えるのは助かるが』
< クエスト派生が行われました。重要クエストにつき全渡り人へ情報共有が行えます。情報を共有しますか? >
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【職業クエスト:錬金術師への第一歩】
バーミリヲンのお眼鏡に叶おう
受注時推奨スキル:
調薬
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