THE HAPPEN’s‐3‐
「よし、なかなかいいんじゃないかな?」
2人の練習を開始して、早くも1か月が経過しようとしていた。とにかく夢中で演り続けていたから、時間があっという間に過ぎていった。きっと今まで生きている中で一番といっていいほど充実している。ずっとこんな時間が続いてほしいと願うばかりだ。
「うん、何より弾いててすごく楽しいよ」
「俺もまだまだ初心者だし、技術力は他のバンドよりも劣るところが多いと思うけれど何より演奏している自分たちが楽しいのが一番だし、この曲叩いていてすっごくワクワクするからいいな!うん、すごくいい!」
自分で作った曲ながら、なかなかにいい出来だと思う。まだ自身が歌うことに関しては照れてしまうが、ギター1本だけでデモを作った時と比べて、涼汰のドラムのリズムが入ってとても気持ちがいい、自分が丹精込めて作った曲に、第三者の音が加わるとこんなにも嬉しいものとは思わなかった。これは曲を作った者しかこの気持ちは味わえない。この2人の音に達平のベースが加わったら、更に素敵になるんだろうと考えるとワクワクが止まらない。
「でも、どうやってこの音楽を達平に聴かせられるかな?」
「部室に呼べたら1番早いけど、1回断られれているから...難しいかもな...」
「文化祭もまだまだ先だからなぁ」
「うーん......」
「その必要はないよ」
聞き覚えのある声がした。振り返ると入口に達平が立っていた。
「あ...なんで...?」
「クラスの女の子たちが軽音部が出来たらしいって噂していて、こっそり見に行ったんだ。そうしたら2人が楽しそうに演奏しているのが見えて...。素直に嗚呼楽しそうだなって、羨ましいなって思ったんだ。僕は、バンドをしてもいつかは解散が来ることを考えると、バンドをするのが怖い。でも、いつか来る怖さよりも、今この2人とバンドを組む機会を逃すことが怖いと思ったんだ。だから僕でよかったらベース担当で加入させてください」
ただただ嬉しかった。2人で楽しくしていた音楽が誰かに届いていた。その事実が嬉しい。
「もちろんだよ!!ちょっとびっくりしちゃったけど...嬉しい!ありがとう達平!」
「本当に俺も嬉しい...。ありがとう」
夢が一気に加速していく。夢幻じゃない本当に現実に起こっていることなんだ。