THE HAPPEN’s‐2‐
《達平 side》
「なんかさー、軽音部できたらしいよ」
「そうなの?かっこいいねー、言われてみれば放課後ドラムっぽい音とか聞こえるなーって思った」
「西棟でやってるらしいよ、あんまり生徒も通らないし軽音部あるって全然気づかなかったよ」
クラスの女子たちの会話が聞こえてきた。軽音部?新入生向けの部活動紹介にはなかったはずだ。もしあるなら見落とすわけがない。いったい誰が...
僕も中学の時は運よく軽音部があったもんだから入部した。同じタイミングで入部した同級生で組まされたけど、その割にはメンバー同士気が合った。放課後の時間だけでは物足りず、参考書代と言って貰ったお小遣いをスタジオ代に回した。時間があれば練習、勉強の合間に練習、ご飯を食べたら練習。中学校生活のほとんどをバンドに費やした自信がある。
だからこそ、バンドは尊いものだったし何よりも大事な宝物だった。あんなに簡単に無くなるものだとは思っていなかった。時はかなり残酷だ。もう、今の僕には何もない、何も見えない、何も感じない。ただ、もう失いたくない、こんなに絶望するくらいならもう...バンドなんてしなくていい。
ひっそりと出来ていた軽音部、ちょっと覗くだけならいいだろうか。中学で燃え尽きてしまったのか、もう高校は何もやる気が出ないから、どこにも入部する気にはならなかった。でも、バンドや音楽が嫌いになったわけではない、見るだけ、それで満足しよう。
西棟に近づくと、ドラムとギターの音が聞こえてきた。ルーツミュージックを知っている人のテンポ感。ただのかっこつけで始めたようなバンドではないようだ。気づかれないようにそっとドアを開ける。
「あ......」
「うわー!ごめん!ちょっとミスった!!もう1回ここからやっていい?」
「もちろん、俺もこの部分から先がちょっと自信ないから」
楽しそうに演奏していた2人は、この前僕を誘ってくれた人達だ。涼汰くんは近所で知ってて、何度か僕の中学のバンドのライブも見に来てくれていた。もう1人のギターの人は、この前が初めてだったけどおとなしそうな人だなっていう印象だった。
「よぉし仕切り直しだ!!ワンツースリーフォー」
鳴り響いた音に、僕の目の前が拓けた気がした。決して技術が高い演奏ではない、時々リズムがズレたり、コードが外れたりしている時もある。でも、何かが震えた。心か、身体か...わからないけど。技術力の高さが音楽の全てではないことを僕は知っている。あぁ...いいな。
僕も、この人たちとならまた音を鳴らすことが出来るかもしれない