デイドリーム・シンドローム-4-
「え...」
涼汰の顔が困惑しているのがすぐに分かった。恐らく断られると思っていなかったのだろう。
「なんで...?中学校の時、バンド楽しいって。ずっと続けていきたいって、そう言っていたじゃんか」
「...だからだよ。とにかく僕はもうバンドを誰とも組む気はないから。せっかく誘ってもらって悪いけど、他を当たって」
達平くんはそう言って教室の中に戻って行ってしまった。
「ごめん、奏。ベーシスト探しは振り出しになっちゃったよ...」
明らかに落ち込んでいる。どうやら涼汰は感情がすぐに表に出るタイプのようだ。
「気にしないで、そんなに順調に進まないよ」
「うん...でも、達平のベースかっこいいんだ。バンドを組むなら達平がベースじゃないと嫌だ。奏と、達平と俺でバンドがしたいんだ。諦められない。達平だって奏の歌詞見たらベース弾きたくなるよ」
「俺は...達平くんとも今初めて会ったし、彼のベースも聴いたことがないから...何とも言えないけれど...きっと涼汰がそう言うのなら、それが間違いないんだって思う」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ。あーーー、諦めきれない!!どうやったら達平に入るって言ってもらえるかな」
難しい課題だ。生まれてこの方、他人を上手に説得するということをしたことがない。何せ、今まであまり他人と関わらずに...というよりも関わってもらえずに、今日という日まで生きてきた。頑なに色々と拒んできた立場だ。この場合、一体どんな言葉や態度で他人を変えることができるのだろう?
「...あのさ、何で達平くんはバンドが楽しかったのに、もうしたくないって思うようになったんだろう?」
「んー...確か、達平が中2で、俺が中3だったかな。塾の帰りにバッタリ会ってさ。その時、達平はライブハウスからの帰りでベース背負ってた。小学校以来だったけど、話が盛り上がったのを覚えている。あの時のバンドが楽しいって言っていた達平の笑顔は眩しかった。その時、俺もバンドがしたいって思ったんだ。こんなに良い笑顔が出てくるバンド活動ってどんなにすごいんだろうって。だから、正直バンドはもうやらないって言われてショックだった」
「すごく楽しかったのにやめてしまった...中学校の時活動していたバンドはなんでやめたんだろう」
「受験終わってからは俺もライブハウスにライブ見に行ってて、達平のバンドもその時に見てたりしてたんだ。だけど、パッタリ見なくなって...。他のバンドの人に聞いてみたら、卒業を機に解散したらしいって聞いた」
バンドの解散が珍しいことではないということが知っている。今までの音楽の歴史上、多くのバンドが活躍し、栄光を掴み、解散をして、また新たなバンドが生まれ、新たなムーヴメントができる。この音楽の系譜を繋いでいくことが、これから音楽人として生きていくときに必要なことだと思っている。
「もしかして...」
「あのさ、涼汰。俺に考えがあるんだけど」