デイドリーム・シンドローム-2-
授業は退屈だ。成績は至って平凡。ただ、この時間に一体何曲聴くことができるか、つい考えてしまう。板書を写しながら、ノートの下にもう一冊ノートを敷いて歌詞を書いている。中学生の頃から歌詞を書き始めた。何となく自分でも書きたくなって、上手く会話が出来ない代わりに歌詞には思想をふんだんに注ぎ込んだ。だから、人に見せるのは中々恥ずかしい。自己満足と言ってしまえばそれまでだが、この歌詞が他人に響くのかどうか考えてしまうと怖くなり、とてもじゃないが表に出すのは難しく感じる。
季節は夏に近づいていた。
「奏!ちょっとノート見して」
涼汰とは席が前後だったこともあり、人並みに会話できるようになった。彼が都度話しかけてくれているおかげだ。幼少期からダンスを習っており、音楽もそれなりに詳しかった。色んな音楽の話ができたこともとても嬉しかった。
ノートを渡す。渡す瞬間に歌詞のノートを閉じる。
「んっ?そのノート何?」
「これは自学用だよ」
「自学用?偉すぎ!そっちも分かりやすく書いてるんだろう~?ちょっと見せてっ」
「あっ」
涼汰から素早くノートを取り上げられてしまった。俊敏さも彼には勝てない。
「これ...」
ノートを開いた彼の動きが止まった。恥ずかしくて目を合わせられない。時間がとても重たく感じる。
「こら!そこ、授業に集中しろ!」
先生がこちらを向いて注意した。涼汰は歌詞ノートを返し、黒板に視線を戻した。
チャイムが鳴り、休憩時間になる。普段は涼汰が話しかけてくるのだが、なんだか気まずい。歌詞を見られることは、自分自身にとっては何よりも恥ずかしいと思ってしまうことだ。
「...あのさ」
涼汰が振り向き、話しかけてきた。
「うん...見た...よね?」
「すごいよ!!」
予想していない言葉が聞こえてきて、戸惑ってしまった。
「すごい!!これ歌詞だよなぁ!こんな書けるなんて...もっと早く知りたかったよ」
思いもよらない反応に言葉が出てこない。
「なぁ!バンドしない?絶対いいと思うんだ」
その言葉を聞いた瞬間、全ての時間が止まったような気がした。何となく歌詞を書き始めたころからずっと憧れていた言葉。全身が震えた。
今まで止まっていた何かが動き出した。そんな予感がしたんだ――――――――――。