デイドリーム・シンドローム-1-
ロックンロールとは?
誰かは死んだと言い、誰かは生きていると言い、怪物のようだと言う人もいる。目に見えないから、どの言い分が正解かは誰にも分からない。一度聞けば、身体の中のずっと深いところからジワジワと沸き立つ“何か”をいつも感じる。
その正体が何なのか。音を奏で続ければ辿り着けるものなのか、死んでも尚わからないものなのか。音楽という文字には「楽」という言葉があるのにも関わらず、楽しいと思ったり、楽になったりするよりも、苦しみが一層勝る。
「...もうこんな時間か...」
ただ床に寝そべって、両耳にヘッドフォン。レコードの回転が終わり、針が上がる。音が途切れているのに気付き、目が覚めた。カーテンの隙間から日が落ちてきているのが分かる。
「奏ーーー?ご飯冷めちゃうわよーー」
母親の声がする。そういえば今日はまだ何も食べていない。音楽を聴いていると空腹も忘れてしまう。丁寧にレコードを片付けて、食卓に向かう。現実世界に戻っていく感覚がある。レコードを回してヘッドフォンを装着してしまえば、自分の部屋は夢の中のようだ。非現実がそこに確かに生まれていた。
今日から高校2年生。桜はすっかり散ってしまっている。新緑のまぶしさが目に刺さる。出会いの季節とはいうが、人付き合いというものが苦手という自負がある。新しいクラスを確認して、緊張と不安を抱えながら教室に入る。黒板に座席表が張り出されていた、名前順のようだ。周囲は賑やかで、1年生の時から仲が良かった人同士での会話や、コミュニケーションが得意な人を中心にワイワイしている。いつものようにウォークマンを取り出して音楽を聴こうとしていたら、視線を感じた。見上げると、前の席からの視線だと分かった。
「佐々木 奏くん?」
「はい...そうですけど...」
ああ...感じ悪い。せっかく話しかけてもらっているのに、こんな返ししかできない自分が不甲斐ない。
「俺、斎藤 涼汰。よろしく!涼汰でいいから。斎藤さんとかやめてよ~?」
自分とは違う人だ。明るくて壁を感じない。いいなってきっと誰でも思うだろう。生まれ変わったらこんな人になりたいと何度思ったことか。
「うん...よろしく涼汰くん」
新クラス初日、音楽を聴いてやり過ごさずに何とか済んだ。