現実を突きつけられる……(ノД`)・゜・。
「わー、スゴーイ、あなた見て見て、あれ、空飛んでるのなんか魔物か何かじゃない?!」
物件の窓の外から、大きな羽のやつが飛んでいくのが見える!
きっとあれは……モンスターに違いない!
するとケモミミ不動産屋さんが静かに言った。ただのシラサギですと。
……。
そんな私の隣で旦那が真面目な顔。何やるつもり?
すると彼はいきなり空中に手をかざしていった。
「ステータスオープン!」
ちょ、あなた何やってんのと私。一遍やって見たかったんだと彼。
しかし何も起きなかった。
「え? あれ? ステータスオープンしないの?」
旦那はそのあとも必死にステータスオープン、オオオオオオオプゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンと叫んだ。
だが何も起きなかった!(某ゲーム風にどうぞ)
「あのー、一体何をされておられるんですか?」とケモミミ兄さんが不思議そうに尋ねてくる。
いや、あの、異世界につきものの、というか異世界生活ではなくてはならぬ必須イベント(?)じゃないですか!
ステータスオープン!
いやー、見たかったんだよ自分のステータス。どんなふうに出るんだろう。どんな魔法の属性持ってるんだろううぅぅっ、わくわくするよっ。
「何の話ですか?」
盛り上がってる私たちに、ケモミミさんの冷静なお言葉。
へ?
何の話って。
もしかして、話通じてない?
通じてないってことは、
ことは。
私は恐る恐る聞いてみた。ちょうどその、小説家になりてーやってとこから出版された、異世界の本持って来てたから。しかもコミカライズされたやつ! それを片手に熱弁した。ステータスオープンって言うんですよ、そしたらぁと。
するとケモミミさんはそれをぱらぱらとめくり、これまた冷静に言った。
「ああ、たぶんこれ、なんか勘違いされてますね」
はい?
ケモミミ兄ちゃんは持っていた皮の鞄をあけ、ゴソゴソと何かを取り出した。何?
すると出てきたのはスマホサイズの銅板みたいなの!
「え? それは」
「これは、我々の世界では、一人前になったら親から渡されるものです。その子の得意なこと、不得意なことが書かれてあります」
銅板にはなんか文様が刻まれていた。十字架に似てるけど……。
「ようはお守りです」すちゃっ、と鞄にしまい込んで、ケモミミさんは言った「それを貴方方の世界の人が何か勘違いされたのでしょう」
「勘違いって」と夫婦そろって言うと、
「だってこれ、我々はしょっちゅう見ますし。何かに迷った時とか、困った時とか」
ケモミミさん、胸に当てて天を仰ぐ。信心深いんですね……。
「だから、それを見て、何か便利なことをしているんだと勘違いされたんでしょうね」
なりほどね(納得すな)。
とそこで私は思い出した。なにをって?
そりゃあんた、花の冒険者ギルドのことよ! ここに付いたら絶対に登録しようと決めてたのよ!
まさかそれも無いとか?
「ありません」
ケモミミが無情に告げた。
「似たようなのはありますけど、それは日雇いの職業あっせん所ですね。そこでは確かに、仰るように仕事をあっせんしていますが、パーティなるものを組んで行動してるような人はいませんよ」
ガラガラガラ(私の夢が壊れていく音)。
何のためにきたのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉと。
私も夫も天に向かって吠えた。
それから数時間後。
私はケモミミさんの車――実はある。こっちの世界とは形はかなり異なりますが――に乗っけてもらって、村役場に。
ガタガタ揺れる田舎道。行き過ぎる人がよくきなすったー、と手を振ってくれる。
人間の手の時もあるし、蹄の時もある(汗)。
まーそこは、確かに異世界だ。
「役場に登録したら、そのあとは村長さんの家に行きまして御挨拶をします」
うんうん、挨拶ね。
しかし異世界の村長さん。なんか緊張してきた。どんな人?
人じゃないカモ。
「元、王様の騎士団の団長をお勤めになったとかで、今は引退されておられるとか」
うわー、なんか格式高そうな人……。
「いやいやそんなことはないですよ。ちょっと不愛想ですが、それはドワーフたちの特徴ですから」
へ?なんなのそれ。
「小人族です。彼らは朴訥な人が多いんです。それで気難しいなんて思われてしまう時もあるみたいですね」
なりほどね。
なんて話をしていたら、ちょっと開けたところに出た。建物がたくさん集まってるのが見える。ケモミミ不動産屋さんの話だと、雑貨屋とか宿屋とか役場とか、その他もろもろがここに全部集まってるのだそうだ。
そのまま役場にて不動産登録。で、ここでまたひと悶着。
ケモミミさんに文字を教えてもらったんだけど、ミミズがのたくったような文字でなかなか覚えられないのよね。
コツさえつかめば簡単ですよと言われたがっっ。
で、厄介なことに、ちょっとでも書き間違ってると書類をつっかえされる。
ゼイゼイ言いつつやっと書けて提出。すると、私達が買った土地の公文書を捜すのに小一時間。
少々お待ちくださいって言葉もない。
何なのコレとケモミミさんを見るとのんびり構えてる……。
で、やっとそれが見つかって、やれやれと思っていたら……。
キーンコーンカーンと鐘の音が。
何何何と思ったら、役場の窓口が閉まった!
何が起きたとケモさんに聞くと、「お昼です」とのこと。
え?
だっていま、公文書見つかって、私らの書いた書類にハンコ押したらそれで手続き終わるじゃないのよ!
それくらいやってくれたっていいジャン何で昼以降にもちこむの?
するとなんとケモミミさんも、お昼行ってきまーすと言ってさっさと役場を出て行った。
ちなみにこれは、べつにココだけじゃなく。
異世界では当たり前のようで。
つまり、
「時間外労働は絶対しない主義ってことですな」と旦那が苦笑いしていた。
で、無事に手続きが終わって、異世界のお家に戻った私達。
改めてお家を見る。部屋数多い。二人が使う主寝室をのぞいても五つくらいある。
しかも家具付き。前の人が使い込んでたらしく、アンティークっぽい雰囲気があってそれが("・∀・)イイ!!。
宿屋なんかいいよねとその時の私はぼんやり考えてた。
とりあえずその日は契約だけ済ませ、ご挨拶はまた後日にってことで、元の世界、つまり日本の自分の家に戻ることにした。
だってだいぶ遅くなってしまったからさ。
たかが手続きに一日かかると思わんかったわ!
ああ。でも。
冒険者ギルド。登録したかったな……。