#5
放課後の帰り道、ランドセルを背負って通学路を歩く彪太郎の背中が寂しく見える。
「何が超人だ、こんなもの・・・・・・」
手にしていた超人アスリート列伝を電柱そばのゴミ置き場に放り投げた。
「捨てちゃうの? この本・・・・・・」
ふと、彪太郎の背後から声を掛けられた。彼はハッとして振り返ると、そこには美嬉がいて先程自分が捨てた本を開いて読んでいた。
「へぇ・・・・・・難しい漢字ばっかり。もう、こんな本も読めるんだ。夏輝君」
「ひ、姫野さん・・・・・・⁉」
彪太郎に微笑む彼女に意表を突かれて驚いた。
「今度の持久走大会に向けて、練習してたんだね。偉いわ」
「ち、違うよ! 練習だなんて、地味で土臭くてできないって」
彼女の言葉に、彪太郎は体育の時間の事を思い出して恥ずかしくなった。
しかし、美嬉はそんな彪太郎を包み込むような笑顔を向けて本を差し出した。
「フフフ・・・・・・そっか。途中で諦めないでね、夏輝君。地味でも、いいじゃない・・・・・・最後まで、目標に向かって頑張ってね」
「姫野さん・・・・・・」
彪太郎は真顔で美嬉を見つめた。
「ひ、姫野さん! ぼ、僕・・・・・・」
すると美嬉は急に悲しそうに俯いた。
「夏輝君、私ね・・・・・・来月、外国に引っ越すんだ」
「・・・・・・!! えっ!?」
予期しなかった告白に彪太郎は凍り付いた。
「・・・・・・だからね、私も悔いが残らないように、少しでも長くクラスの皆と話していたくて。迷惑、だったかな?」
「そ、そんな・・・・・・」
美嬉の話も正直耳に入ってこず、ただただショックで呆然とする彪太郎。
「美嬉ぃ~!」
背後から彼女を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると冴子と金光が見えた。駆け寄って来る冴子に、美嬉は先程までの悲し気な表情を隠して平静を装う。
「あ、冴子ぉ。あれ、金光君も一緒?」
冴子は金光の腕に恋人のように組み付く。
「ヘヘ、帰る途中に誘われちゃった。あれ、夏輝もいたんだ」
金光は彪太郎が持っている書籍に目をやる。
「なんだ? その本」
「いや、これは・・・・・・」
「あ~、知ってる、ソレ。いろんなスポーツの練習方法が書いてあるやつでしょ? って、夏輝。あんたそれ見て特訓でもしてたの?」
冴子がニヤニヤしながら書籍を指差す。彪太郎は咄嗟にそれを背中に隠した。
「ち、違うよ!」
「へぇ~、陰で努力してるんだ。ま、俺はそんなもの読む必要ないけどな」
焦る彪太郎に、金光が皮肉たっぷりな表情を浮かべて鼻で笑った。
「金光君は天才だもん。ねー、美嬉も一緒に帰ろう」
「え? う、うん・・・・・・。じゃあ、またね、夏輝君」
冴子に手を引かれて少し困った様子で去って行く美嬉。
美嬉が彪太郎を気にするように振り返ると、彪太郎は寂しそうに俯いていた。