#2
『彪太郎がフワフワと夢遊しているようだ。小学校の校庭の真ん中には、ワンピース姿の女の子が立っているのが見える。ポニーテイルが可愛く温容な雰囲気の美少女、美嬉。小学五年生で彪太郎の同級生だ。
「彪太郎くん・・・・・・私、ずっと彪太郎くんの事が」
頬を赤くする彼女に寝間着姿の彪太郎はゴクリと息を呑む。潤んだ唇に目が行く。
「なんて、ごめんね」
「え?」
「哀れだねぇ~、お前って奴は。俺の目を盗んで隠し事か~?」
体操着姿の同級生、金光が彪太郎の背後にふいに現れて言った。
彪太郎が金光の声に振り返ったその瞬間、
「カーーーーーツッ‼」
と金光が鋭く眼を見開いて叫ぶ。すると彪太郎の足元に黒い渦が発生し、
「・・・・・・!? 嘘ぉー!!」
彪太郎はそのまま奈落の底に吸い込まれていった。』
バッと勢いよく跳ね起きる彪太郎。
「うわっ! ゆ、夢・・・・・・か?」
呼吸を乱しながら酷い寝汗で寝間着がじっとりと湿っていた。
外はまだ薄暗く、風鈴が格子窓の脇で涼しげにちりんと鳴った。
早朝の静けさとは裏腹に、蝉が五月蝿く鳴き始め出す。
蝉の眼には和風の門が反射して映り込み、表札には『夏輝』と掛かっていた。
「いってきまーす!」
元気な挨拶と共に、青色チェック柄の制服を着た彪太郎が勢いよく門を開いて走り出す。
驚いた蝉がジジッと鳴いて空を飛ぶ。電柱が連なる通りを過ぎて、大きな校舎の小学校が見えた。『ひまり小学校』と表記された校門・・・・・・蝉は校舎裏の山に向かって飛び去っていった。