#10
彪太郎は依然として倒れ伏せていた。絆三は彪太郎のもとへ駆け寄り声を掛ける。
『怪我はしてないか!? 立てるか、彪太郎!?』
「もう、ダメだよ・・・・・・勝てないよ」
俯く彪太郎は震える声だった。
『彪太郎・・・・・・』
「結局、僕は何にも・・・・・・」
彪太郎は悔しそうに拳を握り締める。そんな彼の拳に絆三が優しく手を置く。
『彪太郎。勝つ事だけが、カッコ良いんじゃない。最後まで、想いを貫くんだ』
「えっ・・・・・・?」
涙を滲ませる彪太郎が見上げると、そこには、
『我輩は、そう教わった』
二カッと笑顔を見せる絆三がいた。彼の笑顔が輝いて見えた。絆三の後ろに自分を心配そうに見つめる美嬉の姿が見える。
「想いを、貫く・・・・・・」
彪太郎は美嬉を見つめ、赤く滲む頬の擦り傷を腕で拭う。
「・・・・・・そうだ、姫野さんにとって、これが最後の思い出になるんだ」
彪太郎は渾身の力を振り絞って立ち上がった。
(あの日、笑顔で本を手渡してくれた姫野さん)
『フフフ・・・・・・そっか。途中で諦めないで、夏輝君。地味でも、いいじゃない』
(あの日、諦めかけていた自分に勇気をくれた)
『最後まで、目標に向かって頑張ってね』
彪太郎が唇を噛み締める。
(ここで諦めたら、姫野さんの想いを・・・・・・)
『彪太郎!』
絆三の声に、彪太郎は前をグッと見つめた。
(今の僕にできる事を・・・・・・うっ)
蓄積された疲労、本来ならとうに限界を迎えていた彪太郎の身体。彪太郎はぐらりと体勢を崩してしまう。
その瞬間、彪太郎に手が差し伸べられる。その手の相手に絆三が驚いた。
『お、おヌシ!?』
彪太郎は金光に支えられて驚き困惑した。
「か、金光クン!?」
金光は目を逸らしたまま、ぶっきらぼうに呟く。
「あ、アクシデントは・・・・・・付き物だ。すまなかった・・・・・・彪太郎」
金光は彪太郎の肩を背負って歩き出す。その間にも、二、三人の走者が次々と彼らを追い抜いて行った。それでも彪太郎は金光に支えられながら、小さく見えるゴールの校門へ向かってゆっくりと歩いて行く。
「金光君・・・・・・」
冴子は金光を見つめ、その光景に涙を浮かべていた。美嬉はそんな冴子の肩を抱き寄せる。
「冴子・・・・・・良かったね」
「・・・・・・うん!」
彪太郎と金光がゴールに向かって歩く。あと少しだ。一歩、一歩、確実に足を踏み出す。
そして、二人が同時にゴールテープを切った。それと同時に沸き起こる拍手と歓声。彪太郎と金光は顔を見合わせて微笑み合った。
勢いよく駆け付けて彪太郎に飛びつく絆三。
『よく走りきったぞぉ、彪太郎!』
「金光君も」
嬉しそうな顔で彪太郎が金光を見る。
「か、勘違いするな。俺は、ただ・・・・・・」
彪太郎の真っすぐで喜びに満ちた瞳に、気恥ずかしそうに目を逸らす金光。
美嬉が笑顔の彪太郎を見つめながら涙を拭った。
「夏輝君、ありがとう―――」
美嬉の可愛らしい笑顔が夏の空に輝いた。
季節はすっかり秋で、広葉樹が色づき、紅葉が赤く染まっている。
ひまり小学校五年二組の教室には、窓際の席から外を眺める彪太郎がいた。窓の外にはどこまでも青く澄んだ空を飛んでいる飛行機が見えた。
(姫野さん、元気にしているかな?)
『一生に一度限りの、一期一会の縁』
「え?」
突然の声にハッと我に返る彪太郎。すると絆三が窓の外からひょっこり顔を出して、
『でも、その縁は、想いの分だけ繋がる事だってできるのだぞ』
背中をゴソゴソとまさぐる。そして彪太郎に手紙を差し出した。
『美嬉ちゃんからだぞ、ホレ』
「ええっ!? は、絆三、どうして!」
彪太郎は美嬉からの思いがけない手紙に驚く。
『どうしてって? そりゃあ、我輩は、飛脚の黒彪だからさ』
あの日と同じ、二カッと満面の笑顔で笑う絆三がいた―――。
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