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8 ミイちゃん大好き(領主SIDE)


 領主邸には、多くの苦情が来ていた。

失踪した調教師の親族による捜索願は数十件に上るが、一切の痕跡がないのだ。

調査は、一向に進まず、親族の不満は爆発寸前だった。

また、街の散歩で出くわした妊婦が産気づき早産になった。

街でペット(主に犬猫)を飼っている家庭では、ミイちゃんが通ると狂ったように暴れだし逃げながら気絶する。その後は、一日中ふるえ、飯も食べず衰弱するという苦情だ。


領主は、妻が飼っているペットが問題だと今頃になって気づくボンクラ領主だった。

「おい、お前の飼っている犬のせいで苦情がきてるぞ」


「あら、皆さん幸運の犬と呼んでおりますのよ。きっとミイちゃんがかわいいのを妬んで苦情をだしているのよ」


訝しんだ領主ではあったが、妻は、爵位の高い貴族から嫁いできた。

また、社交界でも美人として名をはせた存在である。

それよりもなによりも彼は彼女を愛していた。


そんな彼を選んでくれた彼女を疑うなど悪魔に魂を売るのと同じことだった。


「犬の調教師が失踪している件で苦情がきているんだが」

「ええ、わたくしも困っておりますの。勝手に居なくなるんでございますのよ。その苦情を出した方々に、わたくしの方が苦情を出したいくらいですわ!!」


「お前の犬のせいで早産になった話はどうするんだ。」

「ミイちゃんは産婆クラブと提携しておりますことはご存じかしら、

難産だったり逆子だったりすると緊急でお呼ばれ致しますのよ

ガウと一声するだけで赤ちゃんがあっと言う間に自分から這い出てきますのよ。

お産で命を落とす女性は沢山おりますが、ミイちゃんのおかげで助かった命は数十人になりますの。そこに感謝状が沢山掛けてありますでしょ」


「じゃあ ペットが衰弱するのは」

「ミイちゃんのお散歩コースは、食品市場、お肉屋さん、お魚屋さん、ステーキ屋さん、干物屋さん、レストランなど散歩してくださいと強い要請があったところを回っていますの。決して勝手に散歩してはおりませんですわ。

皆様から沢山のおやつを頂きますのよ。我が家で出てくるおやつはほとんどミイちゃんが稼いでますの。この前のチーズタルト美味しい美味しいって仰っておりましたでしょう。

皆さまミイちゃんが通ると「聖水を聖水をお恵み下さい」ってお祈りしておりますの。

なぜか猫も虫も1週間半径100Mは寄り付かなくると仰ってましたわ。」


こう聞くとなんと優秀な聖犬だろうと思わざる負えない。


「わかったから、その犬を見せてくれぬか」

犬舎に向かうと30M四方はある大きな折があった。

「奥よ、なぜ鉄柵の棒が直径10cmもあるのに、10Mも外から見なければならないのだ?」

「10cmの棒なんてミイちゃんが撫でるだけで飴細工のように曲がってしまいますわ。

調教師が言うには、10M以内だとお食事と間違って一瞬で丸呑みされるそうよ。

私はナデナデしても平気だけど貴方を餌と勘違いするかも知れないでしょう。」


ちょっと冷や汗がたらーんと垂れる領主だった。


「これは、ホワイトタイガーウルフだと思うのだが、体高3M,体調6Mはあるし、普通のホワイトタイガーウルフよりちょっと大きいな。犬には見えんぞ」

「違いますわ!良―く額をご覧あそばせ、角が生えておりますでしょ。ホワイトタイガーウルフに角はございませんのよ。おーほっほっほ」


ちょっと待て、これは図鑑で見たことがある。キングホワイトタイガーウルフだ。キングが付くと2階級上がりB級からS級になる。飢えるとSS級と言われる災害級モンスターだぞ。

本気で吠えれば周りの人間、魔物はその威圧で気絶する。C級以下のモンスター、レベル50以下の人間はそのまま死に絶える。小さく吠えても生まれる前の胎児だって逃げ出すと言われている。


この街の全兵力で相手の隙をついて襲っても1分以内に全滅するだろう。

皮膚はアダマンタイトの槍でも傷もつかず、前足を横に一振りすれば30M先まで4分割される。ミスリルなど紙と同じだ。

機嫌を損ねて暴れられたら、街は一瞬で壊滅するレベルだ。


下腹部が温かくなりジョーーーーとお漏らししている自分に気が付いた。

執務室に戻り服を着替えると、調査に当たったものが、衛兵長を連れてきた。

「入れ」

「はは」

「昨今の調査で衛兵長から嘆願があるそうなので連れてまいりました。」

「領主様、ミイ様は聖獣でございます。このザッカーの街でミイ様の恩恵に与るものが殆どでございます。ミイ様の御蔭で成り立っていると言っても過言ではありません。

ミイ様の聖遺物を足に付け主要街道5kmを朝交代で衛兵が走っています。

そのお陰で街道に魔物は居りません。商人はザッカーの街を王国一の安全地帯と呼び

国内全土からの要衝の街として賑わっております。

薬草採取の冒険者、野草、木の実を取るものも魔物と出会うこともなく安全に暮らしております。レストラン、食堂、市場など王国一衛生管理が行き届き、出生率も一二を争うレベルでございます。」


これ聞いちゃったら処分なんてあり得ないよね。と思うが当然もろ刃の剣である。

元々処分できないけど。


どうしようかと考えていたら、奥さんが執務室に現れた。

「ミイちゃんなんだけど、不思議なのよね、1月に一度肉屋さんがお休みになるのだけど、お散歩も大変だからお休みにして断食させるの。クウーンクウーンて舐めてくるのだけど、躾だからミイちゃんが太っちゃうよってお鼻をペシペシ叩くのだけど小さく丸くなっちゃうのよ。かわいいでしょ。

そのころ調教師を見かけなくなるのよねー

その時に口の周りが赤いから血でも吐いたと思うのよ、いつも同じお肉ばっかり食べてるでしょ。ちょっと心配なのよね。あ、きっと何か呪いでもかかっていると思って怖くて出て行ってしまうのだわ」

領主は、思った。


それだー!!!!と


ボンクラ領主は、珍しく即実行に移した。

まず、ミイちゃんの犬舎に冷蔵庫を設置した。お肉が絶対途切れないように1か月分をストックするようにした(2日で牛一頭なので15頭分を冷凍した。冷凍は毎日二人の魔法師に管理させた)。

次にホワイトタイガーウルフの生態を調べ大好きな ラウチの実、ギザの実を常時食べられるように置いた。


妻にダイエットは禁止と厳重注意し必ず守るよう厳命した。(本当は膝をついてOK貰えるまでお願いした。街の皆には内緒だよ)


失踪した調教師の関係者には、手厚―い手厚―い見舞金を渡し口止めをした。皆ニコニコ顔だった。


ペットの怯えには、泥棒猫、狂犬と勝手にでっち上げ、今後問題にするとしょっ引くぞ!と脅した。(領主は、クズだった)


その後、調教師が失踪する事件は無くなった。

領主は、色艶の良くなったミイちゃんのお腹でモフモフしながら寝ている我妻を10M先から見ていた。

寝言で「ミイちゃん大好き」と聞こえた。


ふふ、と笑みを漏らし一言領主は、「死ぬときは一緒な」とちょっと悲し嬉し顔をしたのだった。



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