ヒロインの下駄箱にトゥーシューズとガチョウを入れたのは私です
灯台下暗しのテンポって、大正デモクラシーに似ているよね……。
探し物をしていると、不意にそんな事を考えてしまった。
そして、次の瞬間、私の頭の中には前世の記憶が蘇った。
この世界は、乙女ゲームの世界……!
『君は踊れないプリマドンナ』
ゲームのタイトルは確かこんな感じだったと思う。
このゲームは、プリマドンナになりたくて金銭面で断念したヒロインのアナスタシアが王立学園に行く。という内容のものだった。
そして、王立学園でさまざまなイベントをこなして、卒業式で悪役令嬢を断罪する。テンプレ中のテンプレの内容の物だ。
私は、その世界の悪役令嬢になってしまったようだ。
「どうしようかね。これ……」
私は困ってしまって独り言つ。
「そうね。ヒロインのために悪役令嬢として頑張ろうかしら」
私はヒロインに嫌がらせをすることにした。悪役令嬢としての役割を果たすために。
だって、私はアナスタシアちゃんのファンだから!
私はまず最初にゲームの進行度を推測することにした。
王立学園の入学式は終わっているので、きっと、私の婚約者の第一王子との運命的な出会いを果たしている筈だ。
ヒロインは入学式に遅れると朝ごはんの焦げかけのトーストを齧り、校門のところで殿下とぶつかるのだ。
そこから、胸がときめいて甘くて苦いママレードのような恋が始まる。
その恋の隠し味が私なのだ!
隠し味といえば嫌がらせだ!
嫌がらせ。といえば、やっぱりトゥーシューズに画鋲だ!
しかし、トゥーシューズ自体がない。誤ってそのトゥーシューズを履いてしまったら彼女が怪我をしてしまう。
だから私は考えた!
「よし、これでよし!」
私はアナスタシアの下駄箱の中に、トゥーシューズと、瀕死寸前のガチョウを入れた。
ガチョウは、口の中に大量の石を詰め込んで、頭をぶん殴って気絶させて捕まえた。
白目で泡を吹いているけれど、真っ白なガチョウなのでアナスタシアでより良い人生になる筈だろう。
さらに、私は『あなたのファンより』とメッセージカードも添えた。
これで、彼女と私の婚約者との関係が深まる筈だ。
それなのに、待てど暮らせど殿下は私との交流をやめない。
そんなある日だった。
「素晴らしいバレリーナが誕生したらしい」
その噂に私は不安を覚えた。
殿下に一緒に観に行こうと誘われて、私はそのバレリーナを見に行くことになった。
チャラリーチャラリラリラー。
音楽と共に現れたのはアナスタシアだ。
彼女は華麗なステップで踊り続ける。
しかし、その姿はどこか異様だった。
目を惹きつけるのは、彼女に群がる無数の……。
「鵜……?」
そう、無数の鵜の首にはロープが括り付けられそれをアナスタシアが握りしめているのだ。
それは、まるで鵜飼いのように。
「げぇえ!!」
鵜が鳴き声を上げながら、大量の飴玉を客席に吐き散らかす。
「前衛的!」
「画期的だ!」
「なんかよくわからん!」
「芸術は根絶だぁ!!」
客達の称賛の声が会場内に響く。
なんなのこれ!?
私は混乱した。
どこをどう間違えたらこんなことになるの!?誰に騙されてこんな意味不明なことをしているのよ!?
「私は、あるファンの方からトゥーシューズを贈られました。今の自分があるのはその人のおかげです!」
踊りを終えて涙ながらに話し出したアナスタシア。
トゥーシューズを贈ったのは私だ。
つまりこうなってしまったのは……。
全て私のせいということなのか!?
「灯台下暗しぃぃ!!」
私は悲鳴をあげてそのまま気絶した。