龍の首
日本列島って、龍に見えません?
昔はそんなこと思ってなかったんですけどね、中学の頃かな?本を読んだんですよ。高校の頃かもしれないけど。たぶん中学だと思うんです。まあ僕には関係ないかな。有名なSF作家の書いた本でした。
日本が地殻変動のどうのこうので海の底に沈んでしまうんですけど、そのなかで、日本列島を龍に例えたようなシーンが出てきたんです。もしかしたらそんなシーンはないかもしれないけど、当時の僕には、あの本を読んでいてそういう印象を受ける描写がありました。そんなわけで、それ以来日本列島が龍に見えるんです。
だからね、いまあっちの方が大変なことになっているでしょう、あの、北海道のあの辺りがめちゃくちゃなことになっていて、ニュースなんかで衛星写真とかを見ると、やっぱり龍に見えるんです。なんでしたっけ?あの……そう、銀河でしたね。スメラギの銀河とかいうでっかい隕石が北海道の持ち手みたいなところに落っこちた写真を見たとき、龍の首に何かよく分からない怪物が噛みついたような、そんな印象を受けました。
ところで、あなたのお子さんもやっぱり行っちゃいました?
……そうですか。それはお気の毒に。14歳ですか。もう少し遅ければ助かったのに、残念です。
僕には子供がいないので、皆さんの気持ちが本当の意味では理解できませんが、それでもやっぱり悲しいですよ。子供はいつだって世界の宝ですからね。ましてや子供がいなくなった世界なんて、発展できなくなってしまう。滅亡するのが決まってしまったようなものなんですから。本当に残念です。本当にね。
僕の知り合いが先週あの隕石に行ったんです。調査隊のメンバーでした。現地は大変らしいですよ。世界中からあの隕石めがけて集まった子供たちが、正確には分からないけど先週の時点で5億?まだまだ増えているから、今はもっといるんですって。そんな子供が、ぼうっとしたうつろな表情でとぼとぼ隕石に向かって歩いていたらしいです。止めても聞かないし、無理に連れ戻そうとすると一斉に襲いかかってくるんですって。知り合いと一緒に調査に行った人はほとんどそれで殺されたんだそうです。危ない仕事だしあまり意味もなかったけど、給料はすごくよかったみたいです。普通に派遣の仕事で行ったんですって。まあ帰ってきてから2日で死にましたけどね。なんでだろう。
どうぞ、これにその時の写真が入っています。あなたのお子さんも写ってるかもしれませんよ。いえ、この目のところを押し込むんです。
……また揺れましたね。最近多くないですか?
ただでさえ訳の分からない隕石に子供が集まっちゃって世界中パニックなのに、そのうえ地震まで大きいのがきたらどうしましょう。
はい、それで、この写真です。隕石から10キロは離れたところから撮影したものなのでちゃんと写ってますが、こんなに離れてもまだ先端が見えないくらい大きいんです。このなかに世界中から集まってきた子供が入ってるんですね。
これ、この後どうなるんだと思います?
15歳以下の子供が世界中からこの隕石目指して集まってきてるわけじゃないですか。そう、ニュースで言ってましたけど、世界中の15歳以下の子供がだいたい20億ちょっとくらいいて、あと何日もしないうちに全員がここに行ってしまうみたいです。その後ですよ。世界中の子供を全員飲み込んだあと、このスメラギの銀河とかいう隕石はどうなるんでしょうね。次は大人?動物はどうなるんでしょう。僕らは?世界中で妊娠中の胎児が母親の子宮から消失しているらしいです。工場の胎児もです。
子供が綺麗さっぱり消えたあとの世界で、僕たち大人はどうなるんでしょう。
また地震だ。
ちょっと大きいですね。姿勢を低くして、頭を守れますか?無理かな、じゃあ机の下に隠れてください。いえ、あなたの方が先です。ああ、ダメですね。警報が鳴っています。家が耐えられないみたいだ。立てますか?こちらへどうぞ、家のなかにいるより外に逃げた方が安全ですよ。
……すごい。見てください、あれ。
あれ、北海道ですよね。
ここは名古屋ですよ。
なぜ空に北海道が浮かんでいるんだろう。すごい、隕石が日本を剥がしてるんだ。
ほら、首に噛みついた銀河が龍を持ち上げて宇宙に飛んでいきます。
はい、もう死ぬんですね。いや残念だなぁ。もっとやりたいこともあったし、どうせ死ぬんなら殺したいやつもいたんですが、今からじゃ間に合いませんね。でも、なんだかどうでもいい気がします。
龍が飛んでいきますよ。
僕たちも一緒です。でも、僕たちはすぐに死んでしまいますね。見えますか?こんなに大きい日本列島ですからね、きっと最後まで一緒には飛べません。世界中のいろんなところにボロボロ落っこちて、たぶんみんな死んじゃうんですよ。
そうか、スメラギの銀河は、子供たちだけを助けにきたんですね。
なんでかなぁ。
大人は助けてくれないんですかね。
悪いことをしすぎたからかな。
知ってます?
工場で作る子供って、エラー品はしょくひ……
※※※
偉大なる皇の手により、我々の祖父母が忌まわしい引力を離れてから500スケール。古い言い方をすれば、まもなく100年。地球の探索はここ10スケールの間に急速に進んだ。
いま諸君に見せたものは、古き地球人類の最後期に利用されていた、人間を模した機械に残されていた記録である。
地球には、まだまだこれと似たような記録が眠っているはずだ。文化的な価値はないが、学術的な価値は非常に高い。現地でこの機械を発見したら、ぜひその頭部ユニット内部にある記録装置を持ち帰ってほしい。
また、いないとは思うが、もし万が一地球人類の生き残りがいた場合は、積極的に破壊するように。
それでは、我々の起源を探るため、皇の偉大な功績を学ぶために、地球へ向かい、探索を開始してくれたまえ。
幸運を祈る。
……意味は分からないが、地球人類にはこう言って誰かを送りだす風習があったようだ。
おしまい