銀の時計と金のネジ
「大変、大変。ねぼうしちゃった」
目を覚ますと、すでにお日様はお空にいます。
ルウはバネ人形のように、ベッドから飛び起きました。
「あああっ、今日はネジをまく日なのに」
ルウはあわてて、時計のネジをさがします。
ベッドの下。タンスの中。引き出しの奥。おふろば。冷蔵庫。
ルウがさがしているのは、時計のネジ。ルウの世界の時計のネジ。
ルウは時計の番人なのです。
いつもは時計の表面のガラスを磨いたり、ゼンマイの部分に油をさしたりしています。
だから、いつも時計はピカピカ。そして、カチカチといい音を響かせています。
時計の番人のルウは、一週間に一度、時計のネジを回します。
だから、いつも時計はちゃんと動いているのです。
今日は時計のネジをまく日。
それなのに、ルウはねぼうしてしまったのです。
「ああ、困ったな。こんなに急いでいる時に限って、ネジがみつからないよぉ」
一週間に一度の、時計のネジを巻く日。
本当なら、もっと早く起きて広場の時計台へ行き、時計のネジをまくのです。
でも、ルウはまだおうちにいます。今頃、時計は止まっているでしょう。
時計が止まったら、時間がわかりません。
だから、ルウは時計のネジをまき直し、時計を動かさないといけません。
だって、ルウは時計の番人なんですから。それがルウの役目なのです。
時計はいつもちゃんと動いてないと、意味がありません。
動いてなければ、ただの置物になってしまいます。
「あれぇ。どこだっけ」
ところが慌てているせいか、時計のネジはなかなか見付かりません。
バタバタと家の中をさがし回っているうち、ルウはいつも自分がどこに時計のネジをしまっているのか、やっと思い出しました。
ルウは大慌てで玄関の方へと走って行きます。
そうです。ルウはいつも、時計のネジを玄関の傘立ての中に入れていたのです。
時計台のネジはとても大きいので、傘立てがちょうどいいのです。
玄関へ行くと、時計のネジはちゃんとありました。
きらきらの金色のネジです。
銀色に輝く時計にピッタリの、とてもきれいなネジ。
青い毛糸のぼうし、黄色のマフラー、赤いてぶくろ。
これで出かける準備はばっちり。
ルウは金色のネジを足下に置き、スケート靴をはきます。
今の季節は冬。それも今年はとてもとても寒い冬なのです。
きっとルウの世界の一番のお年寄りだって、こんなに寒い冬は初めてでしょう。
それくらい、今年の冬は寒いのです。
冬が周りのものすべてを凍らせてしまったので、道も凍ってしまいました。
だから、今年の冬はお池や湖以外でもスケート靴をはく必要があるのです。
ひもをしっかり結び、ルウは立ち上がってネジを胸にしっかりと抱えます。
玄関の扉を開け、ルウは外へとすべりだします。
外は一面の銀世界。見慣れた木々は氷の柱のように立っています。
家々も壁が凍っていて、みんな、白く見えます。
道行く人達は、カラフルなマフラーやてぶくろをして歩いて……いえ、すべっています。
そんな光景を見ながら、いつもより速いスピードでルウは時計台を目指します。
やがて着いたのは、広場にある大きな時計台。
見上げると、ガラスが凍っていつもと違う輝きをしています。
やっぱり針は止まっていました。
凍ってしまっている、というのも原因かも知れません。
「寒いよ、寒いよ。ルウ、何とかしてちょうだい」
いつも銀色の時計が、氷のせいでさらに銀色に光って震えています。
「よしよし。今すぐ、暖かくしてあげるからね」
ルウは時計台の裏からのぼり、時計の裏にある穴へ持って来たネジを突っ込みました。
カリカリカリカリ……
ルウはネジを回します。何度も、何度も。
ネジをまき終わると、ルウは表の方へ行ってガラスを外し、針についている氷をそっと取ります。
すると。
カチカチカチ……
時計の動き始める音が聞こえてきました。
もう大丈夫です。時計はルウのおかげでちゃんと動き始めました。
「ごめんね。ねぼうしちゃった。どれくらい、遅れたかなぁ」
「うーんと、一時間前に止まったよ」
時計に聞いて、ルウはちゃんと時間を合わせました。
さあ、これで全部がもとどおりになりました。
「慌てちゃうと、いつもやってることも忘れちゃうものだね」
ルウはガラスを閉じながら、時計に話しかけます。
「ふふ、おねぼうさん。でも、ちゃんと来てくれてありがとう、ルウ」
時計がお礼を言い、ルウはにっこりほほえむと、
「じゃあね」
と言って、また金のネジを胸に抱えました。
凍った道をすべりながら、ルウはおうちへ帰って行きます。
今度はのんびりと。うたを口ずさみながら……。