掛け合い朗読台本 『暇つぶしに恋 偽物だったのかと振り返る』
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時々、思い出す。
あの夕闇の中、君が泣いていたことは気づいていた。
ボクは自分の価値を知らしめたような勝ち誇った気持ちが半分、少し胸が締めつけられるような想いが半分。
時が経って振り返ってみれば、自分がいかに身勝手に“恋”を謳歌していたかに気づいて狂おしくなるのだけれど、思い上がりに溢れた十代の恋なんて、きっとみんな傲慢で残酷なものなんだと思う。
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女のコは男の子よりも精神的に成熟しているなんて話をよく聞くけど、実際は全然(苦笑)。
アタシの初めての“恋”は、「どうしたいか」よりも、「どうあるべきか」ばかりに囚われていたように思う。
「受けいれることが愛するということ」だという思い込みに、アタシは縛られていた。
「自分を大切にする」というあたりまえのことにさえ、何か大切なことを裏切るような罪悪感に似た申し訳なさを感じていたのだ。
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結婚は男にとってゴールで、女にとってはスタートなのだそうだ。
恋も、ある意味ではそうだと思う。
初めての恋をスタートさせたボクは、想いを受け止めてもらえたという成果の確認ばかりを求めていた。
そして、これといった将来の夢もなく、社会的に何の力も無いボクは、それが終われば、何をすればいいのかがわからない焦りのような気持ちだけが残った。
それはとても煩わしくて、そんな無責任なクセに、手にしたものへの権利主張だけはあった。
幼い暴君。
それ以外に、あの頃の自分を表す言葉が思い浮かばない。
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男の人と女の人は、出会いと別れを繰り返す。
そーやって、一生のパートナーに出会うのだ。
どこかでわかっていたハズなんだけど。
初めてのつながりに、アタシは永遠に続くような幻想を抱いていたし、それを失った時、もう二度とアタシにはそんなものが訪れないような気がして、この宇宙のすべてから見放されたような気さえした。
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あれからのボクは、気楽に身軽にいろんなことを楽しんでいるように生きた。
でも、それは、その気になればいつでも戻れる場所から、強がって遠ざかろうとする気持ちに似ていた。
今になって、そのすべてが男の思い上がりだと気づくのだけれど。
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今になって思う、アタシはあの時、恋をしてたのだろうかと。
ただ、恋人という関係に憧れていただけなんじゃないかと。
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同窓会の報せがきた。
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恋しさはないのだけれど、手探りで共に時を過ごした、そんな懐かしさだけは、少しある。
ラジオで2人のプロに表現をしていただく。
その基になるもの。
そうやって考えた時、『2人のプロが、できるだけ均等にその実力を発揮できるもの』というルールが、ボクの中に浮かびました。
男女2人の一人称が交互に……。
章ごとにってのは記憶にあるけど、掛け合いのように交互のものというのは、あまり記憶にありません。
でも、こーゆー企画だからこそ許される形かもと挑戦しました。
こーゆー企画って、自分の中にどれだけの発想や視点の引き出しがあるか?という挑戦の意味もあると思っているので。
小説向きではなく企画に合わせる気持ちだけで書いた、物語と言えない作品。
中身は今風の恋愛観とは、ほど遠いかもしれませんけどね。